新たな選択肢!六君子湯の使い方ガイド

医薬品等解説

胃もたれ・食欲不振に効く漢方を薬剤師が解説


はじめに

「最近、患者さんから“食欲がない”“胃が重い”と相談されるけれど、PPI だけでは効き目が弱い……」そんな場面で頼りになるのが六君子湯(りっくんしとう)です。機能性ディスペプシア(FD)やがん治療に伴う食欲不振などでエビデンスが蓄積し、2023 年版 FD ガイドラインでも推奨度 A と評価されています。本記事では、新人薬剤師でもすぐに服薬指導に活かせるよう、処方の基本から最新の臨床試験データまでを整理しました。



1.六君子湯とは?—処方構成と歴史

1-1 構成生薬と主な働き(早見表)

生薬量(g)*主な作用のポイント
人参4.0胃腸粘膜保護・食欲増進
半夏4.0逆流・悪心の緩和
蒼朮4.0消化管運動促進、利水
茯苓4.0浮腫改善、心窩部圧迫感の軽減
陳皮2.0胃排出能改善、ガス抑制
大棗2.0補血・鎮静
甘草1.0調和・制酸(副作用:偽アルドステロン症に注意)
生姜0.5胃粘膜血流増加、制吐

*ツムラ六君子湯エキス顆粒 7.5 g(1 日量)の原料組成よりPMDA


1-2 伝統から現代へ

六君子湯は、中国宋代の医書『太平惠民和剤局方』(1151 年)に記載された補気健脾剤。日本では江戸期に普及し、現在は保険適応のある医療用漢方として広く処方されています。


2.作用機序と最新エビデンス

2-1 グレリン経路を中心とした胃腸機能改善

  • グレリン分泌促進:人参・生姜・陳皮などが胃からのグレリン分泌を高め、視床下部の食欲中枢を刺激。
  • 胃排出能の改善:蒼朮・半夏が平滑筋を活性化し、胃内容物の排出をスムーズに。
  • 抗ストレス・抗炎症:グレリン経路を介して Sirt1 を活性化し、炎症や酸化ストレスを抑制する可能性が報告されています。




3.適応・患者プロファイル

3-1 保険適応と用法

  • 効能・効果:胃炎、胃下垂、消化不良、食欲不振、嘔吐など(胃腸虚弱タイプ)
  • 通常用量:成人 1 日 7.5 g(顆粒)を 2〜3 回に分け、食前または食間に内服。症状・体格で増減可。

3-2 こんなときにフィット(ケーススタディ)

  1. “食べ始めは普通なのにすぐ満腹”
    • 早期膨満が目立つ FD 患者。PPI+六君子湯で 3 週後に胃もたれ改善。
  2. シスプラチン療法中の食欲不振
    • 六君子湯併用で摂取カロリーが 20 %↑、体重減少抑制。
  3. 高齢者の慢性胃炎+冷え
    • 温性生薬を含むため、冷えやすい虚弱高齢者でも使いやすい。



4.六君子湯を使いこなす 4 つのポイント

  1. 服用タイミング
    • 食前 30 分または食間(空腹時)の方が吸収が安定し、胃排出能改善効果が高いとされています。
  2. 味・服用コンプライアンス
    • 顆粒が苦手なら分包を白湯に溶かして“温かい葛湯”風に。最近は錠剤製剤も市販されています。
  3. 併用注意
    • 甘草含有製剤やループ利尿薬併用で低カリウム血症リスク↑。K 値モニタリングを。
    • 制酸薬・PPI とは併用可。ただし症状に応じて 2 週間ごとに効果判定。
  4. フォローアップ
    • 1 か月で効果不十分なら他の漢方(平胃散・半夏瀉心湯等)への切り替えや専門医紹介を検討。



5.副作用と安全性チェックリスト

リスク症状のサイン対応
偽アルドステロン症浮腫・体重増加・四肢脱力血清 K⁺ 測定、重度なら中止+スピロノラクトン
ミオパチー筋力低下、CK 上昇投与中止、補液
肝機能障害AST/ALT 上昇、倦怠感定期的な肝機能検査
アレルギー発疹・かゆみ中止、抗ヒスタミン薬

特定患者への注意

  • 妊婦:安全性データ不足、専門医判断。
  • 高齢者:利尿薬使用が多く低 K⁺ リスクが重なりやすい。
  • 小児:添付文書に明確な年齢制限なしだが、体重換算で減量。



6.よくある質問(FAQ)

Q1:どのくらいで効き始める?
早い例で 1〜2 週間、平均で 4 週を目安に効果判定を。

Q2:長期服用しても大丈夫?
6 か月超の長期投与例もありますが、偽アルドステロン症の発症は投与 3 か月以内が最多という報告も。月 1 回の K⁺ 測定が推奨されます。

Q3:市販薬と医療用の違いは?
基本組成は同じですが、医療用の方が規格生薬量が一定。OTC は 2.5 g/包と少なく、重症例には力不足の場合があります。



7.まとめ—“胃弱さん”への最初の一手に

六君子湯は「食欲を引き出し、胃を動かす」補気健脾剤。グレリン経路に裏付けられた作用で FD やがん関連食欲不振の治療選択肢となり、PPI やアコチアミドで改善しにくい“胃の働きの低下”にアプローチできます。
薬剤師は

  1. 適切な患者選定
  2. タイミングと併用薬の確認
  3. 副作用モニタリング
    を徹底することで、患者 QOL を大きく底上げできます。


8.参考文献

  1. PMDA. ツムラ六君子湯エキス顆粒(医療用)添付文書
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/460026_5200141D1034_1_15?utm_source=chatgpt.com

患者さんと家族のための機能性ディスペプシアガイド2023

https://www.jsge.or.jp/committees/guideline/disease/pdf/fd_2023.pdf?utm_source=chatgpt.com

機能性ディスペプシアに対する漢方治療 -六君子湯を中心に他の方剤との使い分け

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jhgmwabun/19/5/19_361/_pdf/-char/ja?utm_source=chatgpt.com

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