更新日:2026年10月11日/本記事には広告を含みます。
「納品された薬が、どの経路を通って届いたのか」「回収対象のロットが薬局に残っていないか」。医薬品の流通記録は、薬局でも患者の安全に直結する情報です。
ブロックチェーンは、複数の組織で流通履歴を共有し、後からの改ざんを検知しやすくする技術です。ただし、記録された薬が本物であることや、品質が保たれていることを技術だけで保証するものではありません。
この記事では、医薬品トレーサビリティとの関係、海外の実証、薬剤師が実務で押さえたい確認点を整理します。
医薬品トレーサビリティとブロックチェーンの関係
トレーサビリティは「薬の移動をたどれること」
トレーサビリティとは、製品の履歴や移動を追跡できることです。医薬品では、製品名、ロット番号、使用期限、出荷・受領の記録などを結び付けることで、問題のある製品がどこに流通したかを調べやすくなります。
ロット単位の管理と、個々の包装に識別番号を付ける管理では、追跡できる細かさが異なります。また、バーコードは情報を読み取る入口であり、読み取った情報を共有・照合する仕組みとは別に考える必要があります。
ブロックチェーンは記録を共有する選択肢の一つ
ブロックチェーンは、複数の参加者が記録を共有する分散型台帳の技術です。記録を連結し、参加者間で合意した手順に沿って更新することで、改ざんへの耐性や変更の検知を支えます[1]。
医薬品流通では、参加できる企業や閲覧権限を限定する「許可型」の設計もあります。すべての取引情報を誰でも見られるわけではなく、企業間で何を共有するかを決めることが必要です。
追跡可能な流通管理は、通常のデータベースでも構築できます。ブロックチェーンを採用するかは、複数企業での記録共有、管理責任、既存システムとの連携、費用などから判断します。
医薬品流通で期待される利点と、その条件
| 目的 | 期待される利点 | 必要な条件 |
|---|---|---|
| 流通経路の確認 | 出荷・受領の履歴を企業間で照合しやすくなる | 各工程で記録し、現物と識別情報を正しく対応させる |
| 回収対象の特定 | 対象製品の所在確認や通知を支援できる | ロット等の識別情報と在庫・移動記録がつながっている |
| 記録の確認 | 履歴の変更や不整合を検知しやすくなる | 権限管理、監査、入力内容の確認を行う |
| 温度管理との連携 | 測定記録の共有やアラートへの連携が可能 | 温度センサー、測定方法、通知後の対応手順を整える |
例えば冷蔵品の温度記録を連携する場合、温度を測るのはセンサーで、基準からの逸脱を判定するのは設定された仕組みです。ブロックチェーン自体が温度を測定したり、品質を判定したりするわけではありません。
また、記録を共有するだけでは回収は完了しません。対象品を隔離し、関係先へ連絡し、返品や患者対応につなげる運用が必要です。
「偽造薬を根絶できる」とはいえない理由
入力された情報が正しいとは限らない
誤ったロット番号を入力したり、測定機器が不適切だったりすれば、その記録を共有しても正確な情報にはなりません。現物とデータの対応確認や、入力時の検証が欠かせません。
ブロックチェーンの記録は、薬の成分分析や品質試験を代わりに行うものでもありません。「記録を改ざんしにくいこと」と「記録の内容が真実であること」は分けて考えます。
記録されていない経路は追跡できない
参加していない事業者や、記録を残していない工程まで自動的に可視化されるわけではありません。企業ごとに識別方法やデータ形式が違えば、情報をつなぐ作業も必要です。
導入時には、記録の訂正方法、障害時の対応、閲覧権限、情報の保管、費用負担を取り決めます。新しい技術の導入と、仕入先の確認・受領時の点検・適切な保管は、組み合わせて進めるものです。
海外の実証:FDAのDSCSAパイロット
米国食品医薬品局(FDA)は、医薬品供給チェーン安全法(DSCSA:Drug Supply Chain Security Act)の下で、電子的に相互運用できる追跡システムの検討を支援するパイロットプログラムを実施しました。ブロックチェーンは、検討された技術の一つです[2]。
IBM、KPMG、Merck、Walmartによる実証は2019年に始まり、2020年2月の報告書に結果がまとめられています。製品の出荷・受領・調剤に関する情報の共有や、回収対象品についての通知・照会が検証されました[3]。
