医療用麻薬の処方を受けたとき、
「モルヒネとオキシコドンは何が違う?」
「フェンタニル貼付剤に切り替える理由は?」
「便秘や眠気はどこまで説明すればいい?」
「患者さんから“麻薬って依存しませんか?”と聞かれたらどう答える?」
と迷った経験はないでしょうか。
医療用麻薬は、がん疼痛をはじめとした強い痛みをコントロールするうえで重要な薬です。
一方で、薬剤ごとに剤形、代謝・排泄、使われる場面が異なり、便秘・悪心・眠気・呼吸抑制など注意したい副作用もあります。
さらに薬局では、通常の医薬品とは異なる保管・記録・廃棄などの管理も必要です。
この記事では、新人・若手薬剤師が医療用麻薬の処方を見たときに困らないよう、
- 代表的な医療用麻薬の違い
- 処方から考えたいこと
- 副作用の確認
- 患者さんへの説明
- フェンタニル貼付剤の注意点
- 薬局での管理
まで、実務目線でわかりやすく解説します。
- 医療用麻薬とは?「怖い薬」ではなく痛みをコントロールする薬
- 代表的な医療用麻薬4剤の違い
- モルヒネ|基本となるオピオイドの一つ
- オキシコドン|徐放製剤と速放製剤の役割を整理する
- フェンタニル|貼付剤だからこそ注意したいポイントがある
- ヒドロモルフォン|少量でも作用する強オピオイド
- 医療用麻薬を見たら「薬剤名」だけでなく5つを確認する
- 医療用麻薬で確認したい4つの副作用
- 「麻薬を使うと依存症になる?」と聞かれたら
- 患者さんへの説明で避けたい言い方
- 医療用麻薬の管理|薬局では通常の薬と扱いが異なる
- 在宅医療では薬剤師の確認がさらに重要になる
- 医療用麻薬の処方を見たときのチェックポイント
- まとめ|医療用麻薬は「薬の強さ」より患者さんの状態を見る
- 参考文献
医療用麻薬とは?「怖い薬」ではなく痛みをコントロールする薬
医療用麻薬には、モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル、ヒドロモルフォンなどがあります。
これらの多くは、脳や脊髄などにあるオピオイド受容体に作用し、痛みの伝達や感じ方を抑えることで鎮痛作用を示します。
がん疼痛では、非ステロイド性抗炎症薬やアセトアミノフェンだけでは十分に痛みを抑えられない場合や、中等度以上の痛みがある場合などにオピオイド鎮痛薬が使用されます。
ここで薬剤師が意識したいのは、
「麻薬だから強い薬」とだけ考えないことです。
同じオピオイドでも、薬剤によって特徴は異なります。
まずは代表的な4剤を整理してみましょう。
代表的な医療用麻薬4剤の違い
| 成分 | 主な特徴 | 実務で意識したいこと |
|---|---|---|
| モルヒネ | 歴史が長く、経口・注射など複数の剤形がある | 腎機能低下時は活性代謝物の蓄積に注意 |
| オキシコドン | 経口製剤を中心に広く使用される | 徐放製剤と速放製剤の役割を区別する |
| フェンタニル | 強力なオピオイド。貼付剤・注射剤などがある | 貼付剤は発熱・熱源・貼付方法にも注意 |
| ヒドロモルフォン | 強オピオイドの一つ。経口剤・注射剤がある | 少量でも作用するため規格・用量をよく確認 |
「どの薬が一番強いか」だけで覚えるより、
患者さんの状態、投与経路、腎機能、これまで使用していたオピオイド、副作用
から処方意図を考える方が実務では役立ちます。
モルヒネ|基本となるオピオイドの一つ
モルヒネは、がん疼痛治療で長く使用されてきた代表的な強オピオイドです。
経口剤だけでなく注射剤など複数の投与方法があり、患者さんの状態に合わせて使われます。
薬剤師として特に意識したいのが腎機能です。
モルヒネには活性を持つ代謝物があり、腎機能が低下すると蓄積しやすくなるため、眠気などの副作用が強く出ていないか確認することが大切です。
「モルヒネ=終末期に使う薬」というイメージを持つ患者さんもいますが、使用開始そのものが病状の最終段階を意味するわけではありません。
必要な痛みを適切にコントロールするために使用される薬であることを説明します。
オキシコドン|徐放製剤と速放製剤の役割を整理する
オキシコドンも、がん疼痛でよく使用される強オピオイドです。
薬局では、
- 定期的に使用する徐放製剤
- 痛みが強くなったときに使用する速放製剤
が処方されることがあります。
ここで新人薬剤師が最初に理解しておきたいのが、ベースの鎮痛とレスキューの違いです。
徐放製剤は持続する痛みを抑えるために使用し、速放製剤は突出痛など一時的に強くなる痛みに対して使用します。
