「少しふらつくけれど、経口補水液を飲めば大丈夫ですか」「利尿薬を飲んでいるので、水分を多めに取った方がよいですか」
夏の薬局では、熱中症や脱水に関する相談が増えます。しかし、経口補水液を販売する前に、まず確認したいのは自力で飲めるか、受け答えは普段どおりか、涼しい場所で休んでも改善するかです。
先に結論をまとめると、薬局での熱中症対応は次の順番で考えます。
- 意識・会話・歩行・経口摂取の状態から緊急度を判断する
- 涼しい場所へ移し、衣服を緩めて体を冷やす
- 自力で飲める場合に限り、状態に合った水分・電解質補給を考える
- 心臓・腎臓の病気、水分・塩分制限、服用薬を確認する
- 改善しない場合や判断に迷う場合は、医療機関への相談・受診につなぐ
この記事では、暑さ指数(WBGT)の見方から、熱中症を疑う症状、救急要請の目安、経口補水液の選び方、薬剤師が確認したい服用薬まで実務に沿って整理します。
薬局で熱中症を疑ったら最初に見る4項目
熱中症の可能性がある人へ、最初から長い聞き取りを行うのは適切ではありません。まず涼しい場所で休んでもらいながら、次の4項目を短時間で確認します。
| 確認項目 | 見るポイント | 対応の目安 |
|---|---|---|
| 意識・会話 | 呼びかけへの反応、返答の内容、普段との違い | 反応が悪い、返答がおかしい場合は救急要請を考える |
| 自力で飲めるか | むせずに飲めるか、吐いていないか | 自力で飲めない場合は無理に飲ませず救急要請 |
| 症状 | めまい、立ちくらみ、大量の発汗、筋肉痛、こむら返り、頭痛、吐き気、強い倦怠感など | 軽い症状でも冷却と経過確認が必要 |
| 暑熱への曝露 | 屋外作業、冷房のない室内、入浴後、長時間の移動など | 曝露を止め、涼しい環境へ移す |
厚生労働省は、自力で水を飲めない、または意識がない場合は、すぐに救急車を呼ぶよう案内しています。本人が「大丈夫」と答えても、返答がかみ合わない、まっすぐ歩けない、ぐったりしている場合は、店内で様子を見続けないことが大切です。
薬局で使える最初の声かけ
まず涼しい場所で休みましょう。お名前と、今日はどこから来られたか教えてください。水分はご自分で飲めますか。
この声かけで、意識、会話、暑熱への曝露、経口摂取の状態をまとめて確認できます。
暑さ指数(WBGT)は気温ではなく熱中症リスクの目安
暑さ指数(WBGT:湿球黒球温度)は、気温だけでなく、湿度、日射・輻射など周辺の熱環境を取り入れた指標です。気温がそれほど高く見えなくても、湿度が高く、風が弱い環境では熱中症リスクが上がります。
環境省が示す日常生活の目安は次のとおりです。
| WBGT | 区分 | 日常生活での注意点 |
|---|---|---|
| 25未満 | 注意 | 一般には危険性は少ないが、激しい運動や重労働では発生する可能性がある |
| 25以上28未満 | 警戒 | 運動や激しい作業では、定期的に十分な休息を取る |
| 28以上31未満 | 厳重警戒 | 炎天下を避け、室内でも温度上昇に注意する |
| 31以上 | 危険 | すべての生活活動で起こる危険性があり、高齢者では安静時も注意する |
WBGTが25未満でも「安全」と言い切れるわけではありません。高齢者、乳幼児、持病がある人、暑さに慣れていない人、体調不良や睡眠不足がある人では、数値だけで判断しないようにします。
薬局では、環境省の全国の暑さ指数を朝礼や開局時に確認し、来局者への声かけ、配達・在宅訪問の時間調整、職員の休憩に活用できます。熱中症警戒アラートが発表された日は、高齢者や一人暮らしの患者さんへ「室内で冷房を使えているか」まで聞くと具体的です。
熱中症の症状と受診・救急要請の目安
熱中症は「チェックが何個ついたか」だけでは重症度を判断できません。1項目でも意識や経口摂取に異常があれば、緊急性が高い可能性があります。
まず冷却しながら状態を見る症状
- めまい、立ちくらみ
- 大量の発汗
- 筋肉痛、こむら返り
- 生あくび
- 頭痛、吐き気
- 体がだるい、力が入らない
