―保護者フォローと学校連携のポイント―
1 はじめに:薬局が“つなぐ”立場に

発達障害の中でも、ADHD(注意欠如・多動症)と診断される子どもは、最近とても増えています。ADHDの子どもは、「集中が続かない」「じっとしていられない」「順番が守れない」などの行動が目立ち、学校や家庭で困る場面が多くなります。
そのため、治療として「薬を使って集中しやすくする」方法が選ばれることがあります。特に、コンサータやビバンセという薬は、ADHDの子どもに広く使われており、薬局で調剤されることが増えています。
ただし、これらの薬は、使い方に注意が必要で、処方する医師や薬局が登録されていなければ取り扱えない仕組みになっています。また、保護者の方が「副作用が怖い」「薬に頼っていいのか」と迷っていたり、学校が服薬の状況を知らずに子どもの対応に困っていたりすることもあります。
こうした場面で、薬局が「医師・保護者・学校の橋渡し役」になることが、とても重要です。薬剤師が間に入ることで、子どもが安心して薬を飲み続けられ、学校や家庭での生活が安定しやすくなります。
2 ADHDとお薬による治療について

2-1 ADHDってどんなもの?
ADHDは、発達障害の一種で、「注意力が続かない」「落ち着きがない」「思いついたことをすぐに行動に移してしまう」といった特徴があります。小学生のうちは元気すぎる子との区別が難しいこともありますが、本人も周囲も困ってしまうような行動が続く場合、病院で診断されることがあります。
治療では、まず「声かけの工夫」や「環境の調整」など、薬を使わない方法が行われますが、それだけでは集中できず生活に支障が出る場合には、薬を使うことで本人の負担を減らすことができます。
2-2 コンサータ®とビバンセ®について
これらのお薬は、脳の働きを調整して「集中力を高める」「気持ちを落ち着ける」作用があります。どちらも朝に飲むことで、学校での学習や集団生活がスムーズになるよう設計されています。
項目 | コンサータ® | ビバンセ® |
効果の持続時間 | 約8~12時間 | 約10~12時間 |
飲み方 | 錠剤はそのまま飲む(砕けない・一包化不可) | カプセルのまま服用(一包化不可) |
よくある副作用 | 食欲が減る、眠れない、お腹が痛くなるなど | 食欲が減る、体重が減る、眠れないなど |
登録制度の有無 | 専用の処方箋が必要/登録された薬局でしか扱えない | 同様のルールがある |
これらの薬は、法律で「向精神薬」に分類され、厳しく管理されています。そのため、処方した医師も、薬を出す薬局も、国のシステムに登録しなければなりません。登録していないと、処方も調剤もできないしくみになっています。
3 薬局でできるサポートの流れ
3-1 最初の調剤でやるべきこと
初めてこのお薬を扱うときは、以下のような確認やサポートが必要です。
- 登録の確認
このお薬は、登録された病院・薬局でしか使えません。処方医・薬局・患者が ADHD 適正流通管理システムに登録済かをオンラインで確認する必要があります。患者カードの有無も確認してください。
- 毎日の飲み方の相談
「朝の何時ごろに飲めばいいか」「休みの日はどうするか」など、保護者と一緒にスケジュールを決めて、カレンダーやスマホでリマインド設定すると飲み忘れを防げます。
3-2 毎月のフォローで気をつけること
服薬を続ける中で、子どもの体や生活にどんな変化があるか、毎月のフォローが重要です。
チェック内容 | なぜ必要か | サポート方法 |
身長や体重 | 成長に影響していないか確認する | 毎月ノートなどに記録してもらうよう促す |
睡眠の様子 | 夜眠れているか、副作用が出ていないか | 保護者と一緒に寝る時間・起きる時間を確認する |
飲み忘れ | 効果がきちんと出ているかどうか | 飲み忘れが多ければ、先生や医師に相談を勧める |
学校での様子 | 薬の効果が十分かを確認 | 連絡帳やアプリで先生からのコメントを見せてもらう |
4 薬の種類ごとの説明ポイント

コンサータの場合
- 割ったり砕いたりは絶対NGです。この薬は、中の成分がゆっくり出るように作られており、砕くと一気に出てしまって危険です。
- 朝早く飲むのが基本です。夕方に飲むと眠れなくなることがあるので、遅くても午前中に飲むように指導します。
- こんなときは医師に相談を:チック(体の一部がピクピク動く)や、極端な不安があるときは、薬の種類や量を見直す必要があります。
ビバンセの場合
- カプセルを開けて服用しないでください。
- お昼以降は飲まないのが基本です。不眠になるようなら朝早くに飲むようにしてください。
- 薬の特徴:体の中に入ってから初めて「薬」として働くタイプで、誤用や乱用が起きにくい設計になっています。
5 保護者の不安を減らすために

- 副作用を記録する用紙を一緒に使う
「最近、眠れているかな?」「食事の量は変わったかな?」などを、紙に記録することで変化に気づきやすくなります。 - 週末は薬を休むという選択肢について説明
休薬には「食欲が戻る」「成長しやすくなる」といった良い面もありますが、「月曜日に集中できなくなる」といった課題もあります。 - ネットの情報にまどわされないようにする
「薬に依存してしまうのでは?」といった誤解がネットで広まっていることもあります。薬剤師から正しい情報を伝えることが大切です。 - 成長に合わせた量の調整をすすめる
子どもの体が大きくなると、今までの量では足りなくなることもあります。体重や様子の変化を見ながら、医師に相談するきっかけをつくりましょう。
6 学校との連携をスムーズにする

情報を届けるための工夫
- 投薬指示書を使って、薬の効果の時間や注意点を学校の先生に伝えると、学校でも適切に対応できます。
- 発達支援シートという書類を活用すれば、幼稚園や保育園から小学校への情報引き継ぎもスムーズになります。
薬の効果に合わせた工夫例
状況 | 困りごと | 工夫方法 |
午後になると集中力が落ちる | コンサータだけでは足りない | 授業の合間に軽く体を動かす時間を提案する |
昼食後に眠くなる | ビバンセ服用児 | 朝の服薬時間を30分早めることで調整する |
こうした工夫は、薬局が保護者や医師と一緒に考えて、学校に伝えるようにすると、連携がうまくいきます。
7 薬局がチームの一員としてできること

- 月に1回の情報共有の会議(ケースカンファレンス)に参加し、薬の効果や子どもの様子を医師や支援スタッフと話し合います。
- 保健所や地域の発達支援センターとインターネットを使って情報を共有することで、薬の量を調整したり、飲み方を見直す判断材料にもなります。
8 まとめとこれからの取り組み

薬局が、保護者と学校をつなぐサポートをすることで、
- 薬をしっかり続けやすくなる
- 学校での困りごとが減る
- 家庭のストレスも軽くなる
といった良い変化が期待できます。
まずは、「初回調剤のチェックリスト」や「学校に渡すお薬の説明シート」などを作って、来週からでも使えるように準備してみましょう。
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