患者さんから、
「痛いときだけ定期薬を飲めばいいですか?」
と聞かれることがありますが、持続痛に対する定期薬は医師の指示通り継続することが基本です。
一方、レスキューについては、
- どの薬を使うのか
- 1回量
- どのタイミングで使用するのか
- 使用後に痛みが改善したか
- 1日に何回程度使用しているか
まで確認できると、より実践的な服薬フォローになります。
特にレスキューの使用回数が増えている場合は、疼痛コントロールが不十分になっている可能性があるため、医師への情報提供につながる重要な情報です。
フェンタニル|貼付剤だからこそ注意したいポイントがある
フェンタニルは非常に強力なオピオイドで、注射剤や貼付剤などがあります。
薬局で特に注意したいのがフェンタニル貼付剤です。
貼るだけなので患者さんや家族にとって使いやすい一方、
「貼ったらすぐに効く」
「どの患者さんでも最初から使える」
という薬ではありません。
製剤ごとに適応や切り替え方法が定められているため、処方された製品の電子添文や適正使用資材を必ず確認します。
また、貼付剤では次の点も重要です。
- 指定された間隔で貼り替える
- 前回の貼付剤を剥がしたことを確認する
- 貼付部位を確認する
- 傷や皮膚炎のある場所を避ける
- カイロなどの熱源を直接当てない
- 使用済み製剤も適切に管理する
- 子どもや第三者が触れないようにする
特に入浴、電気毛布、カイロ、発熱など「熱」に関する質問は実際の服薬指導でも重要です。
痛みの治療では、オピオイドだけでなくNSAIDsやアセトアミノフェンが併用されることもあります。NSAIDsの違いはこちらの記事で解説しています。

ヒドロモルフォン|少量でも作用する強オピオイド
ヒドロモルフォンも強オピオイドの一つです。
薬剤師が特に注意したいのは、モルヒネなどと数字だけを比較しないことです。
オピオイドは薬剤ごとに力価が異なるため、
「前の薬が○mgだったから、この薬も同じ○mg」
とは考えられません。
オピオイドを別の薬へ変更する「オピオイドスイッチング」では、換算量だけでなく患者さんの疼痛、副作用、全身状態などを考慮して用量が設定されます。
処方変更を見たときは、
「薬が変わった」
だけで終わらせず、
なぜ変更されたのか
まで考えてみると処方意図が見えやすくなります。
例えば、
- 痛みが十分に抑えられない
- 眠気や吐き気が強い
- 腎機能が低下している
- 内服が難しくなった
- 在宅療養に合わせて剤形を変えたい
など、変更にはさまざまな背景があります。
医療用麻薬を見たら「薬剤名」だけでなく5つを確認する
医療用麻薬の処方を見たときは、私は次の5つを確認すると整理しやすいと思います。
1.何の痛みに使っているか
まずは疼痛の原因です。
「がん患者だからオピオイド」と単純に考えるのではなく、
- 痛みの部位
- 持続痛か突出痛か
- 痛みの強さ
- 日常生活への影響
なども確認できると、処方内容を理解しやすくなります。
2.定期薬かレスキューか
オピオイドでは、定期薬とレスキューの役割を分けて考えることが重要です。
レスキュー薬が処方されている場合は、患者さんが使い方を理解しているか確認します。
3.痛みはコントロールできているか
「痛みはどうですか?」だけでは、十分な情報が得られないことがあります。
例えば、
「薬を飲む前は10段階でどのくらい痛いですか?」
「レスキューを使うとどのくらい楽になりますか?」
「夜は眠れていますか?」
「痛みでできなくなったことはありませんか?」
など、具体的に聞くと評価しやすくなります。
4.副作用は出ていないか
オピオイドでは鎮痛効果だけでなく、副作用を同時に確認します。
5.自己判断で増減していないか
痛みが強いからと定期薬を自己判断で増やしたり、反対に「麻薬が怖い」と減らしたりしていないかも確認します。
医療用麻薬で確認したい4つの副作用
便秘
オピオイドを使用すると腸管運動が抑制され、便秘が起こりやすくなります。
そのため、オピオイド開始時から排便状況を確認することが重要です。
薬局では、
- 最終排便日はいつか
- 排便回数
- 便の硬さ
- 腹部膨満感
- 腹痛・嘔吐の有無
- 現在使用している下剤
を確認します。
便秘が続いてから対処するのではなく、最初から便秘を意識してフォローするのがポイントです。
オピオイド誘発性便秘では、一般的な下剤だけでなく、末梢性μオピオイド受容体拮抗薬であるナルデメジンなどが使用されることもあります。
