― 非結核性抗酸菌症にどう向き合うか?
はじめに:MAC肺炎とは?
MAC肺炎とは、「マック菌」とも呼ばれる非結核性抗酸菌(NTM)の一種が肺に感染して起こる慢性的な肺の病気です。
- 非結核性抗酸菌(NTM)とは?
結核菌に似た性質を持つが、結核とは異なる細菌。土や水の中など、自然界に広く存在しています。
人にうつす力(感染力)は弱いが、体力や免疫が低下している人に感染することがあります。 - MAC菌(Mycobacterium avium complex)とは?
NTMの中でも特に頻度が高い菌のグループ。結核と似た症状を起こしますが、治療には長期間を要することが特徴です。
1. MAC肺炎にかかりやすい人の特徴

MAC肺炎は誰でもかかる可能性がありますが、特に以下のような人に多く見られます。
- 痩せ型の中高年女性
ホルモンバランスや体質の影響があるとされ、痩せ型の女性に多く発症します。
とくにタバコを吸わない人でも注意が必要です。 - 肺の持病がある人
以下のような慢性肺疾患を持つ人はリスクが高まります。
・気管支拡張症(気道が拡がって痰がたまりやすくなる病気)
・肺気腫や肺線維症など、肺の構造が変化する病気 - 免疫が低下している人
・がん治療中(抗がん剤や放射線治療)
・ステロイドや免疫抑制剤を使用している
・糖尿病や慢性腎不全など基礎疾患がある
2. 主な症状と診断の流れ

MAC肺炎はゆっくり進行するため、初期には気づかれにくいことも多いです。
よく見られる症状
- 長く続く咳や痰
風邪が治っても咳が何週間も続く場合は要注意です。痰が絡むケースも多いです。 - 微熱・倦怠感
だるさや、37度前後の微熱が続くことがあります。風邪と間違えられやすいです。 - 体重減少・食欲不振
知らないうちに数キロ体重が落ちていることも。食欲がわかない状態が続く場合もあります。 - 血痰
症状が進行してくると、咳と一緒に血が混じることがあります。特に注意が必要なサインです。
診断に必要な検査
- 胸部CTスキャン
レントゲンよりも詳しく肺の状態が見える検査です。MAC肺炎では「気管支拡張」「小結節」「空洞」といった特徴が見られます。 - 喀痰検査(痰の培養)
3回以上の連続した痰を採取して、MAC菌が検出されるかを調べます。 - 血液検査や病理検査(必要に応じて)
身体の炎症の程度や、他の病気との鑑別にも使われます。
3. 治療薬の種類と注意点

MAC肺炎の治療は「3種類の抗菌薬を一緒に使う」のが基本です。1種類だけでは菌が耐性を持ってしまう危険があるためです。
標準的な3剤併用療法
- クラリスロマイシン(CAM)
・マクロライド系と呼ばれる抗菌薬で、MAC菌に特に有効です。
・ただし、単独で使うと耐性がつきやすいので注意。 - リファンピシン(RFP)
・結核の治療にも使われる薬。菌の増殖を防ぐ作用があります。
・肝臓に負担がかかることがあり、また多くの薬との「飲み合わせ」に注意が必要です(ワルファリン、ステロイド、抗不整脈薬など)。 - エタンブトール(EB)
・抗結核薬のひとつ。クラリスロマイシンと一緒に使うことで治療効果が高まります。
・副作用として「視力障害」が起こることがあり、定期的に視力や色覚のチェックが必要です。
その他の治療薬
- 吸入型アミカシン:重症例や再発例に使用。副作用として耳鳴り・難聴・腎障害が報告されています。
4. 治療期間と薬剤師のかかわり方

治療期間は長期戦です
- MAC肺炎の治療は平均1年半〜2年に及びます。
- 症状が改善しても「菌が完全に消えた後、さらに12か月間」は薬を飲み続ける必要があります。
治療中の課題と薬剤師の役割
- 服薬継続の支援
長期治療では、途中で「もう治った」と思ってやめてしまう患者さんも多くいます。薬剤師が継続の重要性を伝えることが重要です。 - 副作用の早期発見
目の異常(ぼやける、色がわからない)や肝機能異常、聴覚障害などが出る可能性があります。患者の訴えを丁寧に聞き取りましょう。 - 相互作用のチェック
とくにリファンピシンは代謝酵素を強く誘導するため、他の薬の効果を下げてしまうことがあります。服用中の薬を必ず確認することが求められます。
5. 治療後の注意点:再発リスクも高い

治療が終わっても油断は禁物です。
- 再発することも少なくない
肺の構造が変化していると菌が再び定着しやすくなります。 - 生活指導も重要
喫煙の禁止、口腔ケアの徹底、加湿器や水回りの掃除など、再発予防につながる生活習慣の見直しも大切です。
おわりに:薬剤師が果たすべき支援のかたち

MAC肺炎は、「慢性疾患」かつ「複雑な治療管理が必要な感染症」です。薬剤師として、以下のような支援が求められています。
- 治療内容の理解とわかりやすい説明
- 副作用や相互作用への対応
- 服薬アドヒアランスの確保と継続支援
医師や看護師と連携し、患者の不安や悩みに寄り添いながら、治療を続けられる環境を整えるサポート役になることが、薬剤師にできる大きな貢献です。
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