「たばこをやめたいけれど、なかなかやめられない」
薬局で患者さんから、こんな相談を受けることはありませんか?
禁煙というと禁煙外来をイメージしやすいですが、患者さんにとってもっとも身近な医療職のひとつが薬剤師です。
OTCの禁煙補助薬を紹介したり、禁煙外来への受診をすすめたりするだけでなく、服用中の薬と喫煙・禁煙との関係を確認することも薬剤師の重要な役割です。
実際、令和6年の国民健康・栄養調査では、現在習慣的に喫煙している人の割合は14.8%でした。喫煙率は低下傾向にあるものの、禁煙支援が必要な患者さんはまだ少なくありません。
この記事では、
・薬局でできる禁煙支援
・チャンピックスやニコチンパッチの特徴
・OTC禁煙補助薬の選び方
・禁煙外来をすすめる目安
・服薬中の患者さんで確認したいポイント
について、薬剤師目線で整理します。
薬剤師が禁煙支援に関わる意味
禁煙できないのは、単純に「意思が弱いから」ではありません。
喫煙習慣にはニコチン依存が関係しており、禁煙すると、
・たばこを吸いたい
・イライラする
・集中しにくい
・落ち着かない
などの離脱症状が現れることがあります。
そのため、「とにかく我慢してください」と伝えるだけでは十分とはいえません。
薬局では、患者さんの禁煙意欲や喫煙状況を確認しながら、OTCの禁煙補助薬を提案したり、必要に応じて禁煙外来へつないだりできます。
いきなり強く禁煙をすすめるのではなく、
「禁煙を考えたことはありますか?」
くらいの声かけから始めるのも一つの方法です。
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薬局で使いやすい「5A」で禁煙支援を考える
禁煙支援を整理するときに役立つのが「5A」と呼ばれる考え方です。
Ask:喫煙状況を確認する
まず、たばこを吸っているかを確認します。
「今、たばこは吸われていますか?」
「1日何本くらい吸いますか?」
といった自然な質問から始めます。
紙巻きたばこだけでなく、加熱式たばこの使用についても確認しておきましょう。
Advise:禁煙をすすめる
患者さんの病気や薬と結びつけながら、禁煙するメリットを簡潔に説明します。
ただし、不安をあおったり、一方的に責めたりする伝え方は避けたいところです。
Assess:禁煙する気持ちを確認する
「今すぐやめたい」のか、
「いつかはやめたいけれど、まだ決心できない」のか、
によってサポート方法は変わります。
Assist:具体的な方法を提案する
禁煙する意思がある場合には、
・禁煙補助薬
・禁煙開始日の設定
・喫煙したくなったときの対処法
・禁煙外来
などを患者さんに合わせて提案します。
Arrange:継続してフォローする
禁煙は始めて終わりではありません。
「その後どうですか?」
と次回来局時に確認するだけでも、患者さんにとっては支えになります。
禁煙補助薬には何がある?
2026年現在、日本で禁煙支援に使用される代表的な薬には、
・バレニクリン(チャンピックス)
・医療用ニコチンパッチ
・OTCニコチンパッチ
・OTCニコチンガム
があります。
以前の記事ではチャンピックスを「出荷停止中」と紹介していましたが、ファイザーから2025年10月に通常出荷再開が案内されています。
そのため、現在はチャンピックスを含めて禁煙治療の選択肢を考えることができます。
チャンピックス(バレニクリン)の特徴
チャンピックスは、ニコチンを含まない禁煙治療薬です。
α4β2ニコチン性アセチルコリン受容体に作用し、禁煙に伴う喫煙欲求を軽減するとともに、喫煙したときの満足感を抑えます。
通常は禁煙開始予定日の1週間前から服用を始めます。
治療期間は基本的に12週間です。
薬剤師として確認しておきたい副作用には、
・吐き気
・頭痛
・不眠
・異常な夢
などがあります。
特に吐き気は比較的相談を受けやすいため、症状の程度や服用状況を確認します。
また、腎機能によって用量調節が必要になる場合があります。
チャンピックスと他の禁煙補助薬の併用は?
