はじめに

「アダラート(ニフェジピン)は妊婦でも使えるようになった」──こんな情報を耳にした方もいるかもしれません。実際に2022年、厚生労働省はニフェジピンの添付文書を改訂し、妊婦に対する「禁忌」という表記を削除しました。
しかし、これは「安全が完全に確認されたので誰でも使える」という意味ではなく、「条件付きで使用が認められるようになった」という位置づけです。今回は、この改訂の背景と注意点について整理していきます。
添付文書改訂の経緯と背景

ニフェジピンはカルシウム拮抗薬の一つで、高血圧や狭心症の治療薬として広く使われています。以前の添付文書では「妊婦(妊娠20週未満)は禁忌」と記載されていました。
ところが近年、国内外の臨床データの蓄積から「妊婦に使用した場合のリスクはあるものの、適切に使えば有益性が上回るケースもある」と評価されるようになりました。
2022年12月、厚労省は国立成育医療研究センター「妊娠と薬情報センター」のデータやPMDA(医薬品医療機器総合機構)の専門家会議の評価を踏まえ、「禁忌」表記を削除し、より柔軟に医師が判断できるように添付文書を改訂しました。
現在の添付文書の記載内容

現在のアダラート(ニフェジピン)の添付文書では、妊婦や妊娠の可能性がある女性への投与について以下のように記載されています。
- 「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」
つまり「誰にでも安心して使える」わけではなく、リスクとベネフィットを比較して医師が投与を決めるという立場です。
動物実験では催奇形性や胎児毒性が報告されているため、慎重な使用が求められています。
海外における見解と実際の利用

海外のガイドラインや情報サイトでも、ニフェジピンの妊婦使用については「条件付き」で認められています。
- 英国NHS:「妊娠中に服用することは可能だが、必ず医師と相談を」
- 米国:「妊婦に禁忌とする見解もあるが、重度の高血圧や切迫早産などでは有益性を考慮して使用される」
実際には、妊娠高血圧症候群のコントロールや、切迫早産での子宮収縮抑制薬としてニフェジピンが選択されるケースもあります。国や地域によって扱いは異なりますが、「緊急時に使用される薬」である点は共通しています。
臨床現場での利用と注意点

日本でも妊娠高血圧や母体・胎児に重大なリスクがある場合、ニフェジピンが選択されるケースがあります。ただし以下の点に注意が必要です。
- 自己判断で服用することは絶対に避ける
- 医師が「有益性>危険性」と判断した場合に限定される
- 投与中は母体・胎児ともに慎重なモニタリングが必要
薬剤師としては、患者さんやご家族に「禁忌が解除されたからといって安全になったわけではない」ことを丁寧に説明する姿勢が大切です。
まとめ:妊婦への使用は“条件付き”、自己判断はNG

アダラート(ニフェジピン)は、かつて妊婦への使用が禁忌とされていましたが、現在は「条件付き」で使用可能とされています。
これは科学的データの蓄積に基づき、医師が必要と判断すれば妊婦にも処方できるようになったという重要な進展です。妊娠高血圧によって母体に危険が生じる可能性もあるので、選択できる薬剤が増えることは意義があると言えます。
しかし「誰でも安心して飲める薬になった」というわけではありません。使用には必ず医師の判断と管理が必要であり、薬剤師としても誤解のないように伝えていく必要があります。
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