これは実証で確認された結果であり、米国のすべての医薬品がブロックチェーンで管理されているという意味ではありません。DSCSAへの対応と、特定の技術の採用も同じことではありません。
日本の薬局で押さえたい流通管理
日本では、医薬品の適正流通(GDP:Good Distribution Practice)ガイドラインが、流通段階での品質保持や偽造医薬品の混入防止を考える資料になります。
厚生労働省掲載の解説資料では、主に卸売販売業者や製造販売業者の業務を対象とし、市場出荷後から薬局等に渡るまでの仕入・保管・供給を適用範囲としています。薬局内の業務すべてに、そのままGDPガイドラインを当てはめる説明は適切ではありません[4、5]。
そのうえで、薬局の業務を見直す際には、次の確認が役立ちます。以下は実務上の確認例です。
入荷時:現物と納品情報を照合する
- 製品名、規格、数量、納品元を確認する。
- 使用期限やロットを確認し、必要なときに参照できる記録を残す。
- 外箱や封の破損、表示の違いなど、不審な点がないか確認する。
- 冷蔵品などは、必要な配送条件や受領後の保管方法を確認する。
温度逸脱や偽造の疑い:使用可否を自己判断しない
温度管理や包装に疑問がある場合は、該当品を通常の在庫と区別し、供給元や製造販売元に確認します。温度逸脱では、温度・時間・製品の条件を整理して伝えます。見た目が変わっていないことだけで、使用できると判断しないようにします。
回収時:対象品を特定できる状態にする
回収情報の製品名、規格、ロット、対象範囲を照合し、該当する在庫や必要な記録を確認します。担当者が不在でも対応できるよう、情報の確認先、隔離場所、連絡先を共有しておくと動きやすくなります。
デジタル化は、記録を後から探せる運用まで含めて考えることが大切です。薬局内のICT活用については、電子薬歴で薬局業務を効率化するには?導入前の確認点と薬歴をためない運用も参考にしてください。
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まとめ:技術と現場の確認を組み合わせる
ブロックチェーンは、医薬品の流通記録を組織間で共有し、追跡や照合を支援する技術です。一方で、入力の正しさ、現物との対応、保存状態、異常発見後の行動は、別途確認しなければなりません。
薬局ではまず、「入荷時に何を確認するか」「問題のある品をどう区別するか」「回収時にどの記録を見るか」をスタッフ間で整理しましょう。導入する技術の名前より、患者へ安全な薬を届けるための確認が機能していることが大切です。
業務改善に取り組める働き方を考えたい方へ
記録や管理手順を見直す時間が確保できない場合は、担当業務や人員配置、相談できる体制を整理することも一つの方法です。職場選びでは、給与や休日とともに、管理業務の分担や教育体制も確認しておくと判断しやすくなります。
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参考文献
- NIST:Blockchain Technology Overview(NIST IR 8202、2018年)
https://csrc.nist.gov/pubs/ir/8202/final - FDA:DSCSA Pilot Project Program
https://www.fda.gov/drugs/drug-supply-chain-security-act-dscsa/dscsa-pilot-project-program - IBM・KPMG・Merck・Walmart:Blockchain Interoperability Pilot Project Report(2020年2月、FDA掲載)
https://www.fda.gov/media/169883/download - GDP研究班:医薬品の適正流通(GDP)ガイドライン概要と解説(1)(2019年1月18日、厚生労働省掲載)
https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000467835.pdf - GDP研究班成果報告会:GDPガイドラインのQ&A追加説明(2020年1月27日、厚生労働省掲載)
https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000585544.pdf


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