DPP-4阻害薬/GLP-1受容体作動薬/SGLT2阻害薬の境界と使い分け【最新版・完全版】

医薬品等解説

糖尿病治療薬の選択肢はこの10年で劇的に変化しました。
これまで主流だったSU剤(スルホニル尿素薬)やメトホルミンに加え、「DPP-4阻害薬」「GLP-1受容体作動薬」「SGLT2阻害薬」という新しい系統の薬が登場しています。
これらは単に血糖を下げるだけでなく、体重管理や心血管・腎臓の保護といった、より広い臨床目標に向けた治療を可能にしました。

この記事では、薬剤師が処方監査や服薬指導の現場で迷わないように、3剤の違いと使い分け、安全性や併用の考え方を、わかりやすく整理して解説します。


① SU剤など従来薬との違いと共通点をざっくり整理

糖尿病治療の歴史を振り返ると、従来のSU剤やビグアナイド薬は「血糖を下げること」そのものを目的としていました。
しかし、これらの薬にはいくつかの課題があります。

SU剤(グリメピリドなど)は膵臓のβ細胞を直接刺激してインスリンを分泌させるため、効果は強い反面、低血糖や体重増加を起こしやすい傾向があります。
また、ビグアナイド薬(メトホルミン)はインスリン抵抗性を改善する優れた薬ですが、腎機能障害や消化器症状に注意が必要です。

このような課題を補う形で登場したのが、DPP-4阻害薬・GLP-1受容体作動薬・SGLT2阻害薬です。
これら3剤には、次のような共通点があります。

・血糖依存的に作用するため、低血糖を起こしにくい
・体重を増やしにくく、GLP-1やSGLT2ではむしろ減少傾向を示す
・心血管や腎臓への保護効果を重視した臨床エビデンスがある

つまり、これらの薬は「血糖値を下げる治療」から「全身を守る糖尿病治療」へと進化をもたらした存在と言えます。


② なぜ3剤を使い分ける必要があるのか

糖尿病は単なる血糖値の上昇だけではなく、心血管疾患、腎障害、肥満、脂質異常などが複雑に関係する全身の代謝疾患です。
したがって、血糖値の数字を下げるだけでは十分ではなく、「どの合併症を防ぐか」「どんな体質の患者か」によって薬の選択を変える必要があります。

3剤を併用・使い分ける理由は、大きく次の3点です。

  1. 作用点が異なるため、補い合うことができる
     DPP-4とGLP-1は膵臓(インスリン分泌系)に作用し、SGLT2は腎臓(糖排泄)に働きます。
     作用点が違うため、組み合わせることでより自然な血糖コントロールが可能です。
  2. 合併症や体質ごとに得意分野が異なる
     GLP-1は体重減少や心血管リスク低下、SGLT2は心不全・腎保護効果、DPP-4は安全性の高さで高齢者にも使いやすいなど、患者背景で主役が変わります。
  3. 副作用や服薬負担のバランスを取る
     GLP-1は強力な薬ですが悪心や注射がハードルになることもあり、SGLT2は脱水リスク、DPP-4は効果が穏やかですが安心感がある。
     どの薬をどのタイミングで使うかは、患者ごとの生活やリスクを踏まえた総合判断が求められます。

このように3剤は競合関係ではなく、むしろ「それぞれの得意分野を活かし合う関係」にあります。
そのため、どの薬を中心に据えるかが治療全体の方向性を決める大切なポイントになります。


③ 各薬剤の分類ごとの特徴と違いを詳しく解説

DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬は、いずれも糖尿病治療に欠かせない存在となりました。
ここでは、それぞれの作用・特徴・注意点を詳しく見ていきましょう。

● DPP-4阻害薬

DPP-4はインクレチン(GLP-1やGIP)を分解する酵素です。
この酵素を阻害することで内因性GLP-1濃度を高め、食事摂取時に自然な形でインスリン分泌を促します。
効果は穏やかですが低血糖を起こしにくく、体重にもほとんど影響を与えません。
シタグリプチンやアログリプチンなどが代表的で、腎機能に応じて用量を調整します。
リナグリプチンは腎排泄を受けにくいため、高齢者でも使いやすい薬のひとつです。
まれに膵炎や関節痛の報告があるため、違和感がある場合は医師へ報告が必要です。

● GLP-1受容体作動薬

GLP-1は「食事を取ると分泌されるホルモン」で、インスリンを出しやすくし、同時に食欲を抑えます。
その作用を人工的に再現するのがGLP-1受容体作動薬です。
リラグルチド(ビクトーザ)やセマグルチド(オゼンピック/リベルサス)などが代表で、血糖降下作用に加え、体重減少や心血管イベント抑制効果も確認されています。
一方で、悪心や食欲低下などの消化器症状が生じることがあるため、初期は少量からの漸増が推奨されます。
注射剤では投与時刻に食事との厳密な関係はありませんが、悪心が強い場合に医師の判断で食後に投与を調整することがある程度です。
ただし、これは正式な添付文書上の用法ではなく、あくまで副作用対策の一環です。
経口セマグルチド(リベルサス)は、必ず起床時の空腹時に120mL以下の水で服用し、服用後30分は飲食や他薬を避ける必要があります。
この点は特に服薬指導で誤解のないよう注意が必要です。

