私の次男は、生まれて間もない頃に心室中隔欠損症と診断されました。
出生後の診察で「心音に気になるところがある」と言われ、後日詳しい検査を受けたところ、心臓の左右の心室を隔てる壁に穴が開いていることが分かりました。
医師からは、先天性心疾患は決して珍しい病気ではないこと、心室中隔欠損症の状態によっては自然に穴が小さくなることもある一方、成長や心臓への負担を考えて手術が必要になる場合もあると説明されました。
次男はフロセミドとスピロノラクトンによる薬物療法を続けながら経過を見ていましたが、ミルクの摂取量や体重の増え方が思わしくなく、生後9か月頃に手術を受けました。
私は薬剤師なので、薬の作用や治療の目的は理解できました。しかし、薬について理解できることと、親として子どもの経過を心配しないことは別問題です。
この記事では、次男の治療を家族として経験した薬剤師の立場から、心室中隔欠損症に使われる利尿薬と、小児の服薬指導で大切だと感じたことをお伝えします。
※本記事は、私の次男の経験をもとにしたものです。心室中隔欠損症の状態や治療方針は、欠損孔の大きさ、位置、症状、合併症などによって異なります。
次男が心室中隔欠損症と診断された
心室中隔欠損症は、右心室と左心室の間にある「心室中隔」に穴が開いている先天性心疾患です。
欠損孔が小さく、心臓や肺への負担が少ない場合は、症状がほとんどなく、経過観察となることがあります。成長とともに欠損孔が小さくなったり、自然に閉鎖したりする場合もあります。
一方、欠損孔を通って左心室から右心室へ流れる血液が多くなると、肺へ流れる血液量が増え、心臓や肺に負担がかかります。
乳児では、呼吸が速くなる、ミルクを飲むと疲れる、哺乳量が増えない、体重が増えにくいといった症状が現れることがあります。
次男も、すぐに手術をするのではなく、まずは薬物療法を行いながら成長の様子を見る方針になりました。
医師からは、できるだけ薬で心臓への負担を軽くしながら経過を見て、成長曲線に問題が生じた場合には手術を検討すると説明を受けました。
実際にはミルクの摂取量がなかなか増えず、体重の増加も十分ではなかったため、生後9か月頃に手術を受けることになりました。
心室中隔欠損症で利尿薬を使用する理由
心室中隔欠損症に利尿薬を使う目的は、心臓の穴を薬で閉じることではありません。
肺へ流れる血液量が増え、心不全症状が現れている場合に、体内の余分な水分やナトリウムを排出し、心臓や肺にかかる負担を軽減するために使用します。
心臓への負担が軽くなることで、呼吸や哺乳に伴う負担を減らし、子どもの成長を支えることが治療の目的になります。
次男には、フロセミドとスピロノラクトンが処方されていました。
フロセミド
フロセミドはループ利尿薬です。
腎臓のヘンレ係蹄上行脚でナトリウムや塩化物イオンの再吸収を抑制し、尿量を増やします。比較的強い利尿作用があり、心不全に伴ううっ血や浮腫の軽減に使用されます。
一方で、利尿作用による脱水や、低ナトリウム血症、低カリウム血症などの電解質異常に注意が必要です。継続して使用する場合は、症状や体重だけでなく、腎機能や電解質の検査結果も確認します。
スピロノラクトン
スピロノラクトンは、アルドステロンの働きを抑えるカリウム保持性利尿薬です。
ナトリウムと水分の排泄を促しながら、カリウムの排泄を抑える特徴があります。
フロセミドと併用されることがありますが、「フロセミドで失われるカリウムを補う薬」とだけ説明するのは正確ではありません。
スピロノラクトン自体にも利尿作用があり、併用中は低カリウム血症だけでなく、高カリウム血症や腎機能の変化にも注意する必要があります。
なお、国内の添付文書では、フロセミドとスピロノラクトンの用法・用量は成人を中心に記載されていますが、小児医療の現場でも患者の体重や状態に合わせて使用されています。小児では、処方量の確認だけでなく、年齢、体重、服用状況、検査値を含めて評価することが重要です。
薬を理解できても、子どもの成長への不安はあった
私は薬剤師なので、フロセミドやスピロノラクトンを小さな子どもに飲ませること自体に、強い抵抗はありませんでした。
薬を使用する目的や、期待される効果、注意すべき副作用も理解できていたからです。
