感染リスクとワクチン接種まで、薬剤師が整理
はじめに:春に「最近また痛い」と言われたとき、何から考える?

春は薬局で「関節がまた痛くなってきた」「薬を変えたけど、いつ効くの?」という相談が増えがちです。
この“春の揺らぎ”は気のせいだけではなく、関節リウマチ(RA)の疾患活動性が春に高く、秋に低いという季節差を示した研究が報告されています。たとえば、日本のRAコホートを解析した研究では、主観・客観の両面で春に活動性が高い傾向が示されています。
参考文献:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17264092/
ただし、痛みの強さは人によって違いますし、「痛い=必ず炎症悪化」とも限りません。さらに、免疫を抑える薬を使っている患者さんでは、感染症が背景に隠れていることもあります。
この記事では、代表的な4つの抗リウマチ薬(MTX/JAK阻害薬/TNF阻害薬/抗IL-6)について、薬局実務(処方監査・服薬指導)で役立つ観点で整理します。
関節リウマチは“免疫の暴走”で関節に炎症が続く病気

関節リウマチは、体を守るはずの免疫が自分の関節を誤って攻撃してしまい、関節に炎症(腫れ・痛み・こわばり)が続く病気です。炎症が続くと、関節の破壊や変形につながり、生活の質が下がってしまいます。
ここで大事なのが、痛み止め(NSAIDsなど)と抗リウマチ薬(DMARD)は役割が違うという点です。
- 痛み止め:痛みを軽くする(炎症の原因そのものは止めない)
- 抗リウマチ薬(DMARD):免疫の暴走にブレーキをかけ、炎症の土台を下げる
つまり、RAでは「痛みを抑える」だけでなく、「炎症を落ち着かせて将来の関節障害を防ぐ」ことが重要になります。
抗リウマチ薬は3タイプに分けると理解しやすい

薬の名前は多いですが、まず分類で整理すると一気に見通しが良くなります。
- MTX(メトトレキサート):従来型の抗リウマチ薬(csDMARD)の中心
- JAK阻害薬:細胞内の炎症シグナルを狙う“標的型の飲み薬”(tsDMARD)
- TNF阻害薬/抗IL-6:注射・点滴が多い“生物学的製剤”(bDMARD)
治療は一般に、MTXを土台にして目標(寛解/低疾患活動性)に近づけ、必要ならJAKや生物学的製剤で強化というイメージで理解するとスムーズです(実際の選択は主治医が患者背景とあわせて判断します)。
4群の違いは「投与形態」と「感染の見え方」で整理すると迷いにくい
薬局で患者さんに説明するとき、ポイントは次の5つです。
- 作用(どこにブレーキ?)
- 効果発現(どれくらいで効き始める?)
- 投与経路(飲み薬?注射?点滴?)
- 感染リスク(何に注意?)
- 併用(MTXと一緒?単剤?)
比較表(薬局で「何が違う?」に答えやすい濃縮版)
※効果発現は個人差が大きいので、目安としての表現にしています。
| 薬剤群 | 作用(ざっくり) | 効果発現(一般に) | 投与経路 | 感染リスクで特に意識したい点 | 併用の考え方(薬局目線) |
| MTX | 免疫の過剰反応を抑え、炎症を落ち着かせる“土台” | 数週〜で評価(じっくり効いてくることも) | 経口/皮下(製剤による) | 感染全般に注意。血液障害などが出ると感染に弱くなる | 他剤のベースになりやすい。用法(週1回など)間違いに注意 |
| JAK阻害薬 | 細胞内シグナル(JAK-STAT)を抑える | 比較的早く改善を感じることがある | 経口 | 帯状疱疹などに注意。患者背景によっては安全性リスク評価が重要 | 注射が難しい人で選ばれることも。皮疹・感染兆候の声かけが重要 |
| TNF阻害薬 | 炎症の中心TNFを狙って抑える | 数週で効き始めることがある | 皮下/点滴 | 導入前スクリーニング前提の感染(例:結核など)を意識 | MTX併用が選ばれることが多い。ワクチンは導入前計画が理想 |
| 抗IL-6 | IL-6経路を抑えて炎症を沈める | 数週で効き始めることがある | 皮下/点滴 | 感染自体に注意+炎症反応が上がりにくく“見落としやすい”ことがある | 「熱がないから大丈夫」とならないよう症状ベースで受診促し |
各薬剤の特徴と、薬局でのチェックポイント