これらの症状があれば、エアコンの効いた場所や風通しのよい日陰へ移し、衣服を緩めます。首の周り、脇の下、足の付け根などを冷やし、自力で安全に飲める場合は水分・電解質を補給します。
すぐに救急要請を考えるサイン
- 呼びかけへの反応が悪い、返答がおかしい
- 意識がない、けいれんしている
- 自力で水分を飲めない
- まっすぐ歩けない、立てない
- 体が熱く、冷却しても状態が悪い
意識が悪い人へ無理に飲ませると、誤嚥するおそれがあります。水分を勧めるより、救急要請と冷却を優先します。
意識が保たれていても、冷却と水分補給で症状が改善しない、吐き気・嘔吐で飲めない、基礎疾患があり判断が難しい場合は、医療機関へ相談・受診するよう案内します。
経口補水液とスポーツドリンクは目的が違う
経口補水液は、脱水症時の食事療法に用いる病者用の飲み物です。一般的なスポーツドリンクよりナトリウムやカリウムを多く含み、水と電解質を吸収しやすいよう調整されています。
一方で、経口補水液は暑い日の普段の水分補給として日常的に飲むものではありません。消費者庁は、製品によって「感染性胃腸炎による下痢・嘔吐に伴う脱水」に適したものと、「熱中症による脱水状態」に適したものがあるため、パッケージの許可表示を確認するよう注意喚起しています。
| 確認項目 | 経口補水液 | 一般的なスポーツドリンク |
|---|---|---|
| 主な位置づけ | 脱水症時の水・電解質補給に用いる病者用食品 | 運動時や日常の水分・糖質補給に使われる清涼飲料水 |
| 電解質 | ナトリウム、カリウムが比較的多い | 製品により異なるが、経口補水液より少ないことが多い |
| 薬局での確認 | 脱水の有無、使用目的、許可表示、基礎疾患、摂取制限 | 糖質量、持病、日常の飲水状況など |
経口補水液を渡す前の5点確認
- 自力で飲める状態か
- 脱水を伴う熱中症が疑われるか
- 熱中症による脱水に使用できる旨が表示された製品か
- 心不全、腎機能低下、高血圧、糖尿病などがないか
- 医師から水分、塩分、カリウム、糖質の制限を指示されていないか
経口補水液を一度に大量摂取すると、ナトリウムの過剰摂取につながる可能性があります。心臓や腎臓の病気で水分摂取量を指示されている人には、「熱中症予防だから多めに」と一律に勧めず、主治医の指示を優先します。
販売時の説明例
「これは普段の水分補給用ではなく、脱水時に使う飲み物です。熱中症による脱水に使える表示と、1日の目安量を確認しましょう。心臓や腎臓の病気で水分量を指示されている場合は、その指示を優先してください」
PR|脱水を伴う熱中症に使える表示を確認して選ぶ
下の商品は、購入時に最新のパッケージ表示、使用上の注意、賞味期限を確認してください。日常の水分補給用ではありません。
服用薬は「中止」ではなく脱水リスクと体調変化を確認する
暑い時期は、薬の作用と発汗・食事量低下・下痢・嘔吐などが重なり、脱水や腎機能悪化につながることがあります。ただし、「熱中症が心配だから」と薬を自己判断で中止するのも危険です。
薬局では、次のように確認します。
| 薬剤・状況 | 確認したいこと | 薬剤師の対応 |
|---|---|---|
| ループ利尿薬など | 尿量、体重変化、浮腫、口渇、ふらつき、水分制限 | 心不全などの治療目的を確認し、一律に飲水や中止を指示しない |
| SGLT2阻害薬 | 食事・飲水量、発熱、下痢・嘔吐、強い口渇、倦怠感 | 脱水やシックデイ時の指示を確認し、必要時は処方医へつなぐ |
| ARB・ACE阻害薬 | 血圧低下、ふらつき、腎機能、利尿薬との併用 | 脱水時の腎機能悪化や転倒リスクに注意する |
| NSAIDs | 発熱・疼痛に対する自己購入、尿量低下、腎機能、併用薬 | 脱水時の腎機能悪化を考え、安易な追加使用を避ける |
| 水分・塩分制限がある人 | 医師から示された量、最近の体重や浮腫、息苦しさ | 一般的な熱中症対策より個別の指示を優先する |
利尿薬の違いと夏場の注意点は、ループ利尿薬の違いと使い分け|フロセミド・トラセミド・アゾセミドを薬剤師が解説で整理しています。
