【完全版】ADHD治療薬の特徴と使い分け|薬剤師が押さえるべき実践ポイント

医薬品等解説

はじめに

ADHD(注意欠如・多動症)は、集中力の欠如や衝動性、過活動などを特徴とする神経発達症です。日本では小児の約7%、成人の約2〜4%が該当するとされ、年々社会的関心も高まっています。

薬物療法はADHDの第一選択治療の一つであり、薬剤ごとの適切な選択と継続的な支援が、患者のQOL(生活の質)向上につながります。

本記事では、ADHD治療に用いられる4剤の特徴・作用機序・副作用を詳しく解説し、薬剤師が現場で役立てられる服薬指導ポイントも紹介します。



ADHD治療薬の全体像|2つの分類と役割

ADHD治療薬は、作用機序によって以下の2つに分類されます。

分類該当薬剤主な作用
中枢刺激薬コンサータ®(メチルフェニデート)ビバンセ®(リスデキサンフェタミン)ドパミンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害し、注意力・覚醒を高める
非刺激薬ストラテラ®(アトモキセチン)インチュニブ®(グアンファシン)神経活動の調整を通じて、衝動性や多動性を抑制する。依存性がない



各薬剤の特徴と使い分け


◆ コンサータ®(メチルフェニデート徐放錠)

作用機序:
ドパミンおよびノルアドレナリンの再取り込みを抑制し、前頭前皮質の神経伝達を活性化させます。集中力の維持や衝動性の抑制に高い効果を示します。

製剤特徴:
独自のOROS®システムにより、1日1回の服用で最大12時間効果が持続。学校や仕事の時間帯をカバーできます。

用法・用量:

  • 初回:18mgから開始
  • 小児:最大54mg/日、成人:最大72mg/日
  • 食事の影響を受けず、朝1回の服用が原則

主な副作用:

  • 食欲低下(30%以上)
  • 不眠、心拍数増加、血圧上昇
  • チックの悪化

薬剤師の服薬支援ポイント:

  • 流通は登録医制度+専用薬局に限定
  • 徐放錠のため割って服用するのは不可
  • 指導例:
     >「このお薬は朝に飲むことで、1日を通して集中しやすくなります。遅い時間に飲むと眠れなくなることがあるため、毎朝同じ時間に服用してくださいね。」



◆ ビバンセ®(リスデキサンフェタミン)

作用機序:
体内でd-アンフェタミンに変換されて効果を発揮するプロドラッグです。血中濃度が急激に上がらず、依存や乱用のリスクが低いとされています。

適応と特性:

  • 日本では6〜17歳の小児にのみ適応
  • 効果発現:約1時間、持続時間:10〜14時間

用法・用量:

  • 初回30mg、最大70mg/日
  • 朝1回、食事の影響は少ない
  • カプセルの開封や混合服用は未承認

主な副作用:

  • 食欲低下、不眠、頭痛、易刺激性
  • 血圧・心拍数の上昇も報告あり

薬剤師の服薬支援ポイント:

  • 成人は使用不可(2025年時点)
  • 処方時は保護者との連携が重要
  • 指導例:
     >「体内でゆっくり効くように設計されているので、飲んですぐ効かなくても心配はいりません。夕方以降の服用は眠れなくなる原因になるため、朝に飲むようにしてください。」



◆ ストラテラ®(アトモキセチン)

作用機序:
ノルアドレナリンの再取り込みを選択的に阻害します。刺激薬ではないため、依存性がなく、長期使用にも適しています。

適応と特性:

  • 小児・成人ともに適応あり
  • 効果発現は2〜4週間かかる
  • 併存症(チック、不安障害)がある患者にも使用しやすい

用法・用量:

  • 成人:40mg開始、最大120mg/日
  • 小児:体重0.5mg/kgから開始し、最大1.8mg/kg
  • 1日1回または2回分割投与

主な副作用:

  • 胃部不快感、眠気、頭痛
  • 稀に肝機能障害、自殺念慮(特に若年)

薬剤師の服薬支援ポイント:

  • 効果が遅いため、継続の重要性をあらかじめ説明
  • CYP2D6代謝→薬物相互作用に注意
  • 指導例:
     >「このお薬はすぐに効果が出るわけではありません。焦らず2〜3週間は様子を見てくださいね。副作用が気になるときは我慢せずご相談ください。」



◆ インチュニブ®(グアンファシン徐放錠)

作用機序:
中枢性α2Aアドレナリン受容体に作用し、神経の興奮を抑制。衝動性や多動性の軽減に効果的です。

適応と特性:

  • 小児・成人に適応
  • 睡眠障害やチック併存例に有効
  • 長時間作用型で就寝前の1日1回服用

用法・用量:

  • 小児:1mg開始、最大4mg
  • 成人:2mg開始、最大6mg
  • 急な中止は高血圧のリバウンドに注意

主な副作用:

  • 傾眠、起立性低血圧、口渇、徐脈
  • 朝のふらつきや立ちくらみに注意

薬剤師の服薬支援ポイント:

  • 開始・増量時は血圧や脈拍の確認が必要
  • 就寝前に服用し、朝の立ちくらみをチェック
  • 指導例:
     >「このお薬は眠くなりやすいため、就寝前に服用してください。朝起きたときにふらつきがあるようならすぐご相談を。自己判断で中止せず、必ず医師と相談してくださいね。」


参考URL

https://www.pmda.go.jp/RMP/www/400256/0f3ed6df-8f2d-4a98-a111-9949c5be193e/400256_1179057G1021_05_001RMPm.pdf?utm_source=chatgpt.com

薬剤の比較と選び方の実践早見表

状況推奨薬剤理由
日中しっかり集中したいコンサータ®長時間持続。学校や仕事に適した設計
食欲低下を最小限にしたいインチュニブ®鎮静作用が主。刺激薬より副作用が穏やか
チック・不安障害があるストラテラ® or インチュニブ®非刺激薬で併存症に配慮可能
刺激薬が合わない/依存を避けたいストラテラ®長期使用に適し、安全性が高い
小児で日中の活動をカバーしたいビバンセ®体内でゆっくり効き、安定した効果持続



まとめ|薬剤師が担うADHD治療支援の役割

ADHD治療薬は、単に「効く/効かない」だけでなく、「いつ効くか」「どんな副作用があるか」「患者の生活にどうフィットするか」といった視点での選択が求められます。

薬剤師は、処方の意図を理解し、患者・保護者に適切に説明することで、治療の成功をサポートできます。残薬の確認や副作用のモニタリング、併用薬との相互作用など、薬剤師ならではの視点が活きる場面は多くあります。

患者の生活に寄り添い、「この薬を使ってよかった」と思えるような支援を、薬局から届けていきましょう。


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