〜リラックス目的の“自然派サプリ”に潜む落とし穴とは?〜
1. はじめに|ハーブだから安心?その思い込みが危ない

「セント・ジョーンズ・ワート」という名前を聞いたことがある方は少ないかもしれませんが、「ストレスに効くハーブサプリ」として海外では非常に人気があります。最近では日本でも、ドラッグストアやネット通販で「気分を前向きにする」「ストレスを和らげる」といった目的で販売されており、リラックスしたいときにハーブティー感覚で使われることもあります。
しかし、“天然だから安全”という認識は間違いです。
実はこのハーブ、飲み合わせによっては他の薬の効果を弱めたり、副作用を強めたりしてしまうことがあります。特に免疫抑制薬や抗うつ薬、経口避妊薬などとの併用は注意が必要です。
2. セント・ジョーンズ・ワートってどんなもの?

セント・ジョーンズ・ワート(和名:セイヨウオトギリソウ)は、ヨーロッパ原産の植物で、黄色い花を咲かせるハーブの一種です。英語では “St. John’s Wort” と表記され、海外では古くから「心を明るくする薬草」として知られています。
含まれる主な成分は以下のとおりです:
- ヒペリシン:気分の改善に関与する成分
- ヒペルフォリン:脳内の神経伝達物質(セロトニンやドーパミンなど)に作用し、抗うつ効果があるとされます
このような成分が、軽度から中等度のうつ症状の改善に役立つ可能性があるとされ、多くの研究が行われてきました。
3. 効果は本当にあるの?

海外の研究では、セント・ジョーンズ・ワートは、軽度〜中等度のうつ症状に対しては、抗うつ薬(SSRIなど)と同等の効果があるとする報告もあります。一方で、ストレスや不安に対する効果については、科学的根拠がやや弱く、「効く人もいれば効かない人もいる」というのが実情です。
また、日本では医薬品ではなく「食品」扱いなので、成分量や品質がばらついていることもあります。つまり、自己判断で使用すると、予期せぬリスクを招く可能性があるのです。
4. なぜ薬との相互作用が問題になるの?

セント・ジョーンズ・ワートには、体内の薬の働きに影響を与える作用があります。その代表的なものが以下の3つです:
- 薬を分解する酵素を増やす作用(CYP3A4など)
→ 一部の薬は、体内で速く分解されすぎてしまい、効果が弱くなるおそれがあります。 - 薬の吸収や排出に関係するたんぱく質(P-gp)を活性化
→ 腸や脳での薬の取り込みが減ってしまい、これもまた薬の効き目を下げる原因になります。 - 脳内のセロトニン濃度を上げる作用
→ 抗うつ薬と一緒に使うと、セロトニンが過剰になり、セロトニン症候群(震え・高熱・混乱など)という危険な状態になることもあります。
つまり、セント・ジョーンズ・ワートは「単体では軽い気分改善に役立つかもしれないハーブ」ですが、他の薬と一緒に使うと、良くない結果を引き起こすことがあるので注意が必要です。
5. どんな薬と飲み合わせが悪いの?

以下は特に注意すべき薬の例です:
薬の種類 | 想定される影響 | 実際に起きたこと(事例) |
シクロスポリン・タクロリムス(免疫抑制薬) | 血中濃度が下がり、移植臓器を拒絶してしまう | 実際に腎移植患者で拒絶反応が起きた報告あり |
経口避妊薬(ピル) | 効果が弱くなり、避妊失敗のリスクが上がる | セント・ジョーンズ・ワートを併用中に妊娠した例も |
抗HIV薬・C型肝炎治療薬 | ウイルスを抑えられなくなる可能性 | 海外ガイドラインでは併用禁止に指定 |
抗凝固薬(DOAC) | 血液が固まりやすくなり、脳梗塞などのリスク増加 | アメリカFDAも注意喚起 |
抗うつ薬・トリプタン系頭痛薬 | セロトニン過剰によりセロトニン症候群のリスク | 発汗、震え、発熱、意識障害などの報告あり |
6. 薬局でできる対策は?

薬剤師として、患者さんの“サプリの使い方”に気づくには次のような工夫が有効です。
● 聞き取りの工夫
「サプリを飲んでいますか?」ではなく、
「リラックスのためのお茶や、気分を整える健康食品を使っていますか?」
と聞くと、患者さんがセント・ジョーンズ・ワートを申告しやすくなります。
● 相互作用のチェックリストを常備
薬局に「併用注意サプリの一覧表」を置き、すぐに確認できるようにしておくのが実務的です。
● 医師への情報共有
処方薬と明らかに相性が悪い場合は、医師に「こういうサプリを患者さんが使っています」と伝えることで、予期せぬ治療失敗を防ぐことができます。
● 代替案の提案
「ストレスを和らげたい」人には、相互作用の少ないカモミールティーやアロマ、睡眠環境の見直しなどを紹介するのも有効です。
7. よくある質問

Q:サプリをやめればすぐに安全になりますか?
A:いいえ。セント・ジョーンズ・ワートの影響は、中止してから1〜2週間は続くことがあります。
Q:ハーブティーでも危険ですか?
A:乾燥葉のお茶では成分量が少ないため影響は少ないことが多いですが、製品によっては濃度が高く注意が必要です。
Q:副作用で肌が敏感になると聞きましたが本当?
A:ヒペリシンという成分に光過敏作用があり、日差しで肌が赤くなったりすることがあります。
8. まとめ

セント・ジョーンズ・ワートは、気軽に手に入るリラックス系サプリとして知られていますが、その裏には薬との深刻な相互作用のリスクが潜んでいます。
特に以下の3つを意識しましょう:
- 患者さんの「サプリ使用歴」を丁寧に確認する
- 併用リスクの高い薬を把握し、必要に応じて医師へ情報提供する
- 相互作用の少ない代替案を提案し、安全な選択肢を一緒に考える
「自然のものだから大丈夫」は、医療の現場では通用しません。
薬剤師のちょっとした気づきが、患者さんの大きな安全につながります。
参考文献
FDA. Examples of Drugs that Interact with CYP Enzymes and Transporter Systems (2025 Jun).

Zhao X et al. SJW vs SSRIs: Meta-analysis of RCTs. Adv Clin Exp Med. 2022.
StatPearls. St. John’s Wort .
Clinical Pharmacology & Therapeutics. SJW and P-gp induction at BBB (2024).
A systematic review on SJW for stress/anxiety (2023).
Weatherby D et al. Clinical relevance of SJW drug interactions revisited. Br J Clin Pharmacol 2019.
FDA. Drug Development & Drug Interactions: Substrate Table (2023).

MDPI. Phototoxicity mitigation via low-hypericin extracts (2024).

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