片頭痛は「ただの頭痛」と思われがちですが、実際には日常生活や仕事、家事、学業に大きな影響を与える疾患です。
頭がズキズキ痛むだけでなく、吐き気、光や音への過敏、体を動かすと悪化するなどの症状を伴うこともあります。
片頭痛治療では、発作が起きたときに使う薬だけでなく、発作そのものを減らす予防薬も選択肢になります。近年は、トリプタン系薬、ラスミジタン、CGRP関連薬、ゲパント系薬など、治療薬の種類が増えてきました。
その一方で、
「ロキソニンでよいのか」
「トリプタンと新しい薬は何が違うのか」
「予防薬はどのような患者さんで考えるのか」
「薬を使いすぎると頭痛が悪化するのか」
と迷う場面も増えています。
この記事では、片頭痛治療薬の違いと使い分けを、薬剤師の視点で解説します。
片頭痛治療は「急性期治療」と「予防療法」に分けて考える

片頭痛の薬物治療は、大きく分けて2つあります。
1つ目は、頭痛発作が起きたときに使う「急性期治療薬」です。今まさに起きている頭痛や吐き気などを抑えるために使います。
2つ目は、頭痛発作の回数や重症度を減らすために使う「予防薬」です。頭痛がない日も継続して使用し、発作が起こりにくい状態を目指します。
片頭痛治療で大切なのは、「痛くなったら薬を飲む」だけで終わらせないことです。
急性期治療薬の効果が不十分な場合、服用回数が多い場合、仕事や生活への支障が大きい場合は、予防療法を検討することがあります。
片頭痛治療薬の全体像
| 分類 | 主な薬剤 | 役割 |
|---|---|---|
| 非ステロイド性抗炎症薬・アセトアミノフェン | ロキソプロフェン、ナプロキセン、アセトアミノフェンなど | 軽度から中等度の発作に使う |
| トリプタン系薬 | スマトリプタン、ゾルミトリプタン、リザトリプタン、エレトリプタン、ナラトリプタンなど | 片頭痛発作に特化した急性期治療薬 |
| ジタン系薬 | ラスミジタン | 血管収縮作用を介さない急性期治療薬 |
| ゲパント系薬 | リメゲパント | 急性期治療と発症抑制の両方に使われる経口CGRP受容体拮抗薬 |
| 従来型の予防薬 | ロメリジン、プロプラノロール、バルプロ酸など | 発作回数を減らす目的で使う |
| 抗CGRP抗体・抗CGRP受容体抗体 | ガルカネズマブ、フレマネズマブ、エレヌマブなど | 片頭痛発作の発症抑制に使う注射薬 |
| 経口CGRP受容体拮抗薬 | アトゲパント | 片頭痛発作の発症抑制に使う内服薬 |
急性期治療薬の使い分け
急性期治療薬は、発作が起きたときに使う薬です。
ポイントは、患者さんの頭痛の強さ、吐き気の有無、発作の立ち上がり方、生活への支障、既往歴、併用薬などを見ながら選ぶことです。
「いつもロキソニンで済ませている」という患者さんでも、片頭痛としての特徴が強く、日常生活に支障が出ている場合は、片頭痛に特化した薬が必要になることがあります。
非ステロイド性抗炎症薬・アセトアミノフェン
ロキソプロフェン、ナプロキセン、イブプロフェン、アセトアミノフェンなどは、軽度から中等度の片頭痛発作で使われることがあります。
比較的使いやすい薬ですが、片頭痛が強い場合や、吐き気を伴う場合、体を動かせないほどの痛みがある場合は、十分な効果が得られないこともあります。
また、非ステロイド性抗炎症薬では胃腸障害、腎機能への影響、喘息の悪化などに注意が必要です。高齢者や腎機能が低下している患者さんでは、漫然とした使用を避ける必要があります。
服薬指導のポイント
市販薬も含めて、鎮痛薬を頻回に使っていないか確認します。
「何日くらい頭痛薬を使っていますか?」