ここは注意したいポイントです。
チャンピックスの添付文書では、原則として他の禁煙補助薬と併用しないこととされています。
「禁煙効果を高めるためにニコチンパッチも追加する」と自己判断しないよう説明することが大切です。
医療用ニコチンパッチ「ニコチネルTTS」
ニコチネルTTSは、皮膚から一定量のニコチンを吸収させることで禁煙時の離脱症状を軽減する薬です。
1日1回貼付するため、
「仕事中に何度も薬を使うのは難しい」
という人にも使いやすい方法です。
医療用では、
・ニコチネルTTS30
・ニコチネルTTS20
・ニコチネルTTS10
があり、ニコチン量を段階的に減らしていきます。
妊婦・妊娠している可能性のある女性や授乳婦、不安定狭心症、急性期の心筋梗塞などでは使用できないため、患者背景の確認も重要です。

OTCの禁煙補助薬はどう選ぶ?
医療機関を受診するほどではないものの、
「まず自分で禁煙を始めてみたい」
という患者さんにはOTCも選択肢になります。
現在、日本ではニコチンガムとニコチンパッチが代表的です。
OTCニコチンガム
代表例として、
・ニコレット
・ニコチネル
などがあります。
ニコチンガムは、たばこを吸いたくなったときに使用できることが特徴です。
普通のガムのようにずっと噛み続けるのではありません。
ゆっくり噛み、刺激を感じたら頬と歯ぐきの間などに置いて休ませ、再び噛むという方法を30~60分程度繰り返します。
強く噛み続けるとニコチンが急に放出され、
・吐き気
・喉の刺激感
・口内の刺激感
などにつながることがあります。
「禁煙ガムを買ったけれど気持ち悪くなった」という患者さんでは、まず使用方法を確認してみるのもよいでしょう。
OTCニコチンパッチ
ニコチネル パッチ20・10などが販売されています。
OTCのニコチネルパッチは第1類医薬品です。
基本的には1日1回貼付し、段階的にニコチン量を減らしていきます。
ガムを噛むことが難しい人や、仕事中などに頻繁にガムを使用しにくい人では選択肢になります。
貼付部位の皮膚症状についても確認しましょう。
パッチとガムを一緒に使っていい?
海外の禁煙治療では複数のニコチン製剤を組み合わせる方法もありますが、日本で販売されている一般用医薬品については、国内の添付文書・使用上の注意に従う必要があります。
自己判断でパッチとガムを併用するようすすめるのは避け、各製品の添付文書を確認して使用することが重要です。
OTCで対応する?禁煙外来をすすめる?判断のポイント
薬局で相談されたとき、
「OTCでよいのか」
「医療機関をすすめた方がよいのか」
で迷うことがあります。
たとえば、
・何度も禁煙に失敗している
・ニコチン依存が強そう
・基礎疾患がある
・妊娠中・授乳中
・禁煙によって服用中の薬への影響が考えられる
・OTC禁煙補助薬を使用できるか判断しにくい
といった場合には、医師への相談も検討します。
OTCを「売ること」だけではなく、必要な患者さんを医療につなぐことも薬剤師の役割です。
禁煙外来には健康保険が使える場合がある
一定の条件を満たしたニコチン依存症の患者さんでは、禁煙治療に健康保険を使用できます。
主な条件は、
- ニコチン依存症スクリーニングテストでニコチン依存症と診断される
- 35歳以上では、ブリンクマン指数「1日の喫煙本数×喫煙年数」が200以上
- 直ちに禁煙する意思がある
- 禁煙治療について説明を受け、文書で同意する
ことです。
重要なのは、ブリンクマン指数200以上という条件は35歳以上が対象という点です。
35歳未満では、この条件を満たしていなくても保険診療の対象になる可能性があります。
標準的な禁煙治療は12週間で計5回です。
薬局で、
「禁煙外来って保険が使えるんですか?」
と聞かれたときに、このくらい説明できると患者さんの受診につながりやすくなります。
薬剤師なら「禁煙した後の薬」にも注意したい
禁煙支援の記事で、薬剤師として特に押さえておきたいのがここです。
たばこの煙に含まれる成分によって、一部の薬を代謝する酵素の働きが強くなることがあります。
代表的なのがCYP1A2です。
そのため、喫煙している間は薬の代謝が速くなっていても、禁煙すると酵素誘導が弱まり、薬の血中濃度が上昇する可能性があります。
注意したい薬の代表例には、
・テオフィリン
・クロザピン
などがあります。
つまり、
「禁煙できました。よかったですね」
で終わらせるのではなく、
「服用している薬に影響しないか?」
まで確認することが薬剤師には求められます。
患者さんから禁煙開始の話を聞いたら、薬歴にも記録しておきましょう。

