慢性副鼻腔炎の薬物治療|基礎知識と薬剤師の実務

薬剤師が解説

慢性副鼻腔炎とは?

慢性副鼻腔炎(CRS)は、鼻や副鼻腔の粘膜に炎症が長く続く病気です。鼻づまり・膿性の鼻汁・後鼻漏・嗅覚障害などの症状が 12週間以上続くと診断されます。
鼻茸(ポリープ)の有無によって2つに分けられます。

  • CRSwNP:鼻茸あり
  • CRSsNP:鼻茸なし

喘息やアレルギー性鼻炎を合併することが多く、全身的な炎症と関連しているのが特徴です。薬剤師は、薬物治療の選択や効果の違いを理解しておくと、患者への説明や服薬支援に役立ちます。



治療の基本の流れ

治療は段階的に進みます。基本は 「鼻洗浄+点鼻ステロイド」。効果が不十分な場合や重症例では、抗菌薬・全身ステロイド・生物学的製剤、さらには手術が検討されます。

  1. 鼻洗浄(生理食塩水)
  2. 点鼻ステロイド
  3. 併存疾患に応じて抗ヒスタミン薬やロイコトリエン拮抗薬
  4. 急性増悪時には抗菌薬を短期使用
  5. 鼻茸が大きい・重症例では全身ステロイド
  6. 難治例に生物学的製剤(注射薬)
  7. 効果が乏しい場合は手術(ESS)



鼻洗浄

鼻洗浄は、鼻の中の膿やアレルゲンを洗い流し、炎症を抑える基本的な治療です。鼻粘膜の状態を整えることで、点鼻薬の効果を高めます。

  • 使用液:等張食塩水(刺激が少ない)、高張食塩水(腫れを軽減)
  • 製品例:サーレMP、ハナノアなど
  • 指導ポイント:体温程度に温めて使用、使用後は器具を清潔に保つ



点鼻ステロイド

慢性副鼻腔炎の中心的な薬。炎症を直接抑え、鼻づまりや嗅覚障害を改善します。

  • 一般名と商品名:
    • フルチカゾンフランカルボン酸エステル(アラミスト点鼻液)
    • モメタゾンフランカルボン酸エステル(ナゾネックス点鼻液、エリザス点鼻粉末)
    • ベクロメタゾンプロピオン酸エステル(リノコート)
    • ブデソニド(パルミコート点鼻液)


使い方のコツ

  • 鼻洗浄のあとに使用
  • ノズルは鼻の外側に向けて噴霧
  • 強く吸い込まず、軽く息を吸う程度
  • 鼻出血は「中隔に当たる」ことが原因になりやすい



抗菌薬

慢性副鼻腔炎に抗菌薬を常に使うわけではなく、急性増悪時に短期的に使うのが基本です。

  • 急性増悪時の例:
    • アモキシシリン(サワシリン)
    • レボフロキサシン(クラビット)
    • クラリスロマイシン(クラリス)
  • マクロライド少量長期療法:炎症を抑える目的で3か月程度継続
    • クラリスロマイシン(クラリス)200 mg/日
    • エリスロマイシン(エリスロシン)400–600 mg/日
    • ロキシスロマイシン(ルリッド)150 mg/日

注意点:耐性菌リスク、QT延長、薬物相互作用(特にCYP3A4経由)



全身ステロイド

短期間だけ全身の炎症を強く抑えます。鼻茸が大きい場合や手術前に使われます。

  • 薬剤名:プレドニゾロン(プレドニン)
  • 投与期間:5〜14日程度
  • 注意点:高血糖、感染リスク、骨粗鬆症などの副作用に注意



抗ヒスタミン薬・ロイコトリエン拮抗薬

CRSそのものの治療薬ではありませんが、アレルギーや喘息を合併している場合に効果を発揮します。

  • 抗ヒスタミン薬:フェキソフェナジン(アレグラ)、ロラタジン(クラリチン)、エピナスチン(アレジオン)
  • ロイコトリエン拮抗薬:モンテルカスト(シングレア、キプレス)、プランルカスト(オノン)



生物学的製剤(注射薬)

従来治療で改善が難しい患者に対して使われる新しい薬です。

  • デュピルマブ(デュピクセント):抗IL-4Rα抗体、2020年承認
  • メポリズマブ(ヌーカラ):抗IL-5抗体、2024年承認
  • オマリズマブ(ゾレア):抗IgE抗体(米国・欧州で承認、日本では未承認)

これらは炎症の原因となる免疫反応を抑えることで、鼻茸の縮小や嗅覚改善に効果を示します。



手術(内視鏡下副鼻腔手術, ESS)

薬で十分な効果が得られない場合に行われます。鼻の通りを改善して薬の効果を高める目的があります。術後も鼻洗浄や点鼻ステロイドを続けることが重要です。



薬剤師の役割

薬剤師は、単に薬を渡すのではなく「正しい使い方」を伝えることで治療に大きく関わります。

  • 点鼻ステロイドの正しい噴霧方向を説明
  • 鼻洗浄器具の清潔管理を指導
  • 抗菌薬は指示された期間を守るよう説明
  • 生物学的製剤は効果判定に時間がかかるため、継続の重要性を伝える

薬剤師の説明次第で、患者が治療を正しく続けられるかどうかが変わることもあります。



まとめ

  • 慢性副鼻腔炎は「鼻洗浄+点鼻ステロイド」が治療の基本
  • 抗菌薬や全身ステロイドは必要時のみ短期で使用
  • 難治例には生物学的製剤や手術が選択される
  • 薬剤師は薬の知識に加えて、使い方や継続の工夫を伝える役割を担う


参考文献(日本語・公開リンク)

  1. 「鼻副鼻腔炎診療の手引き」の要点(総説/PDF)
    国内ガイドラインの考え方を日本語で簡潔に把握できます。診断・治療アルゴリズム、病型(好酸球性含む)の要点を整理。 J-STAGE
  2. 厚生労働省 通知:デュピルマブ〈鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎〉最適使用推進ガイドライン(別添PDF)
    適応患者の要件(鼻茸スコア、ステロイド治療歴等)や留意点が日本語で明記。処方判断の根拠に。 厚生労働省
  3. PMDA:デュピクセント(デュピルマブ)医療用医薬品情報ページ
    最新の添付文書、審査報告書、最適使用GLリンクを一括確認できます(公的データ)。 PMDA
  4. PMDA(RMP資材):ヌーカラ(メポリズマブ)—適応患者の選択(CRSwNP)
    適応背景、作用機序、主要試験の概要を日本語で把握できます。院内説明資料にも使いやすい。 PMDA
  5. 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報:鼻副鼻腔炎薬物療法 Up to Date(PDF)
    経口/局所ステロイド、抗菌薬、マクロライド少量長期、生物学的製剤まで最新の要点を日本語で総覧。 J-STAGE
  6. PMDA:ナゾネックス(モメタゾン)添付文書(PDF)
    代表的な点鼻ステロイドの用法・注意点を公的資料で確認可能。患者指導の根拠に。 PMDA
  7. GSK(患者資材):アラミスト点鼻液の使い方(PDF)
    噴霧手技を図解で説明した日本語資料。患者向けの“使い方”の参照に便利です。 jp.gsk.com
  8. 耳鼻咽喉科関連誌:好酸球性副鼻腔炎の治療方針(PDF)
    JESRECやEPOSに触れつつ、手術と薬物療法の考え方を日本語で解説。好酸球性CRSの理解に。 J-STAGE

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