1)MTX(メトトレキサート):最初の土台になりやすい薬
MTXはRA治療で中心的に使われてきた薬です。薬局で特に大事なのは次の3点です。
- 用法の誤りを防ぐ(週1回など独特な設計がある)
- 定期検査の意味を伝える(血算・肝機能など)
- 体調不良時に「自己中断」ではなく、早めの連絡・受診につなげる
ワクチンについては、ACRのガイドラインで「病勢が許せば、インフルエンザワクチン後にMTXを2週間休薬」が条件付き推奨として示されています(※自己判断ではなく主治医判断が前提)。
参考文献:https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10291822/?utm_source=chatgpt.com
2)JAK阻害薬:飲み薬で便利だが、感染と皮疹の“先回り”が重要
JAK阻害薬は飲み薬で使いやすい一方、免疫抑制がしっかり効く薬でもあるため、感染症への注意が欠かせません。
- 帯状疱疹の初期サイン(ピリピリ→水疱)
- 風邪症状だけでなく、咳・息切れ・排尿痛・下痢・創部の悪化などを含む感染兆候
- 患者背景によっては安全性リスク評価が重要(ここは主治医判断領域)
※この節は、患者さんに「怖い薬」と印象づけるためではなく、“早期相談の基準を明確にする”ために書くのがコツです。
3)TNF阻害薬:導入前チェックを「前提」として理解しておく
TNF阻害薬は生物学的製剤の代表格です。薬局側が押さえるべきは、導入前に感染スクリーニングが前提という点と、継続中も感染兆候への早期対応が重要という点です。
患者さんへの短い声かけ例:
- 「免疫を抑える薬なので、軽い風邪みたいでも早めに連絡してください」
- 「咳が続く、息が苦しい、皮膚が化膿するなどは早めに受診してください」
4)抗IL-6:感染の“症状”が変わることを伝える
抗IL-6では炎症反応が抑えられ、感染のサインが分かりづらくなることがあります。
薬局では「熱がないから大丈夫」と自己判断しないよう、症状ベースで受診を促します。
- 「熱がなくても、咳・息切れ・強いだるさ・傷の悪化があれば連絡を」
- 「いつもと違う体調不良が続くなら早めに受診を」
春の「痛い」はどう説明する?(断定しない、でも根拠は示す)

春に症状が揺らぐ人がいることは、研究としても示されています。日本のRA患者を対象に、主観・客観指標を含む疾患活動性が春に高く、秋に低いという季節差が報告されています。参考文献:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17264092/
ただし個人差は大きく、痛みの感じ方も違います。薬局では次のように説明すると自然です。
- 「春は活動性が上がりやすいという報告もあります。腫れや朝のこわばりが増えたら、主治医に相談しましょう」
- 「自己判断で薬を増やしたり止めたりせず、変化が続くときは受診が安心です」
感染リスク:薬局で聞くと見落としが減る質問