「1か月で何回くらい飲みますか?」
「効きにくくなってきた感じはありませんか?」
このように、薬の名前だけでなく、使用日数を確認することが大切です。
トリプタン系薬
トリプタン系薬は、片頭痛発作に特化した急性期治療薬です。
セロトニン5-HT1B/1D受容体に作用し、片頭痛に関係する神経血管系の反応を抑えることで効果を示します。
代表的な薬剤には、スマトリプタン、ゾルミトリプタン、リザトリプタン、エレトリプタン、ナラトリプタンなどがあります。
トリプタン系薬の主な特徴
| 薬剤 | 特徴 |
|---|---|
| スマトリプタン | 錠剤、点鼻、皮下注など剤形が多い |
| ゾルミトリプタン | 口腔内崩壊錠があり、水なしでも服用しやすい |
| リザトリプタン | 効果発現が比較的速い薬剤として使われることがある |
| エレトリプタン | 持続性を期待して使われることがある |
| ナラトリプタン | 効果発現は穏やかだが、作用時間が長め |
トリプタン系薬は、発作の早い段階で服用することが重要です。ただし、前兆だけの段階で飲むのではなく、頭痛が始まってから服用するのが基本です。
トリプタン系薬で注意したい患者さん
トリプタン系薬は血管収縮に関係する作用を持つため、虚血性心疾患、脳血管障害、コントロール不良の高血圧などがある患者さんでは注意が必要です。
また、薬剤ごとに相互作用もあります。
たとえば、リザトリプタンはプロプラノロールとの併用で血中濃度が上昇するため、用量に注意が必要です。エレトリプタンはCYP3A4阻害薬との相互作用に注意します。
薬剤師としては、トリプタンが処方されたときに「禁忌・併用薬・既往歴・服用タイミング」を確認することが大切です。
ラスミジタン
ラスミジタンは、セロトニン5-HT1F受容体作動薬です。トリプタン系薬とは異なり、血管収縮作用を介さない急性期治療薬とされています。
そのため、トリプタン系薬が使いにくい患者さんで選択肢になることがあります。
一方で、ラスミジタンでは眠気、めまい、ふらつきなどの中枢神経系の副作用に注意が必要です。
特に重要なのが、服用後の自動車運転です。ラスミジタン服用後は一定時間、自動車の運転や危険を伴う機械操作を避ける必要があります。
服薬指導のポイント
ラスミジタンが処方された患者さんには、効果だけでなく、服用後の生活行動まで確認する必要があります。
「服用後に車を運転する予定はありませんか?」
「仕事で機械操作や高所作業はありませんか?」
「眠気やふらつきが出ることがあります」
このように、患者さんの生活背景に合わせた説明が重要です。
リメゲパント
リメゲパントは、CGRP受容体を阻害するゲパント系薬です。
日本では、ナルティークOD錠75mgとして、片頭痛発作の急性期治療と発症抑制の両方を適応として承認されています。
リメゲパントの特徴は、急性期治療薬としても、予防薬としても使われる点です。
急性期治療では片頭痛発作時に使用し、発症抑制では隔日投与で使用されます。
トリプタン系薬と異なり、血管収縮作用を主な作用としないため、トリプタンが使いにくい患者さんで選択肢になる可能性があります。
リメゲパントで注意したい点
リメゲパントはCYP3Aに関連する相互作用に注意が必要です。
強いCYP3A阻害薬やCYP3A誘導薬との併用では、効果や副作用に影響する可能性があります。
また、急性期治療と発症抑制で用法が異なるため、患者さんが混乱しないように説明することが大切です。
「痛いときに飲む薬なのか」
「予防として定期的に飲む薬なのか」
この点を処方内容に合わせて確認しましょう。
片頭痛の予防薬はどんなときに考える?

