更新日:2026年10月11日/本記事は薬剤師向けの情報です。記事末に広告を含みます。
「治療アプリを使い始めたので、薬はもう飲まなくてもいいですか?」。患者さんからこう聞かれたとき、アプリの名前や目的を確認せずに答えることはできません。
デジタル治療アプリ(DTx)は、ソフトウェアによる介入を通じて疾患の治療や管理を支えるものです。国内で医療機器として承認された治療アプリには、禁煙、高血圧、飲酒量低減、小児期のADHDの治療を補助する製品があります。ただし、DTxという呼び方だけで、国内承認・保険適用・薬の中止の可否まで判断することはできません。
薬局では、まず「何のアプリを、何のために使っているか」「薬について医師からどのような説明を受けたか」を確認しましょう。本記事では、国内製品の代表例と、服薬指導で使える確認方法を整理します。
DTxとは?健康管理アプリ・SaMDとの違い
DTxはDigital Therapeuticsの略です。医学的根拠に基づくソフトウェアの介入が中心となり、疾患の治療や管理を支えます。単に血圧や服薬時刻を記録するだけのアプリと、治療を目的とした医療機器のアプリは、同じものとして扱わないことが大切です。
一方、SaMD(Software as a Medical Device)は「医療機器プログラム」を指します。診断を支援するプログラムなども含むため、SaMDのすべてがDTxではありません。厚生労働省は、医療機器としての目的性や、機能しなかった場合に生命・健康へ及ぼす影響などを踏まえて規制対象を示しています。[1]
| 種類 | 主な役割 | 薬剤師が確認したい点 |
|---|---|---|
| 一般的な健康管理・記録アプリ | 血圧、食事、服薬などの記録・管理 | 記録の内容と使い方。記録機能があるだけで治療効果や薬事承認を意味するわけではない |
| 国内承認された治療アプリ | 承認された使用目的の範囲で治療を補助 | 正式な製品名、電子添文、使用方法、保険適用の条件 |
| 診断支援などのSaMD | 画像解析など、診断や医療上の判断を支援 | 治療アプリとは目的・使用者・運用が異なる |
薬事承認と保険適用は別に確認します。海外での承認や販売情報を、そのまま日本での適応や保険診療に当てはめないようにしましょう。
日本で使われる治療アプリの代表例
以下は国内製品の代表例であり、網羅的な一覧ではありません。対象患者、使用期間、施設要件などは製品ごとに異なります。
| 製品 | 治療の対象・目的 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| CureApp SC ニコチン依存症治療アプリ及びCOチェッカー | ニコチン依存症患者の禁煙治療補助 | アプリと呼気一酸化炭素を測定するCOチェッカーを組み合わせ、禁煙に関する行動変容を支援 [2] |
| CureApp HT 高血圧治療補助アプリ | 成人の本態性高血圧症の治療補助 | 減塩・減量・運動などの生活習慣修正を支援。必要な薬物療法を含む標準的な診療と併せて使用 [3] |
| CureApp AUD 飲酒量低減治療補助アプリ(HAUDY/ハウディ) | 減酒が治療目標となりうるアルコール依存症患者の治療補助 | 飲酒記録や学習・行動の実践を通じ、飲酒習慣の修正を支援。2025年9月1日発売・保険収載 [4,5] |
| ENDEAVORRIDE(エンデバーライド) | 小児期の注意欠如多動症(ADHD)の治療補助 | ゲーム形式の治療補助アプリ。2026年6月5日発売。適正使用指針や施設・保険算定要件を確認 [6,7] |
禁煙の継続、生活習慣の修正、飲酒量低減、注意機能への介入では、治療の狙いも評価方法も違います。「どのアプリが優れているか」ではなく、患者さんの疾患と治療目標に合った製品かを確認する視点が必要です。
ADHDの薬物療法も整理したい方は、ADHD治療薬の特徴と使い分けも参考にしてください。
治療アプリを使っていても、薬の自己中止につなげない
治療アプリを始めたことと、薬が不要になることは同じではありません。たとえばCureApp HTの電子添文では、標準的な診療やフォローアップを行い、必要な薬物療法も実施した上で使用するとされています。[3]
患者さんから「血圧が下がったので薬をやめたい」と相談されたら、家庭血圧の推移、ふらつきなどの症状、服薬状況、医師の指示を確認します。治療の変更が必要かどうかは、これらの情報を診療側へ共有して判断につなげます。
声かけの例は、「アプリを使い始めてから、お薬の飲み方について先生から変更の説明はありましたか?」です。「薬を飲んでいますか」だけでは拾いにくい、患者さん自身の解釈も確認できます。
降圧薬の特徴は、ARBの違いと使い分けにまとめています。アプリの利用状況と薬の効果・副作用を、別々に確認した上で治療全体を捉えましょう。
薬局で確認したい5つのポイント
以下は薬局での聞き取り・記録の提案です。個別製品の公式な操作手順ではなく、各薬局の体制に合わせて使う実務の例として示します。
1.製品名と治療目的
「血圧のアプリ」「禁煙のアプリ」という説明だけで判断せず、正式な製品名を確認します。患者さんの同意を得て画面や説明資料を見せてもらうと、記録アプリと治療アプリの取り違えを防ぎやすくなります。
声かけ例:「病院で案内されたアプリの名前と、使う目的を教えていただけますか?」
2.開始できているか、使い続ける上で何が困るか
インストールできていても、初期設定やコード入力で止まっていることがあります。「毎日使えていますか」に加え、開けない、入力方法が分からない、通知が多く負担になるなど、困る場面を具体的に聞きます。操作の問題は医療機関や製品の窓口へつなぎましょう。
