ブロックチェーンで変わる医薬品流通|偽造薬を根絶する最新トレーサビリティ

薬剤師が解説

はじめに

世界には、偽造された医薬品がいまだに出回っています。
特にオンラインで購入された薬や、正規ルートを外れた流通経路をたどった薬には、成分が不明だったり、効果のない偽物が含まれているリスクがあります。

こうした偽造薬による健康被害を防ぐため、近年注目されているのがブロックチェーン技術です。これは医薬品の流通をデジタルで一元管理し、どの薬がどこを通ってきたのかを明確にするための新しい仕組みです。

この記事では、薬剤師として知っておきたい「ブロックチェーンによる偽造薬対策」の基本と、現場での活用の可能性について解説します。



偽造薬をなくす鍵は「ブロックチェーン」

まず、ブロックチェーンとは何かを簡単に説明します。
これはもともと仮想通貨で使われていた技術で、「情報を安全に記録・共有するための仕組み」です。記録されたデータは改ざんされにくく、しかも関係者全員でリアルタイムに共有できるため、情報の透明性が非常に高いのが特徴です。

この技術を医薬品の流通に応用すると、薬が「いつ・どこで・誰によって作られ・流通したか」という履歴をすべて記録でき、途中で偽造薬が紛れ込むリスクを限りなくゼロに近づけることができます。

これこそが、追跡可能性(トレーサビリティ)の本質であり、薬剤の安全性確保に大きく貢献する考え方です。



なぜ今までの方法では不十分なのか?

従来、薬の流通は紙の納品書や、個別の企業内システムで管理されてきました。
たとえば、製薬会社・卸売業者・薬局など、それぞれが別々の帳簿を持ち、共有はFAXやメールといった形で行われているケースも少なくありません。

このような仕組みには、いくつかの問題点があります:

  • 情報の分断:製造元から患者に届くまでの過程が一貫して記録されていない
  • 改ざんのリスク:手書きや電子ファイルは後から書き換えができてしまう可能性がある
  • 追跡の困難さ:仮に問題が起きても、どの流通経路を通ったかを特定するのに時間がかかる

つまり、透明性が不十分で、「本当に正規の薬なのか?」を現場レベルで判断しきれない状況だったのです。



ブロックチェーンで何が変わるのか?

ブロックチェーンを活用すると、これまでの課題が以下のように解消されます。

改ざんできない記録

一度書き込まれた情報は、後から書き換えられない仕組みになっているため、製造日、ロット番号、保管温度などの情報がすべて信頼できるものになります。

関係者が同じ情報をリアルタイムで確認できる

たとえば製薬会社・卸・薬局が同じ記録を見られることで、データのズレや情報の伝達ミスを防ぐことができます。

自動で条件をチェックして警告を出す

たとえば、冷蔵保存が必要な薬が途中で温度逸脱した場合、自動的に通知されるなどのシステムも組み込めます。これにより、適正に保管されていない薬が患者に届くのを防げます。

監査や報告の負担を軽減

GDP(医薬品の適正流通基準)に沿った記録も自動的に蓄積されるため、監査や報告書作成の業務がスムーズになります。


海外での活用事例:アメリカFDAの取り組み

アメリカでは、2023年から医薬品の流通管理を強化する「DSCSA(医薬品供給チェーン安全法)」の一環として、ブロックチェーンを使った実証実験が行われました。

この取り組みでは、製造段階から薬局に届くまでのすべての流通データをブロックチェーン上で記録。これにより、リコールが必要になった場合も、どのロットがどこに流通しているかを迅速に特定できるようになり、大幅な時間短縮につながったと報告されています。



日本でも始まっている実証プロジェクト

国内でも、2023年から日本IBMを中心に、複数の製薬企業や卸売業者が協力し、ブロックチェーン技術を使った医薬品の流通管理の実証実験を開始しています。

このプロジェクトでは、温度管理が必要な薬を対象に、出荷・保管・配送など各工程の記録をブロックチェーンに保存。
これにより、品質管理の強化、在庫のムダの削減、監査業務の効率化といったメリットが得られています。

実際に現場で使用している薬剤師や物流担当者からも、「温度逸脱の有無がすぐに確認できて助かる」「記録の信頼性が高くなった」といった声が寄せられています。

参考URL:医薬品の流通経路と在庫をブロックチェーンで可視化、製薬企業と日本IBMが運用検証を開始



なぜ薬剤師が今、この技術を知っておくべきなのか?

一見すると、ブロックチェーンは「システム担当者」や「経営層」の話に思えるかもしれません。しかし、薬剤師がこの仕組みを理解しておくことには、いくつかの大きな意義があります。

まず、患者に安全な薬を届けるという薬剤師の使命を果たすうえで、正しい追跡可能性(トレーサビリティ)は欠かせません。
ブロックチェーンを活用することで、調剤時に「この薬は正規品か?」「保存状態は適正か?」といった判断を、確かな記録に基づいて行えるようになります。

さらに、今後は電子処方箋・オンライン服薬指導・医療DXの広がりに伴って、薬局業務全体がデジタル化していきます。こうした中で、テクノロジーに強い薬剤師は、現場の“推進役”として非常に重宝される存在になるでしょう。



キャリアアップにも活かせる知識に

実際、医療DXや医薬品の流通改善に関わる求人は増加傾向にあります。製薬企業や調剤チェーンでは、現場経験に加え、ITリテラシーのある薬剤師を求める動きが活発です。

現在の職場に限界を感じている方や、新しい分野でキャリアを広げたいと考えている方にとって、こうした知識を身につけることは大きな強みになります。

転職エージェントによるキャリア相談を活用すれば、自分の経験をどのように活かせるのか、具体的な道筋を見つける手助けにもなるでしょう。



まとめ

ブロックチェーンは、医薬品流通に透明性と信頼性をもたらす革新的な技術です。
偽造薬による健康被害を防ぐだけでなく、薬剤師がより正確に・安全に服薬支援を行うための強力なツールにもなります。

新しい技術に対して「難しそう」「自分には関係ない」と思わずに、まずは基礎から理解し、自分の現場にどのように活かせるかを考えてみてください。
その一歩が、患者の安全を守る力となり、自身のキャリアの可能性を大きく広げるはずです。

参考URL:ブロックチェーンって,なに?


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