はじめに
がん治療の分野では、免疫療法が大きな注目を集めています。特に「免疫チェックポイント阻害剤」は、体内の免疫細胞ががんを攻撃しやすくすることで、高い治療効果を発揮します。しかし、その一方で「免疫関連有害事象(irAEs)」と呼ばれる副作用が問題となることもあります。これは、免疫が過剰に活性化されることで、正常な細胞や臓器が攻撃されてしまう現象です。
本記事では、がん免疫療法に伴う副作用のメカニズムと、最新の管理方法や支持療法について解説します。
1. がん免疫療法と副作用のメカニズム

がん免疫療法とは?
がん免疫療法は、患者自身の免疫システムを活性化し、がん細胞を排除する治療法です。代表的なものとして 「免疫チェックポイント阻害剤(ICI)」 があります。
免疫細胞(T細胞)は、体内で異常な細胞を見つけると攻撃を仕掛けます。しかし、がん細胞は「PD-L1」や「CTLA-4」というタンパク質を使い、T細胞の攻撃を抑制することで、生き延びようとします。ICIは、この「がん細胞の防御システム」を解除し、T細胞ががん細胞を攻撃しやすくする薬です。
代表的なICIの種類:
- PD-1阻害剤(ペムブロリズマブ、ニボルマブ など)
- PD-L1阻害剤(アテゾリズマブ、デュルバルマブ など)
- CTLA-4阻害剤(イピリムマブ など)
副作用(irAEs)の発生メカニズム
ICIががん細胞の防御を解除することで、T細胞が活性化されます。しかし、時には 正常な組織も攻撃してしまう ことがあり、これがirAEsの原因となります。
2. 代表的な副作用(irAEs)とその管理方法

irAEsは発生する臓器によって症状が異なります。代表的なものを以下に示します。
① 皮膚症状(発疹、かゆみ、乾癬など)
- 症状: 皮膚の発疹、赤み、かゆみ、乾癬の悪化
- 管理方法: 軽度の場合は保湿剤や抗ヒスタミン薬で対処。重度の場合はステロイド外用薬や経口ステロイドを使用。
② 消化器症状(大腸炎、下痢)
- 症状: 下痢、腹痛、血便など(重度の場合、腸穿孔のリスクも)
- 管理方法: 軽度なら整腸剤(乳酸菌製剤など)を使用。重度ならステロイドや免疫抑制剤(インフリキシマブなど)を投与。
③ 内分泌障害(甲状腺機能低下症、副腎機能不全、糖尿病)
- 症状: 倦怠感、体重減少、異常な血糖値
- 管理方法: 甲状腺ホルモン補充療法やインスリン治療を行う。
④ 肺障害(免疫関連肺炎)
- 症状: 息切れ、咳、発熱
- 管理方法: 軽度なら経過観察。重度の場合はステロイドや免疫抑制剤を使用。
3. 最新の支持療法と管理戦略

① 早期発見とモニタリングの強化
- 定期的な血液検査、画像検査(CT・MRI)
- 患者自身が症状を記録し、医療チームと共有(スマートウォッチなどの活用)
② ステロイド以外の新しい治療選択肢
- JAK阻害剤(トファシチニブ):免疫の過剰な活性を抑える効果が期待されている
- IL-6阻害剤(トシリズマブ):関節リウマチ治療薬としても使用されており、免疫関連の副作用を抑える可能性
③ 腸内細菌叢の調整による副作用予防
- プロバイオティクス(乳酸菌、ビフィズス菌)を摂取することで、腸内環境を整え、免疫バランスを最適化
- 食事の工夫(発酵食品、食物繊維を多く含む食品の摂取)
④ 生活習慣の改善
- 適度な運動:過度な炎症を防ぐ
- ストレス管理:副交感神経を優位にし、免疫の暴走を防ぐ
⑤ AI・デジタル技術の活用
- スマートウォッチを使った体温・心拍数・活動量のモニタリング
- AIを活用した副作用予測(患者のデータを解析し、irAEsの発症リスクを事前に評価)
4. まとめと今後の展望
がん免疫療法は有望な治療法ですが、副作用の管理が重要です。
早期発見と適切な対応を行うことで、治療の継続が可能になり、患者の生活の質(QOL)を維持できます。
今後、AI技術や新しい支持療法の研究が進み、副作用のリスクをさらに低減できる可能性があります。
医療従事者と患者が協力し、免疫療法の効果を最大限に引き出しながら、安全に治療を進めていくことが求められます。
コメント