認知症治療薬の違いと使い分け【完全版】(ドネペジル/ガランタミン/リバスチグミン/メマンチン)

医薬品等解説

薬剤が同じでも“合う・合わない”が出る理由から理解する

在宅医療や高齢者施設で患者さんと向き合っていると、
「同じ病気なのに薬の反応が全然違う」
「薬を変えたら急に落ち着いた、逆に不穏になった」
という場面によく遭遇します。

これは認知症の治療薬が、
「脳のどの部分に働きかけるか」
「副作用として起こりやすい反応」
「患者さんの生活背景との相性」
によって大きく評価が変わるためです。

とくに、
・夜間不眠
・攻撃性
・徘徊
・食欲低下
など、BPSD(行動・心理症状)は薬の影響を受けやすく、
適切な薬を選ぶことで本人だけでなく介護者の負担も大きく変わります。

本記事では4つの主要薬剤について、
「なぜその薬を使うのか」「どんな患者さんに向いているのか」を解説していきます。



目的は“改善”ではなく“進行を遅らせること”

認知症治療薬は、風邪薬のように症状をすぐ改善させる薬ではありません。
どの薬も「認知症を治す」ことはできず、目的は次の3つです。

① 認知機能の低下スピードをできるだけ遅らせる

脳の神経伝達物質の働きを補助することで、
物忘れ・注意力・判断力の低下スピードを緩やかにします。

② BPSD(興奮・不安・不眠・攻撃性など)を抑え、生活を安定させる

本人だけでなく介護者の負担を減らすためにも重要です。

③ 周囲のサポートを受けながら、生活の質(QOL)を落とさない

飲み忘れが多い人にはパッチ剤を使う、
不眠がある人には夜の薬を避けるなど、
薬剤は生活状況とセットで考えます。



■薬剤別の詳しい解説:4剤の“性格”を理解する

ドネペジル

「幅広いステージで使える“まず最初に検討される薬”」

ドネペジルは最も処方頻度が高い認知症治療薬です。
特にアルツハイマー型認知症では第一選択として使われることが多く、

「まずはこれから始める」
という医師が非常に多い薬でもあります。

✔ こんな特徴があります

・1日1回で使いやすい
・軽度〜重度まで幅広く適応
・医師・看護師・介護職が最も慣れている薬

✔ 説明文をより丁寧にすると…

ドネペジルは“脳の興奮をやや高める”ように働くため、
集中力や覚醒をサポートします。
一方で、この作用が強く出ると

・寝つけない
・夜に活動性が上がる
・興奮が強くなる

といった副作用につながるため、
就寝前の投与と相性が悪いケースがあります。

✔ ドネペジルが向いているタイプ

・昼間の活動性を上げたい人
・比較的若く認知症が進行中の人
・増量ステップを丁寧に追えるご家族がいる


ガランタミン

「覚醒度を保ちやすく、“ぼーっとする”症状が目立つ人に」

ガランタミンは
アセチルコリンを増やす+ニコチン受容体を刺激する
という2つの作用を持ちます。

このため、
注意力・覚醒を維持しやすい
という特徴があります。

✔ 丁寧に説明すると…

「最近ぼんやりしている時間が増えた」
「昼間ほとんど眠っている」
といったタイプの方では改善を感じやすい反面、

・胃がムカムカする
・食欲が落ちる

といった消化器症状が出やすい傾向があります。

夏場の脱水には特に注意します。

✔ ガランタミンが向いているタイプ

・昼間の眠気が多い、ぼんやりしている
・食事はしっかり取れる
・内服管理が比較的安定している(1日2回または徐放1回)

リバスチグミン(パッチ)