ただし、医療者の説明を理解できることと、実際に子どもが元気に成長できるかという不安は別でした。
次男はミルクの摂取量がなかなか増えず、体重も思うように増えませんでした。
そのため診察の際には、ミルクの量や体重の増え方について、医師に何度も質問しました。
利尿薬を飲んでいたものの、家庭では「明らかにおむつの回数が増えた」と感じるほどの変化はありませんでした。薬が効いているかどうかを、尿量だけで家族が判断するのは難しいと感じます。
薬剤師として薬効を理解していても、成長曲線や哺乳量、診察時の評価を確認しなければ、治療が順調なのかは判断できません。
保護者が「尿が増えた感じがしない」「薬が効いているのか分からない」と話したときは、その言葉だけで服薬状況を評価するのではなく、体重、呼吸状態、哺乳量、診察内容なども聞き取る必要があります。
粉薬の飲ませ方は、実際にやらないと分からない
次男に処方されていたのは粉薬で、1日2回服用していました。
私たちは、少量の水で粉薬を練って団子状にし、上顎や頬の内側につけてから飲み物を与える方法を使っていました。
薬剤師として、粉薬を団子状にして飲ませる方法は知っていました。
しかし、知識として知っていることと、実際に乳児へ飲ませることには大きな違いがあります。
最初は粉薬に加える水の量が多すぎて、団子状にならず、しゃばしゃばにしてしまったこともあります。
「少量の水で練ってください」と説明するのは簡単ですが、初めて薬を飲ませる保護者にとっては、その「少量」が分かりません。
水分を一度に加えるのではなく、スポイトなどを使って1滴ずつ加えながら硬さを調整する方法まで説明した方が、家庭では実践しやすいと感じました。
私の場合は、少量の水を調整しやすい1mL程度のスポイトが使いやすく感じました。ただし、薬の種類や量、子どもの月齢によって適した方法は異なります。
子どもは薬を嫌がることもあり、口に入れれば必ず飲み込んでくれるわけでもありません。
薬剤師は、単に飲ませ方を伝えるだけでなく、
「実際にはどのように飲ませていますか」
「水の量が多くなっていませんか」
「口に入れた後、吐き出すことはありませんか」
「誰が普段、薬を飲ませていますか」
と具体的に確認する必要があります。
飲ませ忘れや吐き戻しへの説明も必要
次男の薬を飲ませ忘れたときは、次の服用時間との間隔を考えながら、時間をずらして飲ませたことがありました。
しかし、飲ませ忘れたときの対応は、薬の種類、服用回数、気づいた時間、子どもの状態などによって異なります。
「気づいたら飲ませてください」と一律に説明するのではなく、次の服用時間が近い場合の対応まで、処方元の指示を確認しておくことが大切です。
また、服用直後に吐いた場合も、薬がどの程度吸収されたかを家庭で判断することは困難です。
すぐに同じ量を飲ませ直すと、結果的に過量になる可能性があります。反対に、まったく飲ませ直さないことで必要量を服用できない場合もあります。
そのため、初回の服薬指導時に、
「飲ませ忘れた場合はどうするか」
「服用後に吐いた場合はどうするか」
「薬をほとんど飲めなかった場合はどこへ連絡するか」
まで確認しておくと、家族が迷いにくくなります。
「副作用はありませんか」だけでは分からない
小児の服薬指導では、「副作用はありませんか」と質問するだけでは、家庭で起きている問題を十分に把握できないことがあります。
保護者は、どの変化が副作用に当たるのか分からないことがあるからです。
利尿薬を使用している子どもの家族には、次のような点を具体的に確認します。
- ミルクや食事の量
- 体重の増え方
- 呼吸の速さや苦しそうな様子
- 尿量やおむつの回数
- 嘔吐や下痢、発熱の有無
- いつもより元気がない、ぐったりしているなどの変化
- 粉薬を実際にどのように飲ませているか
- 飲み残しや吐き出しがないか
- 飲ませ忘れがないか
- 定期的に診察や血液検査を受けているか
特に、発熱、嘔吐、下痢などで水分を十分に取れないときは、脱水や腎機能への影響が大きくなる可能性があります。
自己判断で服用を中止したり、反対に普段どおり無理に飲ませ続けたりするのではなく、処方元へ連絡する目安をあらかじめ共有しておくことが大切です。
