はじめに
「この風邪薬、試合直前に飲んでも大丈夫?」といった声を、大会が近づくにつれてSNSや検索エンジンでよく見かけるようになります。実際には、市販薬やサプリメントの一部にドーピング検査で引っかかる成分が含まれており、知らずに使ってしまうと競技への影響はもちろん、出場停止などのリスクを負うことにもなりかねません。こうしたリスクを回避するために頼りになるのが薬剤師の存在です。本記事では、ドーピング規制の基本的な仕組みや市販薬に潜む危険性、さらに薬剤師だからこそできるサポートについて、誰でも理解できるように解説します。
ドーピング規制の基本とその意義

ドーピングとは、競技能力を高める目的で禁止薬物を使用する行為を指します。現在では「世界アンチ・ドーピング規程(WADC)」に基づき、国際オリンピック委員会や各競技団体が厳密に管理しています。禁止物質には、競技会中だけ使えないものと、日常的に一切使用が認められないものの二種類があり、毎年更新される「WADA禁止表(Prohibited List)」によって詳細が規定されます。
なぜこれほどまでに厳格なルールが求められるのでしょうか。その理由は大きく二つあります。一つは競技の公正性を守るため。禁止薬物を使わないアスリートが正当に評価されるようにする意図です。もう一つは、身体への安全性を確保するため。たとえば筋肉増強成分や利尿剤などは心臓や腎臓に大きな負担をかけることがあり、長期的に使用すると健康に深刻な障害をもたらす危険性があります。
過去には、風邪薬に含まれているはずの一般的な成分が、実は禁止物質として分類されていると知らずに使用し、競技直前の検査で陽性反応が出て出場取り消しとなったアスリートも実在します。このように、ほんの少しの油断が競技人生を大きく揺るがしかねません。
市販薬に潜む思わぬ落とし穴

「市販薬だから安全」と思い込んでいるアスリートは少なくありません。しかし、ドラッグストアで手に入るかぜ薬や総合感冒薬の中には、ドーピング検査で陽性となる可能性のある成分が含まれていることがあります。具体的には、鼻炎薬やかぜ薬に配合されやすいプソイドエフェドリンやエフェドリンなどが挙げられます。さらに、漢方薬や滋養強壮剤のなかには、ステロイド類似成分が少量含まれていることもあり、知らずに摂取すると検査基準を超えてしまうことがあるのです。
市販薬のパッケージには成分名が記載されていますが、競技前にそれを正確に判断し、禁止リストと照らし合わせるのは決して簡単ではありません。実際に、鼻炎スプレーを日常的に使っていたアスリートが、試合前の尿検査で交感神経刺激薬のレベルが許容値を超えてしまい、急遽出場が取り消されたケースも報告されています。ほんのわずかな用量でも、体内に蓄積していると検査で「アウト」と判定される可能性があるため、特に競技直前は自己判断で市販薬を使うのは非常にリスキーです。
薬剤師に相談すべき理由

ここで重要な役割を果たすのが薬剤師です。薬剤師は医師とは違い、薬局やドラッグストアのカウンターで気軽に相談できる、最も身近な薬物の専門家です。アスリートが体調不良を訴えて薬局を訪れた際、どの成分が禁止されているのか、あるいは代わりにどんな薬を使えばよいのかを的確にアドバイスできます。
たとえば、高校の陸上部に所属する選手が「咳だけがどうしても止まらない」と相談に来たとしましょう。自分で咳止めシロップを選んで飲み続けていると、気づかぬうちに禁止成分を取り込んでしまいかねません。そのとき薬剤師が所属コーチやチームドクターと連携し、必要に応じてTUE(治療使用特例)を申請することで、合法的に症状を抑えながら競技に臨む道を開くことがあります。
また、薬剤師の中には「スポーツファーマシスト※」という専門資格を取得し、アンチ・ドーピングの知識を深めている人もいます。こうした専門性を持つ薬剤師は、大会運営側やナショナルチームにも求められており、薬学的な観点から競技者をサポートできる貴重な存在です。
※スポーツファーマシスト:アンチ・ドーピングの教育・啓発活動を行い、選手や関係者に正しい薬物知識を提供する薬剤師のこと。
大会前に知っておきたい確認ポイント

競技を間近に控えたアスリートは、市販薬やサプリの使用を含め、自己判断で対処せず必ず薬剤師に相談しましょう。以下は、薬局で相談する際にチェックしておくと安心なポイントです。
- 服用中の薬・サプリをすべてリスト化する
自分が日頃から飲んでいる薬やサプリメントを漏れなく書き出し、薬剤師に見せることで禁止成分が含まれていないか確認してもらえます。 - 薬は必ず個包装の成分表示を確認する
一包化薬のように成分が不明瞭になっているものは避け、必ず個々の包装で何が入っているかを薬剤師と一緒に確認しましょう。 - サプリメントは「アンチ・ドーピング認証マーク」付きの製品を選ぶ
第三者機関による検査で合格した製品には認証マークが付いている場合があります。これを基準に、できるだけ確かな安全性を担保されたものを選ぶと安心です。 - どうしても治療が必要な場合はTUE申請を検討する
けがや病気で禁止物質を使わざるを得ないときには、あらかじめ治療使用特例(TUE)を申請し、許可を得てから使用する手続きを行うことが重要です。
たとえば、健康志向のビタミン剤を飲んでいたつもりが、実はステロイド様成分が微量に混入しており、競技直前の検査で基準を超えてしまったケースも報告されています。このような「うっかりミス」を防ぐため、薬剤師との確認は必須と言えるでしょう。
薬剤師とともにリスクを最小限に

ドーピング検査で陽性判定を受けるリスクは、限られた競技生活のなかで取り返しのつかないものです。そのリスクを限りなくゼロに近づけるために、市販薬やサプリメントを使う前には「必ず薬剤師に相談する」ことを徹底しましょう。薬剤師、スポーツファーマシストは最新の禁止リストを把握し、どの薬やサプリが使えるのかを的確に判断できる重要なパートナーです。
特に競技直前は、自分の体調を整えたい気持ちが先行しがちですが、ほんの少しの油断でも大きなペナルティを受ける可能性があります。薬剤師に相談する習慣をつけることで、体調管理とドーピング対策を両立し、ベストなパフォーマンスを発揮できるようにしましょう。
参考URL
http://www.doyaku.or.jp/guidance/data/R1-2.pdf
https://www.playtruejapan.org/entry_img/s-guideline.pdf薬剤師のキャリアに新たな選択肢を

「薬局での調剤業務だけでは物足りない」「もっと人の役に立てる場があるのでは…」。そんな思いを抱えている薬剤師の方も少なくないでしょう。実は、今スポーツ医療の現場では、ドーピング対策をはじめとする薬学的サポートを行える人材が不足しています。
スポーツファーマシストのように専門資格を取得してチーム帯同や大会運営に携われば、自分の知識を直接アスリートの役に立てるやりがいある仕事につながります。ただ、「経験がない」「どうやって資格を取ればいいかわからない」といった不安を抱く人も多いはずです。
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