薬剤師が知っておくべき作用機序・選び方・服薬指導のポイントをやさしく解説
はじめに|片頭痛と薬剤師の役割

片頭痛は、日本人のおよそ10人に1人が悩んでいる身近な病気です。特に働き盛りの女性に多く、頭痛のせいで仕事や家事、学業に集中できないという声も少なくありません。厚生労働省によると、片頭痛による社会的損失は年間3,600億円以上と推計されています。
この片頭痛、実は“薬の使い方”で症状の重さや頻度をコントロールできることが多く、薬剤師が患者さんの治療をサポートできる場面がたくさんあります。
1. 治療薬の全体像をつかもう

片頭痛の治療は大きく分けて「急性期治療」と「予防療法」の2つがあります。
- 急性期治療:今まさに起きている頭痛を「止める」薬
- 予防療法:頭痛が起きる回数を「減らす」ために使う薬
標的(効くしくみ) | 急性期に使う薬 | 頭痛を減らす予防薬 |
脳の血管を収縮 | トリプタン系 | ― |
神経の興奮をおさえる | ジタン系 | ― |
痛み物質の働きをブロック | ゲパン系 | 抗CGRP抗体/アトゲパント |
炎症をしずめる | NSAIDsなど | β遮断薬、てんかん薬など |
※「CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)」は片頭痛に関係する痛みの物質の一つです。
2. 急性期の薬|発作が出たらすぐ飲む

2-1 NSAIDs(ロキソニン®など)・アセトアミノフェン
- 軽い頭痛のときにまず使う薬
- 発作の最初の30分以内に飲むと効果が出やすい
- 飲みすぎると「鎮痛薬のせいで頭痛が悪化する」ことがあるため、月10回までが目安
2-2 トリプタン系
トリプタンは片頭痛専用の処方薬です。痛みの原因になっている脳の血管の拡がりを元に戻す作用があります。高血圧や心血管リスクがある場合は使用に注意が必要。
製剤名 | 特徴 | 注意点 |
スマトリプタン皮下注 | 10分以内に効く | 嘔吐して薬が飲めない時にも使える |
リザトリプタンOD錠 | 口で溶けて飲みやすい | 他の薬との飲み合わせ(SSRIなど)に注意 |
ゾルミトリプタン | 持続時間が長め | タバコや他の薬の影響で効き方が変わることも |
再度使うときは2時間以上空けて、1日2回までが目安です。
2-3 ジタン系(ラスミジタン)
- 血管を収縮させないので、心臓に持病がある方でも使える新しい薬
- ただし副作用で眠気・ふらつきが出やすいため、飲んだ後8時間は車の運転禁止
- 2022年に販売承認された新しいお薬
2-4 ゲパン系(リメゲパントなど)
- CGRPという痛み物質の働きをブロックして片頭痛を和らげます
- トリプタンが効かない人や、副作用が出た人にも使える
- 一緒に使う薬によっては効きすぎたり、効かなくなったりすることもある
- 日本では未承認のため、今後の動きに注目
2-5 補助薬(併用薬)
- トリプタン+ナプロキセンのような併用は、痛みの戻りを防ぐ効果あり
- 吐き気が強い場合は、メトクロプラミドという吐き気止めを一緒に使うと効果的
3.片頭痛の予防薬

3-1 抗CGRP抗体(注射薬)
抗CGRP抗体は1か月~3か月に1回注射することで、頭痛の回数を大きく減らせる治療薬です。自己注射も可能です。
ポイント | 内容 |
効果が出るまで | 1~2週間で実感できる人が多い |
よくある副作用 | 注射した場所が赤くなる、かゆくなるなど |
保管と使い方 | 冷蔵→室温に30分戻す→太ももやお腹に打つ |
→ 注射方法は薬局で指導されることが多いので、薬剤師の説明が重要。費用については高額になるので患者への確認も必要。
3-2 アトゲパント(飲み薬タイプ)※国内では未承認
- 毎日1回飲むだけの新しい予防薬(CGRP受容体をブロック)
- 肝機能に注意が必要なので、最初の3か月は定期的に血液検査をします
3-3 片頭痛の予防薬
種類 | 使う場面 | 注意点 |
β遮断薬(プロプラノロール) | 血圧が高い人にも使える | 気管支に問題がある人は注意トリプタン系の併用は× |
抗てんかん薬(バルプロ酸) | 効果が強め | 眠気・注意力低下が出ることも |
ミグシス | 片頭痛予防薬の第一選択薬 | 眠気が出ることもある |
4. 飲み合わせと服薬指導のチェックポイント

トラブル | 対策 |
トリプタン+抗うつ薬 | セロトニン症候群に注意(発汗・震え・焦燥感) |
ゲパン系+抗真菌薬 | 効果が強くなりすぎる可能性があるので、相互作用について確認が必要 |
自己注射薬の扱い | 保管・注射のコツ・針の廃棄方法まで丁寧に説明 |
5. アプリや機器も活用してみよう

- CEFALY® や gammaCore®など、薬を使わず電気刺激で頭痛を緩和する機器もあります(欧米では使用可能)
- 頭痛記録アプリで、発作の頻度・誘因・薬の効果を記録することで、治療方針を見直しやすくなります
6. 薬剤師としてのキャリアアップにもつながる

近年、片頭痛治療薬は種類が増え、薬剤師の専門性が発揮できる領域として注目されています。
- 「自己注射指導ができる薬局」や「神経内科に強いクリニック」で働くことで、新しい薬の知識や症例を積むことができます
- 転職を考えるときは、頭痛領域に詳しい転職エージェントに相談すると希望に合った職場が見つかりやすくなります
参考URL:https://www.medi-l.com/blog/medileadlabo-article/n0082/?utm_source=chatgpt.com
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=20721
https://www.jsnt.gr.jp/guideline/img/zutsu_2021.pdf?utm_source=chatgpt.com
https://www.pmda.go.jp/drugs/2022/P20220112003/530471000_30400AMX00002_G100_1.pdf?utm_source=chatgpt.com
https://www.pmda.go.jp/drugs/2022/P20220112003/530471000_30400AMX00002_G100_1.pdf?utm_source=chatgpt.com
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=20766&utm_source=chatgpt.com
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