妊娠・授乳中の薬をどう確認する?薬剤師の判断フローとRIDの見方

薬剤師が解説
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更新日:2026年10月11日|薬剤師向けの実務解説|本記事には広告を含みます。

「妊娠が分かる前に薬を飲んでいた」「授乳中なので、薬も母乳もやめた方がよいですか」。こうした相談で、添付文書の一文だけを見て答えを出すのは難しいものです。

確認の軸は、妊娠・授乳のどちらか、使用した時期と量、母体の治療の必要性、胎児・乳児への影響です。妊娠中の評価を、そのまま授乳中に当てはめることもできません。この記事では、聞き取りから情報検索、処方医への確認、説明と記録までの手順を整理します。

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最初に整理するのは「いつ・何を・どれだけ使ったか」

薬の名前を調べる前に、相談の前提をそろえます。「これから使う薬の相談」と「すでに使った薬の相談」では、必要な対応が変わります。以下は薬局で使うための確認項目例です。

確認項目 聞き取りの例
妊娠の状況 妊娠の可能性・確定の有無、現在の妊娠週数、服用した日、産科への共有状況
授乳の状況 児の月齢・出生時の在胎週数、体重、持病、母乳と人工乳の割合
薬の使用内容 一般名・商品名、剤形、1回量・1日量、使用期間、最後に使った時刻
治療の必要性 何の治療か、症状の程度、薬を使わなかった場合の影響、自己中断の有無
処方薬以外 市販薬、頓服、漢方薬、サプリメント、外用薬、他院の薬
患者さんの不安 胎児への影響か、母乳への移行か、すでに飲んだことか、今後の治療か

「妊娠中でも大丈夫ですか?」だけでは、薬の使用時期が分かりません。「いつから、何回くらい使いましたか」「妊娠何週と説明されていますか」と具体的に聞くと、医師へ共有する情報がそろいます。

妊娠中と授乳中は、別々に評価する

妊娠中は、薬のリスクと治療をしないリスクを確認する

妊娠中の薬の影響は、薬剤の種類だけでなく、使用時期・量・期間や治療目的によって評価が変わります。必要な治療の中断が母体の健康を損ない、妊娠・出産にも悪影響を及ぼすことがあるため、「薬を使わない方が安全」と一律には説明できません。[1]

すでに服用した場合も、服用した事実だけで胎児への影響を断定せず、使用歴を整理して処方医・産科へ共有します。今後の継続可否とは分けて評価することが大切です。

授乳中は、母乳移行量に加えて児への作用を確認する

授乳中は、母乳を介した曝露と、児に起こり得る影響を評価します。LactMedでは、母乳中濃度、乳児の血中濃度、副作用報告、乳汁分泌への影響などを確認できます。母乳移行量が少ないという情報だけで、個々の患者さんの対応まで決めないようにします。[2]

国立成育医療研究センターの「授乳中に安全に使用できると考えられる薬」は、検索の入口として役立ちます。ただし、リストにない薬=授乳中に使えない薬ではありません。掲載がない場合は、情報が限られている可能性も含め、個別に調べます。[3]

薬剤師が確認する5ステップ

1.患者背景と薬の使用歴をそろえる

前述の確認表を使い、妊娠週数や児の状況、使用した薬の量と期間を記録します。配合剤や市販のかぜ薬は、商品名だけでなく各成分を確認します。

併用薬の確認手順は、薬の相互作用をどう確認する?処方監査の手順でも整理しています。

2.最新の電子添文を読む

PMDAで対象製品の電子添文を確認し、「禁忌」「重要な基本的注意」「9.5 妊婦」「9.6 授乳婦」などを読みます。必要に応じてインタビューフォームも確認します。禁忌を薬剤師の判断だけで覆さず、疑義があれば処方医へ確認します。