- 最近、発熱・咳・息切れ・下痢・排尿痛はありますか?
- 皮膚のピリピリや水ぶくれ(帯状疱疹っぽい症状)はありますか?
- 歯の痛み、化膿、傷が治りにくいなどはありますか?
「ある」と答えたときは、自己中断に誘導するのではなく、主治医への連絡・受診の後押しが安全です。
ワクチン接種:高齢者の接種機会が多いワクチンは基本“打てる”ことが多い
結論:生ワクチンは慎重、非生ワクチン(不活化・組換え)は基本接種対象になりやすい
EULARの推奨では、非生ワクチン(non-live vaccines)は基礎治療にかかわらず安全に接種できる一方、生ワクチン(live-attenuated vaccines)は慎重に検討という整理です。また、インフルエンザと肺炎球菌は多くの患者で強く考慮すべきとされています。
参考文献:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31413005/
- インフルエンザ
- 肺炎球菌
- 新型コロナ
- 帯状疱疹(※種類に注意)
は、「免疫抑制中だから全部ダメ」ではありません。
1)インフルエンザ:基本接種、ただしMTXは“例外ルール”がある
ACRガイドラインでは、病勢が許せばインフルワクチン後にMTXを2週間休薬が条件付き推奨です(他の非生ワクチンには基本適用しない)。
参考文献:https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10291822/?utm_source=chatgpt.com
薬局では「自己判断で休薬しない」「主治医の方針を確認」をセットで伝えるのが安全です。
2)肺炎球菌:基本接種(種類が複数ある)
厚労省資料では、肺炎球菌ワクチンはPPSV(多糖体)とPCV(結合型)に大別され、2025年4月時点でPPSV23、PCV15、PCV20などが整理されています。
参考文献:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001589553.pdf?utm_source=chatgpt.com
薬局としては「どれを何回」という処方設計は主治医領域ですが、重症化予防として接種対象になることが多い点を押さえておくと対応しやすいです。
3)新型コロナ:日本で用いられるワクチンは複数タイプ(いずれも“生ワクチン”とは別枠で扱われる)
厚労省Q&AではmRNAワクチン、レプリコン(自己増幅型mRNA)や組換えタンパクなど、複数タイプが整理されています。
参考文献:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_qa.html?utm_source=chatgpt.com#5
実務上は「生ワクチンかどうか」を気にしすぎるより、主治医の接種方針とタイミング(体調・免疫抑制の強さ)を確認する運用が現実的です。
4)帯状疱疹:ここだけは“ワクチンの種類”を必ず確認
厚労省は、帯状疱疹ワクチンに 生ワクチン と 組換えワクチン の2種類があること、接種回数や条件が異なることを明示しています。
さらに日本リウマチ学会は、免疫抑制治療を受けている方では生ワクチン接種が禁忌である点に注意喚起しています。
参考文献:https://www.ryumachi-jp.com/publish/iyaku/news20250908/?utm_source=chatgpt.com
薬局では「帯状疱疹ワクチン=全部同じ」にならないよう、どちらのワクチンかを確認し、迷うときは医療機関へつなぐのが安全です。
まとめ(要点3つ)

- 春はRA活動性が上がりやすい傾向を示す研究があり、痛みやこわばりが強く感じる人がいます。断定せず、腫れや朝のこわばりなど“炎症サイン”も含めて主治医と確認を促すのが安全です。
- 4群(MTX/JAK/TNF/IL-6)の違いは、投与形態と感染の見え方で整理すると薬局対応が安定します。
- ワクチンは「生ワクチンは慎重」「不活化・組換えは基本接種対象になりやすい」が原則。帯状疱疹は種類の確認が必須です。
現場で“迷う頻度”が高い領域ほど、環境の差が出ます
抗リウマチ薬は、患者さんの背景(感染リスク、既往、ワクチン、通院事情)で判断が変わりやすく、薬局の教育体制や処方元との連携状況によって、薬剤師の負担が大きく変わります。
「この説明で合っているか不安」「相談が増えても一人で抱えがち」――もし今の職場でそう感じるなら、学べる環境・相談できる環境に身を置くことも、実務力を伸ばす現実的な選択肢です。
職場を変える前に、情報だけでも集めておく
転職は今すぐ決めなくても大丈夫です。ただ、薬剤師の働き方は「処方科目」「在宅の有無」「教育・研修」「人員配置」で大きく変わります。まずは希望条件(例:膠原病・リウマチ領域が学べる、病院門前、教育体制あり など)を整理して、求人を比較できる状態にしておくだけでも、キャリア判断がしやすくなります。
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「まずは情報だけ見たい」「今の職場と条件を比べたい」という段階でも、求人の見え方を知っておくと、今後の選択肢が増えます。

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