オピオイド使用中の便秘薬の選び方はこちらで詳しく解説しています。

吐き気・嘔吐
オピオイド開始時や増量時には、吐き気・嘔吐がみられることがあります。
患者さんには、
「薬が合わないから我慢して飲むしかない」
と思わせないことが大切です。
症状によっては制吐薬を使用したり、オピオイドを変更したりすることもあります。
食事や水分摂取に影響するほどの吐き気が続いていないか確認します。
眠気
開始直後や増量後には眠気が出ることがあります。
ただし、
「オピオイドを飲んでいるから眠くて当然」
と決めつけてはいけません。
強い眠気や意識状態の変化がある場合は、薬剤の影響だけでなく、全身状態の変化も含めて評価が必要です。
服薬指導では、開始時や増量時には特に体調変化を確認するよう伝えます。
呼吸抑制
オピオイドの重大な副作用として呼吸抑制があります。
適切に用量調整されている患者さんに対して必要以上に怖がらせる説明をする必要はありませんが、
- 急激な増量
- 過量使用
- 強い眠気
- 意識状態の変化
- 他の中枢神経抑制薬との併用
などには注意します。
患者さんや家族から「ずっと寝ていて起こしても反応が悪い」「呼吸がおかしい」などの相談があった場合は、単なる眠気として様子を見ないことが重要です。
「麻薬を使うと依存症になる?」と聞かれたら
医療用麻薬について患者さんからよく聞かれる質問の一つが、
「麻薬を飲んだら中毒になりませんか?」
です。
ここでは「依存」という言葉を分けて考える必要があります。
耐性
同じ量を継続して使用することで、薬の作用が以前より弱くなることがあります。
身体依存
継続使用によって体が薬の存在に適応し、急に中止すると離脱症状が起こることがあります。
これは「薬物依存症」と同じ意味ではありません。
そのため、長期間使用しているオピオイドを自己判断で急に中止しないことが大切です。
依存症への不安
がん疼痛に対して医師の管理のもとで適切に医療用麻薬を使用することと、乱用目的で麻薬を使用することは分けて考える必要があります。
国立がん研究センターも、医師の指示に従って適切に医療用麻薬を使用することが重要であると案内しています。
患者さんには、
「痛みに合わせて医師が量を調整しながら使う薬です。自己判断で増減せず、痛みや副作用を一緒に確認しながら使っていきましょう」
と説明すると、必要以上に不安を与えにくいと思います。
患者さんへの説明で避けたい言い方
医療用麻薬では、薬剤師の一言が患者さんの不安を強めてしまうことがあります。
例えば、
「かなり強い薬です」
「麻薬なので注意してください」
「最後に使う薬です」
とだけ説明すると、
「そんなに病気が悪いの?」
「飲まない方がいいのでは?」
と感じる患者さんもいます。
もちろん安全性について説明する必要はありますが、最初に恐怖を与える必要はありません。
例えば、
「痛みをしっかり抑えるためのお薬です」
「痛みと副作用を確認しながら量を調整していきます」
「便秘や眠気など気になる症状があれば教えてください」
と説明した方が、治療の目的が伝わりやすくなります。
医療用麻薬の管理|薬局では通常の薬と扱いが異なる
医療用麻薬は、麻薬及び向精神薬取締法などに基づき厳格に管理されます。
薬局で取り扱うには麻薬小売業者免許が必要で、麻薬は適切な設備で保管し、受け払いについて帳簿へ記録します。
厚生労働省の麻薬管理マニュアルでは、麻薬小売業者の帳簿について、最終記載の日から2年間保存することが示されています。
保管
麻薬は、通常の医薬品とは区別し、法令・麻薬管理マニュアルに従って保管します。
「麻薬なので金庫」という知識だけでなく、
入庫→調剤→交付→返品・廃棄まで数量がつながっているか
という視点を持つことが重要です。
帳簿
入荷や払い出しなど、必要な事項を麻薬帳簿へ記録します。
新人のうちは特に、
「後でまとめて書けばいい」
ではなく、薬局で決められた手順に沿ってその都度確認する習慣をつけることが大切です。
廃棄
麻薬の廃棄は、状況によって手続きが異なります。
例えば患者さんや家族から返却された調剤済み麻薬を廃棄した場合には、廃棄後30日以内に「調剤済麻薬廃棄届」を都道府県知事に提出することが定められています。
期限切れ在庫などの廃棄とは手続きが異なるため、
「麻薬の廃棄は全部同じ」と覚えないこと
がポイントです。
実際の対応では、最新の厚生労働省資料と管轄する都道府県の案内を確認してください。
