痛み止め(NSAIDs)の使い分けと副作用リスク

医薬品等解説

はじめに

頭痛、腰痛、関節痛、そして発熱――私たちの日常生活で「痛み止め」を使う場面は数多くあります。その中でも広く使用されているのがNSAIDs(エヌセイド)と呼ばれる薬です。正式には「非ステロイド性抗炎症薬」といい、医療機関で処方されるものから市販薬まで、非常に多くの種類が存在します。とても身近な薬ですが、使い方を誤ると胃の痛みや腎臓のトラブル、さらには心臓のリスクまで引き起こす可能性があります。

この記事では、NSAIDsの基本的なしくみ、使い分けのポイント、そして副作用のリスクについて、薬剤師の視点から解説していきます。



1. NSAIDsとは?しくみと代表的な薬

NSAIDsは、「Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs」の略で、「非ステロイド性抗炎症薬」と訳されます。炎症や痛み、発熱などを抑える効果があります。NSAIDsは、シクロオキシゲナーゼ(COX)という酵素の働きを抑えることで、体内で作られる「プロスタグランジン」という物質の生成を減らします。

プロスタグランジンは、痛みや熱、炎症を引き起こす原因となる物質ですが、同時に胃の粘膜を守ったり、腎臓の血流を調整したりと、身体にとって必要な働きもしています。そのため、プロスタグランジンの生成を抑えるNSAIDsは、効果がある反面、副作用も起きやすいという特徴があります。

分類一般名(商品例)特徴的な使いどころ
解熱・鎮痛に定評イブプロフェン(イブ)風邪による発熱、軽い頭痛、月経痛
即効性と使いやすさロキソプロフェン(ロキソニン)急な頭痛、歯痛、術後痛
鎮痛力の強さジクロフェナク(ボルタレン)慢性腰痛、術後の強い痛み
作用時間の長さナプロキセン(ナイキサン)関節リウマチ、慢性関節痛

ポイント: NSAIDsは「どれも同じ」ではありません。効き方や持続時間、副作用の出やすさが異なるため、症状や体質に応じて使い分ける必要があります。



2. 症状別・患者背景別の使い分け

2-1. 急な痛み・短期間の使用

  • ロキソプロフェン:薬を飲んだ後に体内で活性化する「プロドラッグ型」で、胃の粘膜への影響が少ないとされています。急な頭痛や生理痛、歯の痛みなどに向いており、市販薬でも手に入りやすいのが特長です。
  • イブプロフェン:解熱作用が強く、風邪による発熱や喉の痛みに使われます。比較的副作用が少なく、医療用では5歳から服用が可能です。市販薬については15歳以上からの服用が推奨されています。

2-2. 慢性的な痛み・長期コントロール

  • ナプロキセン:1日2回の服用で長時間効果が続くため、関節リウマチや変形性膝関節症など、慢性的な炎症や痛みに適しています。
  • ジクロフェナク:強い鎮痛作用があり、手術後の強い痛みや重度の腰痛などに使われます。ただし、胃腸への副作用が出やすいため、胃薬との併用が推奨されます。

2-3. 高齢者や腎機能が低下している人

NSAIDsは腎臓に負担をかけることがあるため、高齢者や腎機能が低い人では慎重に使用する必要があります。どうしても使用する場合は、胃や腎臓への負担が少ないものを選び、最低限の量・期間にとどめます。また、アセトアミノフェン(カロナールなど)への切り替えを検討することもあります。

2-4. 心血管疾患のリスクが高い人

長期間のNSAIDs使用は、心血管系疾患のリスクを高めることが知られています。特にセレコキシブやイブプロフェンなどはそのリスクが高いとされています。心疾患の既往がある人は、医師と相談しながら安全な薬剤を選択しましょう。



3. 知っておきたい主な副作用と対策

NSAIDsを使用する上で注意したい主な副作用には、以下のようなものがあります。

副作用しくみ予防・対処方法
胃腸障害(腹痛、胃潰瘍、出血)胃を保護するプロスタグランジンも抑制されるため食後に服用、胃薬(PPIなど)を併用、アルコールを控える
腎機能低下腎臓の血流調整に必要なプロスタグランジンが減るため脱水を避ける、水分補給を意識する、高齢者では定期的な血液検査を受ける
心血管イベント(心筋梗塞など)COX-2阻害による血栓形成リスクの増加高用量・長期使用を避ける、既往歴がある場合は特に注意
アスピリン喘息プロスタグランジンの減少がロイコトリエン増加につながり、喘息発作を誘発喘息や鼻ポリープがある人は事前に医師に相談

補足: 副作用は体質や年齢によっても異なります。特に高齢者では、軽い副作用でも重症化しやすいため、慎重な使用が求められます。



4. 薬剤師が伝えたい服薬のコツ

NSAIDsを安全に使うには、薬を選ぶだけでなく、正しい使い方も大切です。薬剤師が普段から患者さんに伝えているポイントを紹介します。

  1. 水で飲む:ジュースやお茶、牛乳などで飲むと薬の吸収に影響が出ることがあります。
  2. 症状が落ち着いたら中止:漫然と飲み続けると副作用リスクが高まります。痛みが治まったら中止しましょう。
  3. 重複に注意:風邪薬や生理痛薬にもNSAIDsが含まれていることがあるため、成分表示を確認しましょう。
  4. 副作用のサインを見逃さない:黒い便や強い胃痛は消化管出血のサインです。すぐに医療機関を受診してください。

5. まとめ

NSAIDsは、私たちの生活に欠かせない重要な薬です。しかし、使い方を間違えれば重大な副作用を引き起こす可能性もあるため、「どの薬を選ぶか」「どのように使うか」をしっかり理解しておくことが大切です。わからないときは、自己判断せずに医師や薬剤師に相談しましょう。



薬剤師のキャリアも“使い分け”が大切です

現在の職場で「やりがいを感じられない」「もっと専門性を高めたい」と悩んでいませんか?

薬剤師専門の転職エージェントを活用することで、病院、在宅、企業、治験、教育など、さまざまな働き方の選択肢から、自分に合ったキャリアを見つけることができます。無料で相談できるエージェントも多く、非公開求人の紹介や書類添削、面接対策などもサポートしてくれます。

まずは一歩踏み出して、あなたの未来の可能性を広げてみませんか?


コメント

タイトルとURLをコピーしました