● SGLT2阻害薬

SGLT2は腎臓の近位尿細管でブドウ糖を再吸収する輸送体です。
これを阻害することで血中の糖を尿として排出し、インスリンを使わずに血糖を下げます。
エンパグリフロジン(ジャディアンス)やダパグリフロジン(フォシーガ)が代表的です。
SGLT2阻害薬の大きな特徴は、体重減少・血圧低下・心腎保護といった「プラスの副次効果」が多い点です。
一方で、尿量増加による脱水や尿路感染、ケトアシドーシスには注意が必要です。
eGFRが基準以下では効果が減弱するため、腎機能チェックを忘れないことが重要です。


④ 一目でわかる比較表

分類代表薬作用機序主な副作用服用特徴・エビデンス注意点
DPP-4阻害薬シタグリプチン等GLP-1分解酵素阻害関節痛、膵炎(稀)1日1回低血糖リスク低腎機能調整必要
GLP-1受容体作動薬リラグルチド等GLP-1受容体刺激悪心・嘔吐1日〜週1体重減少、CV保護経口剤は空腹時厳守
SGLT2阻害薬エンパグリフロジン等腎SGLT2阻害→尿糖排泄脱水、尿路感染1日1回心腎保護eGFR低値で注意

(出典:添付文書、PMDA、JDS糖尿病治療ガイド2023、ADA/EASD 2024)


⑤ 病態・背景別の使い分け指針

患者背景推奨系統理由
肥満・心血管疾患ありGLP-1またはSGLT2体重減少・心血管イベント抑制
腎機能低下DPP-4またはエンパグリフロジン腎保護データあり
低血糖リスク高いDPP-4血糖依存的作用で安全
胃腸障害があるSGLT2またはDPP-4GLP-1は悪心増悪の可能性
注射に抵抗があるDPP-4または経口セマグルチド経口治療が可能

⑥ 相互作用と安全性のポイント

薬剤の特性を理解し、相互作用や安全性にも注意することが大切です。

・DPP-4阻害薬は主に腎排泄。リナグリプチンのみ胆汁排泄で相互作用が少ない。
・SGLT2阻害薬はUGT代謝で薬物相互作用はほとんどない。
・GLP-1作動薬はペプチド製剤のためCYP代謝を受けず、他剤との併用が比較的安全。

一方で、SU薬やインスリンとの併用では低血糖が起こりやすくなるため、特にGLP-1・DPP-4との併用時は用量調整が必要です。
また、経口GLP-1(リベルサス)は吸収が極めてデリケートで、起床時以外の服用では効果が得られにくいため、服薬指導時に必ず確認しましょう。


⑦ 減量・中止時の注意

GLP-1作動薬を中止すると、食欲や体重が戻りやすく、血糖上昇も起こりやすくなります。
SGLT2阻害薬を中止すると体重や浮腫が戻ることがあるため、体重変化を追跡しましょう。
DPP-4阻害薬は漸減の必要がなく、他剤への切り替えも容易です。


⑧ 現場で使える実践チェック

服薬指導時のポイントを簡潔に整理します。

● 服薬指導チェックリスト

  1. 服用タイミングを確認(経口GLP-1は起床時空腹に服用)
  2. 低血糖リスクと症状を説明
  3. 体重・食欲・尿量など生活変化を聞き取る
  4. 脱水や便秘など軽微な副作用も見逃さない
  5. 「この薬は心臓や腎臓を守る薬」であると伝える

● よくある質問Q&A

Q:GLP-1とDPP-4を併用できますか?
A:作用経路が重なるため併用は推奨されません。

Q:SGLT2で尿糖が出るのは異常ですか?
A:正常な作用です。心配いりません。

Q:高齢者での注意点は?
A:脱水・ふらつき・食欲低下に注意。

Q:GLP-1で悪心が強いときは?
A:用量を漸増し、投与時刻を一定に保つ。注射製剤では医師判断で食後投与とする場合もあるが、正式な用法ではない。経口GLP-1は起床時の空腹時服用を厳守。

Q:経口GLP-1を飲み忘れた場合は?
A:1日飛ばして翌日に再開。

● 中止・減量早見表

症状原因薬対応
持続的悪心GLP-1減量・一時中止
脱水・倦怠感SGLT2水分補給・休薬
低血糖SU併用SU減量
eGFR低下SGLT2中止検討
体重急減GLP-1用量調整

⑨ まとめ:薬剤師が押さえる3つの要点

  1. DPP-4は安全性重視、GLP-1は体重・血糖改善、SGLT2は心腎保護が特徴。
  2. 病態やリスクに合わせて薬剤を個別化して選ぶことが重要。
  3. 副作用の初期サインを早期に察知し、治療継続を支援するのが薬剤師の役割。

参考文献

糖尿病診療ガイドライン2024,5章 血糖降下薬による治療(インスリンを除く)

https://www.jds.or.jp/uploads/files/publications/gl2024/05.pdf

リベルサス添付文書

https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/620023_2499014F1021_1_06

ビクトーザ皮下注添付文書

https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/620023_2499410G1021_1_13

ジャヌビア添付文書

https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/170050_3969010F1034_2_35

ジャディアンス添付文書

エンパグリフロジン
独立行政法人 医薬品医療機器総合機構:医薬品副作用被害救済や稀少病認定薬の研究振興調査などの業務案内。

知識を活かせる環境で、糖尿病治療をもっと良くする

DPP-4/GLP-1/SGLT2の違いを理解し、患者さんの背景に合わせて提案することは、薬剤師の大きな価値です。
しかし現場によっては、「せっかく学んだのに活かす機会が少ない」「多職種連携ができる環境で働きたい」と感じることもあります。

もし今、「もっと専門性を発揮したい」「心腎保護まで見据えた治療提案ができる環境で働きたい」と感じるなら、
一度キャリアの専門家に相談してみるのも選択肢のひとつです。

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