
がん治療の進歩によって、生存率は大きく向上しました。しかしその裏で、脱毛・皮膚トラブル・体型変化といった「外見の変化(=アピアランス変化)」に苦しむ患者は少なくありません。
日本臨床腫瘍学会によると、「外見の変化が治療継続の意欲に影響した」と答えた患者は約4割にものぼります。こうした状況の中、薬剤師の立場からもできるアピアランスケアの重要性が高まっています。
本記事では、薬剤師として現場でできるアピアランスケアの実践方法、そしてその経験を活かせるキャリアの可能性まで、丁寧に解説していきます。
アピアランスケアとは何か ― なぜ薬剤師が関わるべきなのか

アピアランスケアとは、病気や治療によって変化した患者の外見に対して、身体的・心理的なケアを行う取り組みです。脱毛や皮膚障害、体型変化などは患者の自尊心に大きな影響を与え、治療継続の妨げになることもあります。
2018年に策定された「第3期がん対策推進基本計画」では、アピアランスケアの必要性が初めて明記されました。
薬剤師は、副作用を早期に把握し、患者のQOLを守る「外見支援の専門職」として、医師や看護師と並び、重要な役割を担うことができます。
実践編|薬剤師ができるアピアランスケアの具体例

1. 脱毛と頭皮ケア:治療開始前からの準備がカギ
一部の抗がん薬は、毛根を傷つけることで脱毛を引き起こします。分子標的薬でもびまん性の薄毛が見られることがあります。
薬剤師ができること
- 冷却キャップの効果や使用タイミング、副作用について説明
- 医療用ウィッグの助成制度(自治体によっては1〜3万円)を案内
- 低刺激シャンプー・保湿剤の提案と処方薬との併用可否の確認
2. 皮膚・粘膜トラブルへのスキンケア支援
EGFR阻害薬や放射線治療では、乾燥・紅斑・色素沈着などの皮膚トラブルが頻発します。これらは患者の外見の悩みにつながり、外出や人との接触を避ける要因にもなります。
薬剤師ができること
- セラミド配合の保湿剤や、処方薬としてのヒルドイド®をタイミング別に使い分けて提案
- 紫外線対策製品の選び方(SPF30以上・紫外線吸収剤不使用など)をアドバイス
- 口腔内ケア(含嗽薬+保湿ジェル)の指導と、味覚障害・食事支援の相談対応
3. 爪障害・手足症候群(HFS)のケア
分子標的薬や抗がん薬の副作用である手足症候群や爪の変色・変形は、患者の生活や外見に影響を与えます。特に爪の割れや痛みは日常生活に大きな支障を来すため、早期対応が求められます。
薬剤師ができること
- 尿素配合クリーム(10〜20%)の適切な使用指導
- 保護手袋・靴下による物理的刺激の軽減
- ネイルコートの選択肢紹介(医療用製品を含む)と相談体制の確保
4. 体型変化・浮腫・リンパ浮腫への対応
ホルモン療法では体重増加やむくみが起こりやすく、治療意欲や自己肯定感に影響します。また手術後のリンパ浮腫も、見た目と身体的苦痛を伴います。
薬剤師ができること
- 弾性ストッキングの適正使用(20〜30mmHg)について助言
- 体重変化モニタリングの支援:記録アプリや家庭での自己測定法を紹介
- 利尿薬使用の注意喚起:自己判断による増減を避けるよう指導し、必要時には医師への橋渡しを行う
5. 精神的サポートと「相談しやすい環境づくり」
外見の変化は、自己像の喪失やうつ症状を引き起こすことがあります。薬剤師は、信頼される「話しやすい存在」であることが重要です。
薬剤師ができること
- SPIKESモデル(特に「Setting」「Invitation」)を意識した対話環境の工夫
- 患者支援団体の紹介(NPOキャンサーリボンズ、がんサバイバー向け冊子等)
- 「外見の悩み相談受付中」などの掲示物で来局時の心理的ハードルを下げる
患者のQOLを支える“見た目の専門職”として、次の一歩を踏み出す

アピアランスケアは、単なる美容サポートではありません。治療継続を支える「命を守る支援」です。
「もっと時間をかけて外見の悩みに寄り添いたい」「薬学的視点から心のケアにも貢献したい」――そんな思いを持つ薬剤師にとって、がん専門薬局や美容皮膚科門前薬局は理想的な職場です。
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外見のケアが、患者の生きる力になる――。
薬剤師の知識と共感力で、その笑顔を支えるキャリアを築いてください。
参考文献一覧
- 厚生労働省「第3期がん対策推進基本計画」https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000208600.pdf
- 厚生労働省「第4期がん対策推進基本計画」https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/001077913.pdf
- 国立がん研究センター「アピアランスケア」https://ganjoho.jp/public/support/appearance/index.html
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