声かけ例:「使い始めるところや、毎日の入力で困っている操作はありますか?」
3.薬の服用状況と自己調節
アプリの利用状況から服薬状況を推測せず、飲み忘れや自己中止、残薬を別に確認します。アプリの記録が続いている患者さんでも、薬については不安を抱えているかもしれません。
声かけ例:「アプリを始める前と比べて、お薬を飲む回数や飲み忘れに変化はありましたか?」
4.体調・生活の変化
数値や利用回数だけで評価せず、体調、生活上の負担、取り組めていることを確認します。高血圧なら家庭血圧の推移やふらつき、禁煙なら吸いたくなる場面など、治療目的に合わせて聞き取りを変えます。
記録が途切れている場合も、まず「入力しにくかった事情がありましたか」と聞けば、忙しさや操作の難しさなど、支援できる課題を拾えます。
5.医療機関への共有方法
薬剤師だから自動的にアプリの管理画面を閲覧できる、とは限りません。製品の仕組みや契約、権限設定、患者さんの同意を確認します。閲覧権限がない場合でも、本人が示した記録や聞き取りを使って服薬支援はできます。
共有するときは「治療アプリ使用中」とだけ書くのではなく、製品名、開始時期、患者さんが困っていること、服薬・体調の変化を、情報の出所と併せて記載しましょう。
薬歴・医師への報告は「情報源」と「対応」を残す
アプリ上の表示を見たのか、患者さんの申告なのかで、情報の扱いは変わります。薬歴にはその区別と、確認後の対応を残します。
薬歴の記載例(架空のケース)
患者申告:CureApp HTを今月から使用。夕方の記録を忘れることがある。アプリ開始後も降圧薬は指示どおり服用し、自己中止なし。
対応:入力が負担になる場面を確認。記録操作の詳細は処方元で確認するよう案内。薬の変更について医師から指示がないことを確認し、次回来局時に継続状況と体調変化を確認する。
医師への情報提供では、薬剤師が確認できた事実と、相談したい内容を分けます。「アプリ使用開始後、患者さんが降圧薬の減量を希望している。現時点で自己調節はしていない」のように書けば、診療で確認する点が伝わります。
記録の負担を減らす方法は、電子薬歴の導入前の確認点と、薬歴をためない運用も参考にしてください。
保険・個人情報の扱いで押さえておきたいこと
保険診療では、製品の保険収載だけでなく、対象患者、施設・医師の要件、使用期間、算定項目などの確認が必要です。エンデバーライドでも、施設要件や保険算定要件が案内されています。[7]
薬局で利用状況を聞いたことだけを理由に、DTx専用の調剤報酬が算定できると考えないようにしましょう。薬局側の算定は、実施した業務と該当する調剤報酬の要件に基づいて判断します。
また、患者さんのID・パスワードを薬局が安易に預かったり、個人端末へ画面を保存したりする運用は避け、同意の範囲と施設の情報管理ルールを確認します。CureApp HTの電子添文でも、情報漏洩への注意と医療情報システムの安全管理が示されています。[3]
まとめ:アプリの名前・薬の指示・困りごとから確認する
DTxを理解する第一歩は、製品名と治療目的を確認することです。国内承認や保険適用、薬との併用方法を一括りにせず、電子添文や公式資料で製品ごとに整理しましょう。
薬局では、「どのアプリを使っているか」「薬について変更の指示があったか」「どこで困っているか」の3つから聞き取ると、次の支援につながります。使えているかどうかだけでなく、患者さんの生活と服薬の変化を拾うことが薬剤師の関わりどころです。
参考文献・公式資料
以下の資料を2026年10月11日に確認しました。個別製品の使用にあたっては、最新の電子添文・適正使用指針・通知を確認してください。
- [1] 厚生労働省「医療機器プログラムについて」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000179749_00004.html - [2] CureApp「CureApp SCとは」
https://sc.cureapp.com/d/about/ - [3] PMDA「CureApp HT 高血圧治療補助アプリ 電子添文(2026年7月・第4版)」
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/bookSearch/01/04570029930030 - [4] CureApp「医療従事者の方へ:製品のご案内」
https://cureapp.co.jp/productsite/ - [5] CureApp「減酒治療補助アプリ『HAUDY(ハウディ)』を2025年9月1日に販売開始」(2025年8月27日発表)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000247.000015777.html - [6] 塩野義製薬「ENDEAVORRIDE(エンデバーライド)新発売のお知らせ」(2026年6月5日)
https://www.shionogi.com/jp/ja/news/2026/06/20260605.html - [7] 塩野義製薬 医療関係者向け情報「ENDEAVORRIDE(エンデバーライド)」
https://med.shionogi.co.jp/disease/ncnp/adhd/endeavorride.html
継続的な患者支援に取り組める働き方を考える
新しい治療に関わるには、知識の更新に加え、聞き取りや記録を続けられる時間と連携体制も必要です。まずは今の職場で、フォローアップの担当や相談先を整理してみましょう。
役割分担や働き方を見直す際は、管理薬剤師になって分かった責任・しんどさ・成長も参考になります。
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