緑内障は、視神経の障害によって視野が徐々に狭くなっていく進行性の疾患であり、一度失われた視機能は元には戻らないという特性があります。よって、いかに早く発見し、眼圧(IOP)を適切に下げ、視野進行を抑えるかが治療の鍵となります。
一方で、どの点眼薬を選ぶか、いつどのように併用・切り替えるかは、患者の全身状態や緑内障の病型・進行状況によって異なり、薬剤師として適切に判断・指導する必要があります。本記事では、2022年に改訂されたガイドライン第5版のエビデンス・推奨をもとに、主要な4系統の点眼薬の違いや使い分けの考え方を整理します。
■緑内障治療の目的と薬物治療の位置づけ

- 第5版ガイドラインでは、緑内障治療の目的を「患者の 視覚の質(QOV: quality of vision) と、それに伴う 生活の質(QOL) の維持」と位置づけています。
- また、緑内障の唯一確立された治療は 眼圧下降 であり、薬物療法・レーザー療法・手術療法を、病型・病期・進行性を考慮して使い分けることが基本とされています。
- 薬物療法は、まずは点眼による単剤治療が推奨され、効果不十分な場合は 薬剤の追加、あるいは配合剤や他治療への移行が検討されます。
■薬物療法の分類と選択肢

点眼薬によって、房水(眼内の水)の産生を抑えるか、流出を促すかという 作用機序の違い があります。ガイドラインでも、薬物選択はこの作用機序の違いを踏まえて検討するよう記されています。
大きく分けると次のようなクラスがあります:
| アプローチ | 代表薬剤クラス |
| 房水の「流出」を促す | プロスタグランジン関連薬(PGA/FP受容体作動薬) |
| 房水の「産生」を抑える | β遮断薬 / 炭酸脱水酵素阻害薬(CAI) / α₂作動薬 |
ガイドライン第5版では、第一選択として PGAまたはβ遮断薬 を推奨することが明記されています。
――つまり、“まずは単剤治療で開始 → 効果不十分なら併用 → 必要に応じて配合剤 or 他治療” というステップが基本です。
■主な4系統の点眼薬:特徴・注意点

以下に、PGA、β遮断薬、炭酸脱水酵素阻害薬(CAI)、α₂作動薬それぞれの概要と、臨床での使い分けのポイントを示します。
◇PGA(プロスタグランジン関連薬)
例:ラタノプロスト、タフルプロスト、ビマトプロストなど
- 作用:主に房水の流出促進(特にぶどう膜強膜流出路)
- 利点:点眼1日1回で高い眼圧下降効果、継続しやすさ ― 緑内障薬の第一選択肢として広く使われる。ガイドラインでも第一選択薬に挙げられている。
- 注意点:結膜充血、まつ毛の増加、虹彩色素沈着など局所副作用。特に長期使用や美容面(色素変化など)を気にする患者には説明が必要。
- その他の配慮:点眼順序(複数点眼薬併用時)、防腐剤含有・レンズ装用の有無など。
◇β遮断薬
例:チモロール、カルテオロールなど
- 作用:房水産生抑制
- 利点:効果発現が比較的早く、PGAに次ぐ第一選択肢。ガイドラインでもPGAと併記。
- 注意点:全身吸収されると徐脈、気管支痙攣、心機能低下などのリスク。特に喘息やCOPD、心疾患の既往がある患者では慎重な判断が必要。ガイドラインでも個別性の検討を強調。
- 臨床判断:呼吸器疾患や心疾患の有無、全身薬の併用、年齢などを踏まえて選択。
◇炭酸脱水酵素阻害薬(CAI)
例:ドルゾラミド、ブリンゾラミドなど
- 作用:房水産生抑制(毛様体での炭酸脱水酵素阻害による)
- 利点:PGAやβ遮断薬で十分な効果が得られない場合の追加選択肢として有用。ガイドラインでも併用療法の選択肢として明記。
- 注意点:点眼による刺痛、角膜内皮への影響の可能性、防腐剤含有の有無、長期使用での角膜の安全性など。高齢者や角膜疾患既往患者では慎重に。
- 実務上の配慮:眼科で角膜内皮細胞密度を確認してもらう、また点眼後の刺激・不快感を患者に確認する。
◇α₂作動薬
例:ブリモニジン
- 作用:房水産生抑制+流出促進の二重作用
- 利点:PGA/β遮断薬/CAI でも十分な眼圧下降が得られない場合の追加選択肢。ガイドラインでは併用薬の一つとして記載。
- 注意点:眠気、口渇、低血圧などの全身的副作用、また点眼後の局所刺激、アレルギー性結膜炎など。特に高齢者や降圧薬併用者、注意が必要。
- 臨床判断:ライフスタイル(夜間の低血圧リスク、乗用車運転、日中の眠気)や他剤との併用を確認。
■実践での使い分け・併用の考え方

ガイドラインでは、単剤治療から開始し、必要に応じて追加・併用・配合剤を用いるステップを基本としています。
以下は、薬剤師が処方監査や服薬指導で判断を助けるための実践的な指針の例です:
- まずPGA単剤で開始 ― 継続率が高く、多くの症例で眼圧コントロールが可能
- 追加する場合
- 呼吸器疾患や心疾患がある → CAI または α₂作動薬(β遮断薬は慎重)
- 角膜内皮細胞減少の既往がある → PGA または β遮断薬優先、CAI は慎重
- 高齢者/低血圧・起立性低血圧がある → CAI や PGA を優先、α₂作動薬は注意(眠気・血圧低下)
- 点眼順序・間隔:複数点眼薬を使用する場合、洗い流し防止と効果確保のため 5分以上の間隔 を取るのが望ましい(ガイドライン的にも重要)
- 防腐剤・レンズ装用:ベンザルコニウム塩化物(BAK)など防腐剤の有無、コンタクトレンズ装用の有無を確認。刺激感や角膜障害のリスクを減らす。
また、異なる作用機序の薬剤を併用することで、より低い眼圧目標を目指すことが可能ですが、副作用管理と継続性維持が重要です。
■まとめ

- 緑内障治療の基本は眼圧下降であり、薬物療法(点眼)は第一選択肢。
- ガイドライン第5版では、まずPGAまたはβ遮断薬で開始し、効果不十分時にCAIやα₂作動薬の追加を検討する流れが標準。
- 薬剤選択には、患者の全身疾患、角膜状態、年齢、生活背景などを慎重に考慮すべき。
- 薬剤師としては、処方監査時・服薬指導時にこれらの知見を踏まえて判断・助言することが重要。

参考文献
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