片頭痛の予防薬は、発作が起きてから対処するだけでは生活への支障が大きい場合に検討されます。
たとえば、以下のような患者さんでは予防療法を考えることがあります。
片頭痛発作が月に複数回ある場合、頭痛によって仕事や日常生活に支障が出ている場合、急性期治療薬の効果が不十分な場合、急性期治療薬の使用回数が多い場合などです。
予防薬は「頭痛が起きたときに飲む薬」ではありません。頭痛がない日も継続して服用し、発作の頻度や重症度を減らすことを目指します。
そのため、服薬指導では「すぐに効かないから中止する」のではなく、一定期間継続して効果を評価する薬であることを伝える必要があります。
従来型の片頭痛予防薬
片頭痛予防では、以前から使われている薬剤もあります。
代表的なものに、ロメリジン、プロプラノロール、バルプロ酸などがあります。
ロメリジン
ロメリジンは、片頭痛予防薬として使われるカルシウム拮抗薬です。
眠気やふらつきなどに注意しながら使用します。片頭痛予防薬として処方されることが多く、薬局でも比較的見る機会がある薬です。
プロプラノロール
プロプラノロールはβ遮断薬です。
片頭痛予防に使われることがありますが、気管支喘息、徐脈、心不全などがある患者さんでは注意が必要です。
また、リザトリプタンとの相互作用にも注意します。
バルプロ酸
バルプロ酸は抗てんかん薬ですが、片頭痛予防に使われることがあります。
眠気、ふらつき、肝機能障害、体重増加、妊娠に関するリスクなど、確認すべき点が多い薬です。
特に妊娠可能年齢の女性では、使用の適否を慎重に確認する必要があります。
抗CGRP抗体・抗CGRP受容体抗体
近年の片頭痛予防で大きな変化となったのが、CGRP関連薬の登場です。
CGRPは、片頭痛の病態に関わる神経ペプチドの一つです。CGRP関連薬は、このCGRPの働きや受容体への作用を抑えることで、片頭痛発作の発症を抑える薬です。
日本で使われている注射薬には、ガルカネズマブ、フレマネズマブ、エレヌマブなどがあります。
抗CGRP抗体・抗CGRP受容体抗体の特徴
| 薬剤 | 標的 | 投与間隔のイメージ |
|---|---|---|
| ガルカネズマブ | CGRP | 月1回 |
| フレマネズマブ | CGRP | 月1回または3か月に1回 |
| エレヌマブ | CGRP受容体 | 月1回 |
これらは片頭痛発作の発症抑制を目的とする薬であり、発作が起きたときに痛み止めとして使う薬ではありません。
薬局では、自己注射の手技、保管方法、注射部位反応、廃棄方法、費用負担などを説明する場面があります。
特に自己注射では、「冷蔵庫から出してすぐ打たない」「注射部位を毎回ずらす」「使用済みの針やデバイスの扱いを確認する」といった具体的な説明が大切です。
アトゲパント
アトゲパントは、経口CGRP受容体拮抗薬です。
日本では、アクイプタ錠として片頭痛発作の発症抑制を効能・効果として承認され、発売されています。
従来のCGRP関連薬は注射薬が中心でしたが、アトゲパントは内服で片頭痛発作の発症抑制を目指せる点が特徴です。
「注射は抵抗がある」
「自己注射の管理が難しい」
「内服で予防療法を行いたい」
このような患者さんでは、治療選択肢の一つになる可能性があります。
アトゲパントで注意したい点
アトゲパントは毎日服用する予防薬です。
急性期治療薬ではないため、発作が起きたときに頓服で使う薬ではありません。
服薬指導では、リメゲパントとの違いも含めて整理するとわかりやすくなります。
リメゲパントは急性期治療と発症抑制の両方に使われる薬、アトゲパントは発症抑制に使われる薬です。
どちらもCGRP受容体に関係する薬ですが、用法や位置づけが異なるため、患者さんに合わせた説明が必要です。
薬剤の使用過多による頭痛にも注意