海外の分類を参照する場合も、国内の禁忌と同一視しません。米国FDAの妊娠・授乳に関する表示規則(PLLR)は、旧A・B・C・D・X分類を廃止し、リスクの概要や臨床上の考慮事項などを記述する仕組みです。2015年6月30日から適用が始まった米国の規則であり、「2020年以降の国際標準」とする説明は適切ではありません。[4]

3.妊娠・授乳に関する専門情報で補う

妊娠については国立成育医療研究センターの妊娠と薬情報センター、授乳については同センターの情報やLactMedを参照します。資料の更新日、ヒトのデータか動物のデータか、使用量や対象児が相談例と近いかを確認しましょう。

情報が一致しない場合は、片方だけを採用するのではなく、違いと不明点を整理して医師へ伝えます。情報不足のまま「安全」「危険」のどちらかに寄せないことが大切です。

4.継続・変更・一時中断と観察項目を医師と検討する

治療の必要性、代替薬の情報、母体と児の状態を合わせて、具体的な対応を確認します。授乳を中断する場合には、再開の時期まで確認し、「とりあえず授乳をやめてください」で終わらせないようにします。

服用と授乳の時間をずらす方法も、薬の半減期や剤形、授乳間隔によって意味が変わります。すべての薬に「授乳直後に飲んで2時間あける」といった共通ルールは設定できません。

5.説明内容とフォローの予定を薬歴に残す

参照資料、評価の前提、医師への確認内容、患者さんへの説明、次に確認する項目を残します。児の観察項目は、眠気、哺乳の変化、下痢などを薬剤に応じて選び、何が起きたらどこへ連絡するかも具体化します。

RIDは「曝露量の目安」であり、安全を保証する数値ではない

RID(relative infant dose:相対的乳児投与量)は、母体と乳児の体重当たりの薬の摂取量を比較する指標です。母乳中の濃度だけではなく、母体の1日投与量と体重をそろえて計算します。[2]

RID(%)=乳児の母乳由来の摂取量(mg/kg/日)÷母体の投与量(mg/kg/日)×100

計算練習:特定の薬剤に対応しない仮定例

以下は単位と計算を確認するための架空の条件です。実在する薬の文献値や、授乳継続の判断例ではありません。

仮定する条件 数値・計算
母体の1日投与量・体重 4 mg/日・60 kg
母体の体重当たりの投与量 4÷60=約0.0667 mg/kg/日
母乳中平均濃度 5 ng/mL=0.000005 mg/mL
仮定する母乳摂取量 150 mL/kg/日
乳児の摂取量 0.000005×150=0.00075 mg/kg/日
RID 0.00075÷(4÷60)×100=1.125%(約1.1%)

母乳摂取量150 mL/kg/日は、完全母乳栄養を想定する標準的な推定値であり、すべての児の実測量ではありません。また、単一時点の濃度を平均濃度として扱うと、曝露量を誤って見積もる可能性があります。[2]

RIDが10%以下という目安だけで、授乳継続可とは決めません。薬の作用、活性代謝物、児の状態、蓄積の可能性、実際の副作用報告を合わせて確認します。実務では、数値を自分で算出する前に、適切な方法で評価された既存データを確認することが先です。[2]

ケースで考える:薬局での対応例

ケース1:ARBを服用中に妊娠が判明した

ARB・ACE阻害薬では、妊婦または妊娠している可能性のある女性への投与は禁忌で、投与中に妊娠が判明した場合は直ちに投与を中止するよう注意喚起されています。胎児への影響として羊水過少や腎障害などが報告されています。[1]

薬局では「次の受診で相談してください」と先送りせず、妊娠週数、薬剤名・配合成分、服用歴、最終服用時刻を整理し、速やかに処方医・産科へ連絡します。中止と代替治療の手配を確認し、過去の服用による影響の評価も医師につなぎます。

