ARBとは何か?なぜ処方されるのか

ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)は、血圧を下げるだけでなく、腎臓や心臓を守る薬です。高血圧の患者さんだけでなく、糖尿病や慢性腎臓病(CKD)で蛋白尿がある方、心不全や心筋梗塞後の患者さんにも処方されます。
薬の効果はすぐに体感できるものではありません。血圧が下がるのもゆっくりですし、腎臓や心臓を守る効果は何年も続けて飲むことで現れるものです。ですから「特に症状がないからもう飲まなくていい」と自己判断で中止してしまうと、合併症のリスクが高まってしまいます。ここを患者さんにしっかり伝えることが大切です。
RAASの基礎とARBの作用機序

血圧や体液量を調整するシステムをRAAS(レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系)と呼びます。
流れを簡単に言うと、腎臓から分泌されるレニンが引き金となり、最終的に「アンジオテンシンⅡ」という物質ができます。これが血管を収縮させて血圧を上げたり、ナトリウムや水分を保持するように働きます。
ARBは、このアンジオテンシンⅡが結合する「AT1受容体」をブロックする薬です。結果として、血管が広がって血圧が下がり、腎臓の負担も減ります。また、ACE阻害薬と違って「ブラジキニン」という物質の分解に関わらないため、咳の副作用が少ないというメリットがあります。
適応とガイドラインにおける位置づけ

ARBは次のような患者でよく使われます。
- 高血圧:主要な降圧薬のひとつ。特に合併症のある患者で選ばれやすい。
- CKD(慢性腎臓病)で蛋白尿がある人:尿中に蛋白が漏れると腎臓がさらに悪くなるため、ARBで蛋白尿を減らすことが有効。
- 糖尿病腎症:早期からアルブミン尿を抑える目的で使用される。
- 心不全・心筋梗塞後:ACE阻害薬が合わない場合に代替薬として。
- 脳・心血管疾患の再発予防:血圧管理の一環として使われる。
ARB製剤ごとの特徴と違い

日本でよく使われるARBには、ロサルタン・カンデサルタン・バルサルタン・テルミサルタン・オルメサルタン・イルベサルタン・アジルサルタンなどがあります。それぞれに投与回数、代謝経路、エビデンスに違いがあり、患者さんの背景によって使い分けが考慮されます。
ロサルタン(ニューロタン®)
- 世界初のARB。
- 特徴:尿酸排泄作用を持つため、高尿酸血症や痛風を合併している患者にメリットがある。
- 用法:通常は1日1回。
- エビデンス:RENAAL試験で糖尿病腎症における腎保護効果を示した。
カンデサルタン(ブロプレス®)
- プロドラッグ製剤で、体内で活性体に変換されて効果を発揮。
- 半減期が長く、1日1回投与で安定した効果が得られる。
- エビデンス:心不全に対する有効性を示すデータがあり、循環器領域で多用される。
バルサルタン(ディオバン®)
- 世界的に使用されているARBの一つ。
- 特徴:血圧降下作用が強め。
- エビデンス:VALIANT試験で心筋梗塞後の心不全患者に有効性を示した。
- 固定配合剤:CCBや利尿薬との配合剤が豊富に存在。
テルミサルタン(ミカルディス®)
- 特徴:半減期が非常に長く、24時間以上持続する。1日1回投与で安定。
- 脂溶性が高く、胆汁排泄型で腎機能低下患者でも使いやすい。
- エビデンス:ONTARGET試験などで心血管イベント抑制効果が示されている。
オルメサルタン(オルメテック®)
- プロドラッグ。
- 高い降圧効果が特徴。
- 固定配合剤が多く、CCBや利尿薬との組み合わせが選びやすい。
イルベサルタン(アバプロ®)
- 半減期が比較的長く、1日1回投与で安定。
- エビデンス:IDNT試験で糖尿病腎症における腎保護効果を証明。
アジルサルタン(アジルバ®)
- 比較的新しいARB。
- プロドラッグであり、高いAT1受容体親和性を持つため降圧効果が強力。
- 少量から効果が出やすく、1日1回投与で十分な降圧が可能。
実際の現場での選び方
薬剤師としては、以下の点を整理して患者背景に応じた提案ができます。
- 続けやすさ:1日1回投与で済むかどうか(多くのARBは可能)。
- 合併症に合わせる:痛風ならロサルタン、腎保護ならロサルタン/イルベサルタン、心血管疾患合併ならテルミサルタンやバルサルタン。
- 代謝・排泄:腎機能低下例では胆汁排泄型のテルミサルタンが有用。
- 固定配合剤:アドヒアランス重視なら配合剤が選べる製剤を選択。
副作用とその伝え方