「飲めない・飲み忘れる人には“最強”。レビー小体型にも使われる」

リバスチグミンは唯一の貼付剤(パッチ)として使われ、
飲み忘れが多い方、嚥下が難しい方で大きな力を発揮します。

✔ 丁寧に説明すると…

飲み薬が難しい方や、服薬の協力が得にくい方でも、
家族・介護者が背中や肩にパッチを貼るだけで治療が継続できます。

さらにパッチ剤は“血中濃度が一定でブレにくい”ため、
内服より副作用が出にくい利点もあります。

✔ 注意点

ただし皮膚刺激が比較的多いため、
貼る部位をローテーションして管理する必要があります。

✔ リバスチグミンが向いているタイプ

・飲み忘れが多く、内服管理が難しい
・嚥下障害がある
・レビー小体型認知症の疑いがある
・家族や施設で貼付管理ができる


メマンチン

「興奮・攻撃性などのBPSDに特に効果。中等度〜高度で本領発揮」

メマンチンはChE阻害薬とは全く別の経路(NMDA受容体)に作用します。
そのため、アセチルコリンを増やす薬と併用できる点が大きな特徴です。

✔ 丁寧に説明すると…

物忘れに対する効果は控えめですが、
BPSD(興奮・攻撃性・不安・徘徊など)の改善に強いエビデンスがあります。

介護者・家族にとって最も負担が大きい症状に効果があるため、
「薬を変えたら急に落ち着いた」という印象を持たれやすい薬です。

✔ 注意点

・腎機能が悪いと減量が必要
・急に増量すると不穏が悪化することがある

✔ メマンチンが向いているタイプ

・興奮、不安、攻撃性が強い
・中等度〜高度の認知症
・ChE阻害薬が合わなかった(徐脈など)



■比較表(丁寧な補足つき)

薬剤名適応認知機能BPSD副作用投与説明補足
ドネペジル軽度〜高度△(無気力改善)不眠、徐脈1日1回“覚醒を高める”ため刺激が強く出ることがある
ガランタミン軽度〜中等度嘔気、脱水1日2回/1回ぼんやりがちの方に向く。胃腸症状注意
リバスチグミン軽度〜中等度○(レビーに)皮膚炎、体重減少パッチ飲み忘れ・嚥下困難で最有力
メマンチン中等度〜高度△(悪化防止)めまい、混乱1日1回興奮・攻撃性などに強い



“患者背景”で使い分ける実践アルゴリズム

▶「薬を飲むのが難しい」「飲み忘れが多い」

リバスチグミン
(貼るだけでよく、パッチ管理さえできれば最強)

▶「落ち着きがなく、家族が疲弊している」

メマンチンの追加・切替
(BPSD改善のエビデンスが強い)

▶「夜眠れない・夜間せん妄が多い」

ドネペジル就寝前は避ける
→ 朝投与へ変更、または他剤へスイッチ
(原因が薬の刺激作用の場合が意外と多い)

▶「レビー小体型の疑い(幻視・パーキンソン症状)」

リバスチグミンが第一候補

▶「徐脈・不整脈がある」

→ ChE阻害薬は慎重
メマンチンに軍配



■薬剤師が介入できる重要ポイント

●貼付管理(リバスチグミン)

・貼り忘れがないようスケジュールを可視化
・皮膚トラブルがあっても続けたい場合は貼付部ローテーション

●食欲低下・体重減少のチェック

ガランタミン、リバスチグミンで特に重要。
「食が細くなった」は副作用の初期兆候のことも多い。

●徐脈・血圧低下

ChE阻害薬で起こるため、
バイタルを定期的にとれる環境では必ず確認する。

●BPSDの原因アセスメント

・薬の影響
・生活リズムの乱れ
・環境刺激
・脱水・便秘

薬剤師がこれらの“非薬物要因”を拾えると、
医師への情報提供書の質が一気に上がります。


■まとめ(さらにわかりやすく)

  1. 認知症治療薬は記憶・注意を助ける薬と、興奮を抑える薬で分けて理解すると混乱しない。
  2. 在宅や施設では「飲めるか」「夜眠れるか」「介護負担はどうか」が薬選択に直結する。
  3. 薬剤師の視点(貼付管理・食欲低下・徐脈チェック)は、医師には拾いにくい重要な情報になる。



今の職場でいいのかなと思ったら相談してみよう

認知症患者さんの支援は、薬の知識だけでなく、
生活状況・介護負担・家族関係といった多面的な視点が求められる非常に奥深い領域です。

しかし現在の薬局業務では、
「時間が足りず、患者さんや家族と十分に話せない」
「在宅に関われる環境が限られている」
という悩みを抱える薬剤師も少なくありません。

もし、もっと在宅や高齢者施設と関わり、
“生活に寄り添う薬剤師”としてキャリアを広げたい
という思いがあるなら、在宅に強い求人を取り扱う
ファルマスタッフの情報が参考になります。

在宅専門薬局、施設併設薬局、地域包括ケアに強い薬局など、
今の職場では得られない選択肢を知ることで、
自分のペースで働きながらスキルアップできる道が広がります。


参考文献

BPSDに対応する 向精神薬使用ガイドライン (第3版)

https://dementia-japan.org/wp-content/uploads/2025/06/guideline.pdf?utm_source=chatgpt.com

高齢者の薬物療法適正化

https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000465080.pdf?utm_source=chatgpt.com

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