片頭痛治療で見落としやすいのが、薬剤の使用過多による頭痛です。
頭痛が不安で鎮痛薬を頻回に使うと、かえって頭痛の頻度が増え、薬が効きにくくなることがあります。
特に、市販薬を含めた鎮痛薬の使用状況は、薬局で確認しやすいポイントです。
「処方薬は月に数回だけ」と話していても、実際には市販の鎮痛薬を何度も使っている患者さんもいます。
確認したい質問例
「市販の頭痛薬も使っていますか?」
「1か月に何日くらい頭痛薬を飲みますか?」
「薬を飲む回数が以前より増えていませんか?」
「薬を飲んでも効きにくくなっていませんか?」
片頭痛の患者さんでは、薬の種類だけでなく、使用日数を確認することが大切です。
服薬指導で確認したいポイント
片頭痛治療薬では、薬ごとの説明だけでなく、患者さんの生活への影響を確認することが重要です。
たとえば、トリプタン系薬では服用タイミングや再服用の間隔、既往歴、併用薬を確認します。
ラスミジタンでは眠気やふらつき、服用後の運転制限を説明します。
CGRP関連注射薬では、保管方法、注射手技、注射部位反応、費用面の不安を確認します。
リメゲパントやアトゲパントでは、急性期治療なのか発症抑制なのか、用法の違いを丁寧に説明する必要があります。
片頭痛治療薬は選択肢が増えた分、患者さんが混乱しやすい領域です。薬剤師が「この薬は何のために使うのか」を整理して伝えることが、服薬継続や適正使用につながります。
片頭痛治療薬の使い分けまとめ
片頭痛治療薬は、急性期治療薬と予防薬に分けて考えると整理しやすくなります。
軽度から中等度の発作では、非ステロイド性抗炎症薬やアセトアミノフェンが使われることがあります。
日常生活に支障がある片頭痛発作では、トリプタン系薬が選択肢になります。
トリプタン系薬が使いにくい場合や効果不十分な場合には、ラスミジタンやリメゲパントなどが検討されることがあります。
発作の頻度が多い、生活への支障が大きい、急性期治療薬の使用回数が多い場合には、予防療法も重要です。
予防薬には、ロメリジン、プロプラノロール、バルプロ酸などの従来薬に加え、抗CGRP抗体・抗CGRP受容体抗体、アトゲパントなどの新しい選択肢もあります。
片頭痛治療は、薬の種類が増えたことで、より患者さんに合わせた治療を選びやすくなりました。
その一方で、薬剤師には、薬の作用機序、使うタイミング、副作用、相互作用、生活上の注意点を整理して説明する力が求められます。
「いつ飲む薬なのか」
「予防薬なのか、痛いときの薬なのか」
「何日以上使うと注意が必要なのか」
「運転や仕事に影響しないか」
こうした点を丁寧に確認することで、片頭痛に悩む患者さんをより実践的に支えることができます。
薬剤師として片頭痛治療に関わる意味

片頭痛は、見た目ではつらさが伝わりにくい疾患です。
「頭痛くらいで休めない」
「薬を飲めば何とかなる」
「病院に行くほどではない」
そう考えて、十分な治療につながっていない患者さんも少なくありません。
薬局で患者さんの話を聞いていると、頭痛薬の使用回数が多かったり、市販薬で我慢していたり、処方薬の使い方を誤解していたりすることがあります。
薬剤師ができることは、単に薬を渡すことだけではありません。
薬の使い方を整理し、受診の必要性に気づき、患者さんが自分の頭痛と向き合えるように支えることも大切な役割です。
片頭痛治療薬の選択肢が増えている今だからこそ、薬剤師の知識と説明力がより重要になっていると感じます。

参考資料
日本頭痛学会:頭痛の診療ガイドライン2021
日本頭痛学会:CGRP関連新規片頭痛治療薬ガイドライン
日本頭痛学会:薬剤の使用過多による頭痛
ファイザー株式会社:ナルティークOD錠に関するプレスリリース
アッヴィ合同会社:アクイプタに関する製品情報


コメント