SGLT2阻害薬服用中の脱水やシックデイ対応は、SGLT2阻害薬とは?作用機序・注意点・服薬指導のポイントも参考にしてください。
脱水時に腎機能へ影響しやすい併用を確認するなら、NSAIDsの違いと使い分け|腎機能・高齢者で注意したいポイントとARBの違いと使い分け|高齢者・脱水時の確認ポイントもつながります。
服薬指導で避けたい一律の説明
「利尿薬を飲んでいるから水を多めに飲んでください」だけでは、心不全や腎機能低下による水分制限を見落とす可能性があります。
次のように、制限の有無と体調を先に確認します。
「暑くなってから、食事や水分の量、体重、むくみ、息苦しさに変化はありませんか。水分量について医師から指示はありますか」
薬局で使える熱中症対応チェックリスト
- □ 涼しい場所へ移し、衣服を緩めた
- □ 意識と会話が普段どおりか確認した
- □ 自力で安全に水分を飲めるか確認した
- □ めまい、発汗、筋肉痛、頭痛、吐き気、倦怠感を確認した
- □ 屋外・室内での暑熱曝露とWBGTを確認した
- □ 心臓病・腎臓病・糖尿病などの基礎疾患を確認した
- □ 水分・塩分・カリウム・糖質の制限を確認した
- □ 利尿薬、SGLT2阻害薬、ARB・ACE阻害薬、NSAIDsなどを確認した
- □ 経口補水液は使用目的とパッケージの許可表示を確認した
- □ 改善しない場合の受診目安を伝えた
薬歴には、症状、暑熱曝露、自力摂取の可否、基礎疾患、服用薬、対応、受診勧奨の内容を残します。経口補水液を販売した事実だけでなく、緊急性をどのように判断したかまで記録すると、次回対応につながります。
まとめ|経口補水液を選ぶ前に緊急度を判断する
薬局で熱中症の相談を受けたときは、商品選びより先に、意識・会話・歩行・自力摂取を確認します。
- 自力で飲めない、意識や返答がおかしい場合は救急要請を考える
- まず涼しい場所へ移し、衣服を緩めて体を冷やす
- WBGTが低めでも、患者背景や体調によって熱中症は起こりうる
- 経口補水液は日常の水分補給用ではなく、使用目的と許可表示を確認する
- 心臓・腎臓の病気や摂取制限がある人へ一律に勧めない
- 服用薬は自己中止させず、脱水リスクとシックデイ時の指示を確認する
熱中症対応では、「何を飲ませるか」だけでなく、「薬局で対応できる状態か、医療へつなぐべき状態か」を見極めることが薬剤師の重要な役割です。
参考文献
- 環境省「暑さ指数(WBGT)について」
https://www.wbgt.env.go.jp/wbgt.php - 環境省「熱中症特別警戒アラート・熱中症警戒アラート」
https://www.wbgt.env.go.jp/alert.php - 厚生労働省「熱中症が疑われる人を見かけたら 応急処置」
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/nettyuu/nettyuu_taisaku/happen.html - 消費者庁「経口補水液について」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_for_special_dietary_uses/oral_rehydration_solution - 消費者庁「堀井消費者庁長官記者会見要旨(2026年7月16日)」
https://www.caa.go.jp/notice/statement/horii/046969.html - 日本救急医学会「熱中症診療ガイドライン2024」
https://www.jaam.jp/info/2024/info-20240624.html - 大塚製薬工場「経口補水液オーエスワン(OS-1)」
https://www.os-1.jp/ - 日本糖尿病学会「糖尿病治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」
https://www.jds.or.jp/modules/important/index.php?content_id=430


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