禁煙する気がない患者さんには「5R」で考える
すべての患者さんが、すぐに禁煙したいわけではありません。
「そのうちやめようとは思っている」
という段階の患者さんも多いでしょう。
そんなときは5Rという考え方が役立ちます。
Relevance:本人にとって禁煙する意味を考える
患者さん自身の病気や生活と結びつけます。
「最近、階段で息切れするとおっしゃっていましたよね」
など、その人に関係する話から始めます。
Risks:喫煙を続けるリスクを伝える
一方的に怖い話を並べるのではなく、患者さんに関係するリスクを中心に伝えます。
Rewards:禁煙するメリットを伝える
健康面だけではありません。
・たばこ代が減る
・衣服や部屋のにおいが減る
・家族への受動喫煙を減らせる
など、患者さんがメリットと感じるポイントを探します。
Roadblocks:禁煙できない理由を確認する
「仕事中につい吸ってしまう」
「以前禁煙したけれどイライラして続かなかった」
など、障害になっていることを一緒に整理します。
Repetition:何度でも支援する
一度断られたからといって、禁煙支援が失敗というわけではありません。
患者さんのタイミングに合わせて、繰り返し情報提供していくことが重要です。
薬局で禁煙相談を受けたときのチェックポイント
私なら、禁煙相談を受けた場合は最低限次の点を確認します。
・現在吸っているたばこの種類
・1日の喫煙本数
・喫煙年数
・過去の禁煙経験
・禁煙したい気持ちの強さ
・現在の疾患
・服用中の薬
・妊娠・授乳の有無
・OTCで始めたいのか、医療機関の受診も考えているのか
特に「服用中の薬」は薬剤師だからこそ確認できるポイントです。
禁煙補助薬だけを見るのではなく、患者さんの治療全体を見ることが大切だと思います。
まとめ|薬剤師だからできる禁煙支援がある
禁煙支援というと、つい「禁煙補助薬を紹介すること」に目が向きます。
しかし薬剤師ができることは、それだけではありません。
・禁煙するきっかけを作る
・禁煙補助薬を適切に案内する
・使用方法や副作用を確認する
・必要なら禁煙外来へつなぐ
・禁煙による服用薬への影響を確認する
・次回来局時にもフォローする
こうした一つひとつの関わりが禁煙支援になります。
特に2025年10月にはチャンピックスの通常出荷も再開し、禁煙治療の選択肢を改めて整理しておく価値があります。
患者さんから、
「たばこ、そろそろやめようかな」
と言われたとき。
その一言を聞き流さず、もう一歩話を聞いてみる。
それが薬剤師にできる禁煙支援の第一歩ではないでしょうか。

参考文献
参考文献
・厚生労働省「令和6年 国民健康・栄養調査報告」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/r6-houkoku_00001.html
・日本循環器学会、日本肺癌学会、日本癌学会、日本呼吸器学会「禁煙治療のための標準手順書 第8.1版」
https://www.jrs.or.jp/information/jrs/publication/20210916112925.html
・PMDA「チャンピックス錠0.5mg/チャンピックス錠1mg」
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/rdDetail/iyaku/7990003F1028_3?user=1
・ファイザー株式会社「チャンピックス錠 製品情報」
https://www.pfizermedicalinformation.jp/patient/%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%94%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9%E9%8C%A0
・PMDA「ニコチネルTTS30/ニコチネルTTS20/ニコチネルTTS10」
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/rdDetail/iyaku/7990712S1022_3?user=1
・厚生労働省 e-ヘルスネット「禁煙支援」
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/tobacco-summaries/t-06


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