薬剤師が教える味マスキング小技 10 選 ― 2025 年決定版
はじめに

小さな子どもに薬を飲ませるのは、薬剤師や保護者にとって大きな課題の一つです。苦い味や独特のにおい、舌触りの悪さから、子どもが薬を嫌がってしまい、なかなか飲んでもらえないという悩みはよくあります。
本記事では、小児の味覚の特性を理解しながら、薬を「飲みやすくする」ための具体的な工夫を10個の小技として紹介します。これらは現場の薬剤師が実際に試して効果のあった方法ばかり。服薬支援に悩む薬剤師の方に、今日から使える実践的なヒントをお届けします。
1. 子どもが薬を嫌がる理由

① 味覚が敏感で苦味に反応しやすい
子どもの味覚は大人よりも鋭く、特に苦味や酸味には非常に敏感です。そのため、わずかでも苦味を感じる薬は「不快なもの」として拒否されやすいのです。
② 飲み込む力が未熟
2~3歳ごろまでは飲み込む筋力が未発達で、錠剤などをうまく飲み込めないことがあります。小さな粒でも「異物」として感じやすく、吐き出してしまうケースが多く見られます。
③ イヤな記憶が残りやすい
過去に「まずかった」「無理やり飲まされた」といった経験があると、それが記憶に残って次回以降も拒否反応を示します。子どもは味覚だけでなく体験全体から「薬はイヤなもの」と学習することもあるので服薬の強要は避けた方が良いでしょう。
2. 味マスキングの基本原則

薬の味をごまかす、あるいは感じにくくすることを味の「マスキング」と呼びます。ただし、何でも混ぜてよいわけではありません。以下の4つの視点を必ず確認しましょう。
① 添付文書や医薬品情報(DI)で混合の可否を確認
一部の薬は他の食品や飲料と混ぜると、成分が変化したり、薬効が弱まったりすることがあります。必ず添付文書を確認し、混合可能かどうかを把握しておきましょう。
② 製剤の性質に注意
粉薬(散剤)やシロップなど、剤形によっては混ぜることで成分が沈殿したり、においが強まることがあります。薬の物性を知ることも大切です。
③ 吸収や効果への影響を考慮する
例えば鉄剤と乳製品を一緒に摂ると吸収が悪くなる、一部の薬とグレープフルーツジュースを一緒に摂ると血中濃度が急上昇するなど、薬の効果に影響を与える組み合わせがあります。
④ 誤嚥のリスクを避ける
ゼリーやとろみのある食品で包む場合、量が多すぎると誤嚥の危険性が高まります。特に乳児や嚥下機能が未熟な子どもでは量の調節など慎重な判断が必要です。
3. 味マスキングの小技10選

以下は、現場で実践されている味マスキングの具体例です。食品の種類や使い方、注意点も合わせてまとめました。
第一把 | 小技 | 対象剤形 | おすすめ食品 | 注意点 |
1 | バニラアイスに混ぜる | 散剤・細粒 | 小さじ1杯のアイス+薬 | バニラアイスのCaとキレートを形成する可能性もある |
2 | チョコクリームを塗る | OD錠・小錠 | 表面に薄く塗る | 食物アレルギー(乳・ナッツ)に注意 |
3 | 甘いヨーグルトに混ぜる | 散剤・細粒 | 大さじ1杯まで | 一部の抗生剤DSでは苦味が強く出ることも |
4 | 服薬ゼリーで包む | 散剤・錠剤 | 医療用ゼリー(リンゴ味など) | 量が多いとかえって誤嚥する可能性も |
5 | 市販ゼリーに包む | 細粒・粉薬 | ミニカップゼリー(ぶどう・もも等) | 酸味が強いと苦味が強調される薬もある |
6 | ストローで一気に飲ませる | シロップ・懸濁液 | 少量のジュースで流し込む | 誤嚥予防のため、頬の内側に向けて注ぐ |
7 | 冷やして感覚を鈍らせる | 懸濁液・ゼリー | 冷蔵庫で冷やす | 凍らせると薬効が不安定になる可能性がある |
8 | 砂糖を先に舐めさせる | 錠剤・散剤 | ごく少量の粉砂糖 | 薬の感触はごまかせない |
9 | オブラートで包む | 散剤・顆粒 | 湿らせてから包むと飲みやすい | 窒息防止のため必ず湿らせて使う |
10 | スポイトやシリンジで投与 | シロップ・液剤 | 頬の内側からゆっくり注ぐ | 泡立ちや勢いが強いと誤嚥の危険あり |
4. 混合NG・注意が必要な薬一覧

- 鉄剤(フェロミアなど) × 乳製品…キレート形成により吸収率が低下
- クラリスロマイシンドライシロップ × 酸味の強い食品…被膜が崩壊し苦味が増す
- リスペリドン × グレープフルーツ…CYP酵素阻害による血中濃度上昇
これらの薬剤は、味マスキングを行う際には十分な注意が必要です。混ぜる食品や投与方法については、個々の製剤特性や患者背景を踏まえて適切に判断しましょう。
5. 保護者への声かけとフォローの工夫

服薬をサポートするうえで、保護者への丁寧な説明や安心感の提供は欠かせません。お子さんに対してお薬の内容を簡単な範囲で説明し、薬を飲む必要性を納得してもらうと服薬がスムーズにいきます。薬を飲めたことに対して褒めることも次の服薬に対する自信にもつながります。
薬の処方が続く場合は、「どの方法がうまくいったか」「飲みづらさは残っていないか」などをヒアリングし、継続的な支援につなげましょう。
6. まとめ

子どもが薬を嫌がるのには理由があります。その原因を理解し、味マスキングなどの工夫を重ねることで、服薬へのハードルは確実に下がります。大切なのは、「飲めた」という成功体験を重ねていくこと。薬剤師として、子どもと保護者を支える視点を持ち、適切なアドバイスと処方提案を行うことが求められます。
- 大田区薬剤師会「小児の服薬指導のポイント」https://ootakuyaku.jp/wp-content/uploads/2022/03/file52.pdf?utm_source=chatgpt.com
- 磐田市立総合病院「小児への薬の飲ませ方の工夫と注意点」https://www.hospital.iwata.shizuoka.jp/medicine/010/?utm_source=chatgpt.com
北辰病院「粉薬と飲食物の飲み合わせ一覧表」
7. 小児服薬支援のスキルを活かした働き方とは?

小児科門前や在宅特化型の薬局では、服薬支援やコミュニケーションに強みを持つ薬剤師が求められています。味マスキングの技術や家族支援の経験は、今後のキャリア形成にも大きな武器になります。
「もっと子どものケアに関わりたい」「調剤だけでなく、教育や指導に時間をかけたい」――そんな想いをお持ちの方は、働く環境を見直すことで新たなチャンスが広がるかもしれません。
まずは、在宅・小児対応に力を入れている薬局や、研修制度が整った職場情報をチェックしてみましょう。
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