がん治療における漢方薬の活用

医薬品等解説

1. はじめに

がん治療は、手術、化学療法、放射線治療などの標準治療が主流となっていますが、近年では、補完代替療法として漢方薬が注目されています。漢方薬は、患者一人ひとりの体質や症状に合わせた個別対応が可能であり、がん治療の補助として非常に重要な役割を果たします。

がん治療は、長期間にわたることが多く、患者にとって身体的、精神的負担が大きいのが現実です。こうした治療を乗り越えるために、患者の生活の質(QOL)を維持し、治療の円滑な進行を助ける方法として、漢方薬の活用が期待されています。本記事では、がん治療における漢方薬の活用方法や目的、具体的な漢方薬について詳しく解説します。

2. がん治療における漢方薬の目的

がん治療において漢方薬が使われる目的として、継続してがん治療を行うための補助として使われることがあります。



2.1. 副作用の軽減

化学療法や放射線治療は、がん細胞を攻撃するだけでなく、正常な細胞にもダメージを与えるため、多くの副作用が生じます。特に、消化器症状(吐き気、食欲不振、便秘)、倦怠感、免疫力の低下などが顕著です。これらの副作用は治療の継続を難しくする場合があり、患者にとって非常に辛いものです。漢方薬は、こうした副作用を軽減する役割を担います。例えば、消化機能を助ける漢方薬や、エネルギーを補充して倦怠感を和らげるものなどが使用されます。

2.2. 免疫力の向上

がん治療中は体力が低下し、免疫力が落ちることが一般的です。免疫力が低下すると、感染症にかかりやすくなり、治療の中断や中止を余儀なくされることもあります。漢方薬は体内のバランスを整え、自然治癒力を高めることで、免疫機能をサポートします。これにより、治療の継続を助け、感染症のリスクを低減させます。例えば、免疫力を強化する作用を持つ漢方薬が使用されることがあります。

2.3. QOL(生活の質)の向上

がん治療の過程では、身体的な痛みや疲労感、さらには精神的なストレスや不安も伴います。漢方薬によって、がんの進行に伴う症状や抗がん剤の副作用を軽減することでQOLが上昇することが期待できます。がんは、治療期間が長期間になることもあるので、治療に対するモチベーションを保つことも大切です。


3. がん治療でよく使われる漢方薬

近年では、がん治療においても漢方薬が活用されるようになりました。こちらでは、がん領域で使われる漢方薬について解説します。

3.1. 補中益気湯(ほちゅうえっきとう)

適応症状:体力低下、倦怠感、食欲不振
効果:補中益気湯は、消化機能を改善し、体力を補い、免疫力を向上させる効果があります。がん治療中の患者の体力低下や倦怠感、食欲不振に対してよく使用されます。また、消化機能を整えることで、身体機能の維持を助けます。

3.2. 十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)

適応症状:術後の回復、慢性疲労、免疫力の低下
効果:十全大補湯は、血液の循環を改善し、体力回復をサポートする漢方薬です。特に、がんの手術後の回復を早めるために使用されることが多く、慢性疲労や免疫力の低下にも効果があります。術後の患者の体力を補充し、治療中の疲労感を軽減します。

3.3. 半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)

適応症状:消化器症状(吐き気、下痢)、口内炎
効果:半夏瀉心湯は、胃腸の働きを整える漢方薬で、吐き気や食欲不振、胃の不快感などの消化器症状を軽減します。また、放射線治療や化学療法による口内炎にも有効で、口腔内の炎症を抑える働きがあります。

3.4. 人参養栄湯(にんじんようえいとう)

適応症状:術後の回復、全身の滋養
効果:人参養栄湯は、身体を温め、栄養を補給し、体力回復を促進する効果があります。特に、術後や治療による体力低下を改善するために使用されます。体力をつけ、免疫力を高め、治療中の疲れを和らげることができます。

3.5. 六君子湯(りっくんしとう)

適応症状:食欲不振、消化機能の低下
効果:六君子湯は、消化機能を高め、栄養の吸収を改善する漢方薬です。食欲不振や消化不良に悩む患者に特に有効で、治療中の体調不良を改善するために使用されます。

3.6. 牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)

適応症状:末梢神経障害、むくみ
効果:牛車腎気丸は、血流を改善し、手足のしびれやむくみを軽減する作用があります。特に、化学療法や放射線治療後に見られる末梢神経障害やむくみの改善に使用されます。

3.7. 大建中湯(だいけんちゅうとう)

適応症状:腹部の冷え、術後の腸機能低下、抗がん剤治療に伴う腸管機能の低下
効果:腸の働きを促進し、手術後の腸閉塞予防や腸の動きを改善する。抗がん剤治療による腸の蠕動運動低下を防ぎ、消化吸収を助け、栄養状態の改善に寄与します。

3.8. 抑肝散(よくかんさん)

適応症状:イライラ、不安、不眠、抗がん剤治療による精神的ストレス
効果:神経の興奮を鎮め、精神的ストレスを軽減し、睡眠の質を向上させる。特に、抗がん剤の影響による不安や自律神経の乱れを整えるのにも役立ち、精神的に安定させる働きがあります。

3.9. 芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)

適応症状:筋肉のけいれん、こむら返り、抗がん剤による神経障害
効果:筋肉の緊張を和らげ、痛みを軽減する。即効性があり、抗がん剤治療中に起こる筋肉の痙攣や神経障害による痛みを軽減させる働きが期待できます。

4. 漢方薬の使用にあたっての注意点

漢方薬は、副作用が少ないイメージを持たれることがありますが、医薬品であるため副作用のリスクもあります。また、服用している薬がある場合は、飲み合わせに問題が起きる可能性もあるので注意が必要です。

4.1. 医師・薬剤師との相談の重要性

漢方薬を使用する際には、必ず医師や薬剤師と相談することが大切です。がん治療中の患者は、すでに多くの薬を服用している場合が多く、漢方薬との相互作用が問題となることもあります。適切な漢方薬の選択と使用方法を専門家と一緒に確認することが、治療効果を最大限に引き出すためのポイントです。

4.2. 副作用と相互作用

漢方薬にも副作用が存在することがあります。特に、他の薬剤と併用する際には、相互作用に注意する必要があります。漢方薬は体調を整える効果がある一方で、過剰に摂取した場合には副作用を引き起こすこともあります。医師や薬剤師と相談し、慎重に使用することが求められます。

4.3. 西洋医学との併用のポイント

漢方薬と西洋医学を併用する場合、適切なタイミングや服用方法を守ることが重要です。抗がん剤治療の副作用が起きると思われる場合は、漢方薬も同時に開始して様子を見ることもあります。治療の進行状況に応じて、漢方薬の種類や量を調整することが必要です。

5. まとめ

漢方薬は、がん治療において副作用の軽減や生活の質の向上に寄与する重要な補完療法です。効果的に活用するためには、医師や薬剤師と密に連携し、患者一人ひとりに合った漢方薬を選択することが大切です。漢方薬を継続的に使用することで、がん治療の効果を高め、患者がより快適な生活を送るためのサポートをすることが期待されます。

患者が治療の過程で少しでも快適に過ごせるよう、適切な漢方薬の使用を検討することが、がん治療における重要な一歩となるでしょう。

参考文献

がん薬物療法と医療用漢方製剤,公益社団法人日本産婦人科医会

頭頸部がんの支持療法における漢方薬の使い方,日耳鼻 121: 22―30,2018


コメント

タイトルとURLをコピーしました