薬を受け取る人と、飲ませる人が同じとは限らない
次男が入院したときは、妻が付き添い、私は長男の世話を担当していました。
医師からの説明は一緒に受けましたが、薬を受け取ったり、薬剤師から説明を受けたりしたのは私ではありません。
院内で薬を受け取っていましたが、薬の飲ませ方について詳しい説明を受ける機会は、あまり多くなかったように感じます。
これは特定の医療機関や医療者を批判したいわけではありません。
ただ、家族の立場になってみると、薬を受け取る人、医師の説明を聞く人、実際に子どもへ薬を飲ませる人が、それぞれ異なることがあると分かりました。
薬剤師が説明した相手が、必ずしも家庭で服薬を担当するとは限りません。
そのため、
「普段、薬を飲ませるのはどなたですか」
「ご家族にも同じ内容を伝えられそうですか」
「説明を書いたものが必要ですか」
と確認することも大切です。
保護者が質問しないから困っていないとは限りません。
何を質問すればよいか分からないまま、薬を持ち帰っている可能性もあります。
手術後、泣き声とミルクの量が変わった
次男は生後9か月頃に手術を受けました。
手術そのものに不安がなかったわけではありません。
特に、手術後に麻酔がまだ効いている状態で眠っている次男を見たときは、薬剤師としてではなく、親として心配になりました。
一方で、手術後の変化ははっきりと感じられました。
以前より泣き声が大きくなり、ミルクを飲む量も増えました。少しずつ元気になっていく様子を見て、それまで心臓や呼吸に負担がかかっていたことを実感しました。
現在は、元気に日常生活を送っています。
もちろん、心室中隔欠損症の経過や手術後の状態には個人差があります。次男と同じ治療を受ければ、必ず同じ経過をたどるわけではありません。
ただ、心室中隔欠損症の手術成績は一般に良好であり、適切な治療と経過観察によって良好な長期予後が期待されます。
家族の立場になって変わった服薬指導
次男の治療を経験して、小児の薬は「正しい説明をすれば終わり」ではないと改めて感じました。
薬の作用や副作用を説明することは、もちろん大切です。
しかし、保護者が家庭で実際に薬を飲ませられるかどうかは、別の問題です。
粉薬を練る水の量、子どもが嫌がったときの対応、飲ませ忘れたときの判断、吐いたときの連絡先など、実際にやってみて初めて分かる困りごとがあります。
薬剤師は、
「飲ませ方は大丈夫ですか」
と尋ねるだけではなく、
「昨日はどのように飲ませましたか」
「団子状にできましたか」
「どのくらいの水を使いましたか」
「子どもは全部飲み込めましたか」
と、具体的に確認する必要があります。
薬の効果や副作用を伝えるだけでなく、家庭で治療を続けられる方法を一緒に考えることも薬剤師の役割です。
まとめ
次男が心室中隔欠損症と診断され、薬物療法と手術を経験したことで、薬剤師として多くのことを学びました。
フロセミドやスピロノラクトンは、心臓の穴を閉じる薬ではありません。心不全症状を軽減し、呼吸や哺乳に伴う負担を減らしながら、子どもの成長を支えるために使用されます。
一方で、薬の目的を理解していても、家庭で粉薬を飲ませることは簡単ではありません。
「少量の水で練る」という説明一つでも、初めて経験する保護者には具体的な方法が分からないことがあります。
小児の服薬指導では、副作用の有無だけでなく、実際の飲ませ方、哺乳量、体重、呼吸状態、家族内での情報共有まで確認することが大切です。
薬剤師にとっては日常的な処方でも、保護者にとっては初めて直面する治療かもしれません。
薬の正しい知識とともに、「家庭で本当に続けられるか」という視点を持つことが、家族に寄り添った服薬指導につながると感じています。
参考文献
1.日本循環器学会ほか「先天性心疾患並びに小児期心疾患の診断検査と薬物療法ガイドライン(2018年改訂版)」
2.青木 満「心室中隔欠損症の外科治療―外科医が循環器小児科医に期待するもの―」日本小児循環器学会雑誌 2010;26:140-143


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