DOAC 4剤徹底比較|薬剤師が押さえる患者背景別の選び方

医薬品等解説

DOAC(直接経口抗凝固薬)は、血液が固まりすぎてできる血栓を防ぐための薬です。心房細動(不整脈の一種)や、脚の静脈にできた血栓(深部静脈血栓症)などに使われており、以前主流だったワルファリンよりも、飲み方が簡単で、日常生活への影響も少ないことから、現在は広く使われています。

しかし、DOACは一見便利な薬のように見えても、どの薬を、誰に、どの量で使うかを間違えると、思わぬ出血や治療効果不足につながることがあります。患者さん一人ひとりの体の状態を正しく把握し、最も適した薬を選ぶことが、薬剤師に求められる大切な役割のひとつです。



4つのDOACを比較してみよう

現在、日本で使われている主なDOACは4種類あります。それぞれ、血液を固める酵素をブロックすることで血栓をできにくくする働きがありますが、ブロックする場所や体への影響は少しずつ違います。


アピキサバン(商品名エリキュース)

腎臓の機能が低下している方にも使いやすく、高齢の方にも安心して使える薬です。特に、「年齢が80歳以上」「体重が60kg未満」「血清クレアチニンが1.5mg/dL以上」といった条件のうち、2つ以上に当てはまる場合は、薬の量を半分にする必要があります。服用は1日2回ですが、飲み忘れた場合でも血中濃度が大きく下がりにくいというメリットがあります。

リバーロキサバン(商品名イグザレルト)

1日1回の服用で済むという点が大きな特徴です。ただし、食後に飲まないと薬の吸収が不十分になってしまうため、食事とセットで飲むことが必須です。特に、食事のタイミングや食事量が不安定な方には注意が必要です。

エドキサバン(商品名リクシアナ)

体重が軽い方や腎機能がやや落ちている方でも、用量を調整することで安全に使用できる薬です。また、臨床データでも出血リスクが比較的低いことが示されており、現場でも人気の高い薬です。服用は1日1回で、服用回数が減ることで服薬管理が簡単になるメリットがあります。


ダビガトラン(商品名プラザキサ)

カプセルの中が特殊な構造になっていて、開封や粉砕ができないため、飲み込みが難しい方や胃瘻のある方では使いづらい薬です。腎臓からの排泄が多いため、腎機能のチェックが必須です。ただ、万が一の大量出血時に「中和剤(解毒剤)」が使える唯一のDOACという点で、安心材料にもなります。

項目アピキサバン(エリキュース®)リバーロキサバン(イグザレルト®)エドキサバン(リクシアナ®)ダビガトラン(プラザキサ®)
作用点第Xa因子第Xa因子第Xa因子トロンビン(IIa)
標準用量 5 mg 20 mg (食後)60 mg 150 mg 
主な減量基準年齢≥80・体重≤60kg・Cr ≥1.5 mg/dL のうち2項目 → 2.5 mg CrCl 15-50 → 15 mg ①体重≤60kg ②CrCl 15-50 ③特定薬併用 → 30 mg CrCl 30-50→110 mg 
半減期9~14h5〜9 h10-11 h12-17 h
腎排泄割合25 %66 %
(代謝活性物)
35%80 %
出血傾向消化管<消化管やや多全体的に低め消化管多め

胃潰瘍など、消化管からの出血リスクがある方では、比較的消化管への影響が少ない薬を選び、場合によっては胃薬(PPI)を併用することもあります。



飲み合わせや注意点も要チェック

DOACは、他の薬との飲み合わせによっては、効果が強くなりすぎて出血したり、逆に効果が弱まって血栓ができてしまうことがあります。たとえば、抗血小板薬(アスピリンやクロピドグレルなど)、一部の抗生物質、抗真菌薬、抗てんかん薬などは、DOACと相互作用を起こしやすいので併用薬や添付文書の確認が必須です。

また、妊娠中や授乳中の方、人工弁を入れている患者さんには使えないことが多いので確認をしておいた方が良いでしょう。



飲み方や定期チェックのポイント

DOACを安全に使い続けるためには、定期的な腎機能の検査が欠かせません。腎臓の働きが落ちると、薬が体内にたまりやすくなり、思わぬ出血を起こすことがあるからです。特に高齢の方や、糖尿病や高血圧などの持病がある方は、半年〜1年ごとの定期検査がすすめられます。

また、薬の効きすぎによる出血を早めに見つけることも大切です。歯ぐきや鼻からの出血、黒い便、皮下出血(あざが増える)などのサインがあったら医師に相談することを勧めましょう。



万が一の「効きすぎ」に備える薬も登場

もしDOACを飲んでいて重い出血が起こった場合に、薬の効果をすぐに止める「中和剤(解毒剤)」があると安心です。現在、ダビガトランには「イドルシズマブ(商品名プラキサバインド)」という中和剤が承認され、手術が急に必要になった場合や、大量出血が起きたときなどに使用されます。ほかのDOACの中和剤についても海外では承認されており、日本でも承認のための試験が行われています。救急医療でこれらの中和剤の活躍が期待されています。


DOACの知識を深めて、薬剤師としてのキャリアを広げるチャンスに

DOACは便利な薬ですが、患者さんの状態に合わせて選び方を工夫することが、最も安全な使い方です。腎臓の働き、体重、年齢、出血のリスク、食事との関係、服薬状況など、多くの情報をもとに最適な薬を選ぶことが、薬剤師の大切な役割です。

DOACについてしっかり学びたい、患者さんにもっと頼られる薬剤師になりたいと考えているなら、「学べる職場」を選ぶことも1つの方法です。たとえば、循環器科のクリニックや在宅医療に力を入れている薬局では、日々の業務の中で自然と知識が深まっていきます。

もし、今の職場でなかなか学べないと感じているなら、医療職に特化した転職エージェントに相談してみるのもおすすめです。無料でキャリアの相談ができるため、自分の得意分野を伸ばせる環境が見つかるかもしれません。


参考URL

直接経口抗凝固薬(DOAC)の特徴と使い分け,日医大医会誌 2018; 14(3)

プリズバインド静注液2.5g添付文書

コメント

タイトルとURLをコピーしました