在宅医療では薬剤師の確認がさらに重要になる
在宅医療では、医療用麻薬を患者さん自身や家族が管理する場面があります。
薬剤師は薬を届けるだけではなく、
- 痛みが十分に取れているか
- レスキューを何回使っているか
- 便秘や眠気が強くなっていないか
- 飲み忘れや使用間違いがないか
- 貼付剤が正しく交換されているか
- 残薬はいくつあるか
- 家族が管理方法を理解できているか
などを確認します。
特にレスキューの使用回数や残薬数は、疼痛コントロールを評価するヒントになります。
薬局では見えなかった問題が、患者宅へ行くことで初めて分かることもあります。
在宅で薬剤師が処方提案に関わった実例はこちらで紹介しています。

医療用麻薬の処方を見たときのチェックポイント
最後に、若手薬剤師が確認したいポイントをまとめます。
処方監査
- 薬剤・剤形・規格は適切か
- 定期薬とレスキューを区別できているか
- 新規開始か継続か
- 増量・減量・オピオイド変更がないか
- 腎機能や肝機能に問題はないか
- 併用薬に注意が必要なものはないか
服薬指導
- 現在の痛みはどの程度か
- 痛みで困っている生活動作はないか
- レスキューを何回使用しているか
- 便秘はないか
- 吐き気・眠気はないか
- 自己判断で増減していないか
- 患者さんや家族が医療用麻薬に不安を持っていないか
在宅・継続フォロー
- 残薬数は合っているか
- 貼付剤の交換日は守れているか
- 家族が管理方法を理解しているか
- 疼痛や副作用が以前より変化していないか
「医療用麻薬が出ている」という事実だけを見るのではなく、
痛み・副作用・生活・管理の4方向から見る
と、薬剤師として確認すべきことが整理しやすくなります。
まとめ|医療用麻薬は「薬の強さ」より患者さんの状態を見る
医療用麻薬は、がん疼痛などの強い痛みを和らげ、患者さんの生活を支える重要な薬です。
モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル、ヒドロモルフォンなど、同じ強オピオイドでも特徴は異なります。
薬剤名だけを覚えるのではなく、
なぜこの薬なのか
なぜこの剤形なのか
痛みは取れているのか
副作用は出ていないか
まで考えることが大切です。
そして、患者さんが医療用麻薬に不安を感じているときこそ、薬剤師の出番です。
「麻薬だから怖い薬」と説明するのではなく、
「痛みを抑えて生活を支えるための薬であり、安全に使うために医療者が一緒に確認していく」
ということを伝えられると、服薬指導の質も大きく変わります。
医療用麻薬の処方を見たら、薬そのものだけではなく、その先にいる患者さんの痛みや生活まで考えてみましょう。
参考文献
- 厚生労働省.医療用麻薬適正使用ガイダンス ~がんの痛みの治療における医療用麻薬の使用と管理のガイダンス~(令和6年)
https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001245820.pdf
医療用麻薬の適正使用、がん疼痛治療、副作用対策、患者・家族への説明などを確認する際の基本資料です。 - 厚生労働省.薬局における麻薬管理マニュアル
https://www.mhlw.go.jp/bunya/iyakuhin/yakubuturanyou/dl/mayaku_kanri_02.pdf
薬局における麻薬小売業者の免許、保管、帳簿、譲渡・譲受、廃棄などの実務を確認できます。 - 国立がん研究センター がん情報サービス.痛み
https://ganjoho.jp/public/support/condition/pain/index.html
がん疼痛に対する非ステロイド性抗炎症薬、アセトアミノフェン、医療用麻薬の使用や、便秘・吐き気・眠気などの副作用について患者向けに解説されています。 - 日本緩和医療学会.がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン 2020年版
https://www.jspm.ne.jp/publication/guidelines/individual.html?entry_id=85
がん疼痛の評価、オピオイドの選択・投与、オピオイドスイッチング、副作用対策などを確認する際の主要なガイドラインです。


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