「妊娠したら、どの薬でも自分で中止してよい」という説明とは区別が必要です。各成分の特徴は、ARBの違いと使い分けで確認できます。

ケース2:授乳中に外用薬や点鼻薬の相談を受けた

外用薬、点眼薬、点鼻薬、吸入薬では、一般的な使用で母体の血中に取り込まれる量が少ないことがあります。ただし、成分、使用量、使用部位、剤形をそろえて評価します。乳頭周囲に使う外用薬では、母乳移行だけでなく児の口に直接入ることへの配慮も必要です。[5]

「塗り薬だから全部大丈夫」と説明せず、何をどこへ、どのくらい使っているかを確認してから、対象薬の情報を調べます。

患者説明・医師への確認・薬歴の例

以下は文章の組み立て例です。患者背景と薬剤に応じて内容を置き換えてください。

情報を確認する間の患者さんへの説明

「心配になりますよね。妊娠中と授乳中では確認することが違うので、使った時期と量を先に教えてください。その情報をもとに資料を確認し、必要な点は先生にも確認します。」

処方医への確認文

「授乳中で、児は生後○か月、○週で出生、現在は混合栄養です。○○を1日○mg、○日間の処方で、電子添文は○○、授乳に関する資料では○○とされています。○○の情報が不足しているため、治療方針と授乳の扱い、観察項目をご確認いただけますか。」

薬歴に残す項目

相談内容/妊娠週数または児の月齢・出生時の在胎週数/薬剤名・用量・期間/参照資料と確認日/判断の前提と不明点/医師の回答/説明内容/観察項目とフォロー予定。

「授乳中でも問題なし」とだけ記録するよりも、どの条件と情報で説明したかを残す方が、次の担当者も経過を追いやすくなります。

まとめ|背景・根拠・対応をそろえて説明する

妊娠・授乳中の薬の相談では、最初に使用時期と量、母体の治療目的、胎児・乳児の状況をそろえます。電子添文と専門情報を確認し、必要な事項を医師へ共有して、具体的な対応とフォローを決めましょう。

RIDは評価を補う指標です。数値だけで結論を出さず、「分かっていること」と「まだ確認が必要なこと」を区別して伝えることが、服薬指導で迷わないための基本です。

相談できる体制や学ぶ時間も大切に

妊娠・授乳の相談は、一人で結論を抱え込まず、同僚や管理薬剤師、処方医と確認できる体制があると対応しやすくなります。薬局での責任や相談体制を考える際は、管理薬剤師になって思うことも参考にしてください。

働く環境を見直すときは、給与や勤務時間に加え、教育体制、相談相手、調べる時間を確保できるかも確認したい項目です。

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参考文献・情報源

情報確認日:2026年10月11日。個別の対応では、対象製品の最新の電子添文と患者背景を確認してください。本記事の確認表・説明文・計算練習は、薬局実務向けに作成した例です。

  1. 厚生労働省「医薬品・医療機器等安全性情報 No.316」(妊娠と薬情報センターについて/ARB及びACE阻害剤の妊婦・胎児への影響について)
    https://www.pmda.go.jp/files/000145258.pdf
  2. NIH/NLM「Drugs and Lactation Database (LactMed) – Record Format」
    https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK547442/
  3. 国立成育医療研究センター「授乳中に安全に使用できると考えられる薬-薬効順-」(掲載リストの転載は行わず、注意点を確認)
    https://www.ncchd.go.jp/kusuri/lactation/druglist_yakkou.html
  4. FDA「Pregnancy and Lactation Labeling Resources」
    https://www.fda.gov/drugs/labeling-information-drug-products/pregnancy-and-lactation-labeling-resources
  5. 国立成育医療研究センター「授乳中のお薬Q&A」
    https://www.ncchd.go.jp/kusuri/lactation/qa_junyu.html
  6. PMDA「医療用医薬品 情報検索」
    https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/
  7. 国立成育医療研究センター「妊娠と薬について知りたい方へ」
    https://www.ncchd.go.jp/kusuri/process/

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