ARBは比較的副作用が少ない薬ですが、いくつか注意点があります。
- めまい・ふらつき:飲み始めや増量時に血圧が下がりすぎて起こることがあります。特に起き上がるときはゆっくり動作するよう指導します。
- 高カリウム血症:血液中のカリウムが増えると、不整脈やだるさにつながります。ただし自覚症状が少ないため、定期的な採血で確認が必要です。
- 腎機能の悪化:導入直後にクレアチニンが少し上がることはありますが、多くは想定内です。大幅な悪化があれば医師への報告が必要です。
- まれな副作用:唇や舌の腫れ、息苦しさなどの「血管浮腫」が起こることがあります。出現時は救急受診を説明します。
併用戦略と固定配合剤

ARB単独で効果が不十分な場合は、カルシウム拮抗薬(CCB)や利尿薬(チアジド系)と組み合わせるのが基本です。
- ARB+CCB:むくみを抑えつつ降圧しやすい。
- ARB+利尿薬:塩分の影響が強い患者に有効。
固定配合剤は飲み忘れ防止に役立ちますが、用量調整が難しくなるため注意が必要です。
開始前チェックとモニタリング

開始前に確認すべきこと
- 血圧と脈拍
- 腎機能(eGFR/クレアチニン)、電解質(特にカリウム)
- 妊娠の可能性
- 併用薬(NSAIDsや利尿薬など)
開始後の流れ
- 1〜2週間で再検査し、腎機能とカリウムを確認
- 軽度のクレアチニン上昇は許容できることもあるが、急激な悪化は中止や減量を検討
血圧測定の仕方と継続支援
家庭で血圧を測ることは治療効果を確認する上でとても重要です。
- 朝:起床後1時間以内、排尿後、朝食前、服薬前に座って2回測定。
- 夜:就寝前に座って2回測定。
- 測定結果はノートやアプリに記録して、診察時に医師や薬剤師と共有すると治療に役立ちます。
患者さんが面倒に感じないように「1日2回でOK」「習慣化すれば数分で終わる」と説明すると続けやすくなります。
生活習慣改善と併せた指導が重要

薬だけに頼るのではなく、生活習慣の改善もセットで取り組むと効果が高まります。
- 減塩:みそ汁の回数を減らす、加工食品を控えるなど。
- 体重管理:BMIを意識した適正体重を目指す。
- 運動:無理のない範囲でのウォーキングやストレッチ。
- 飲酒・喫煙:血圧に直結するため、減酒や禁煙を支援。
こうした生活習慣改善は、患者さんが「自分でできること」として前向きに取り組めるよう、具体例を交えて説明すると効果的です。
まとめ

ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)は、高血圧や腎疾患・心不全に広く用いられる薬です。副作用が少なく継続しやすい一方で、高カリウム血症や腎機能悪化には注意が必要です。製剤ごとに尿酸排泄作用や腎保護効果、胆汁排泄型などの特徴があり、患者の合併症や腎機能、生活背景に応じて選択されます。飲み忘れ対応や家庭血圧測定、食事・サプリ指導を含め、薬剤師が生活全体をサポートすることが大切です。
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