災害時、薬剤師は「命を守る支援者」になれる

地震や台風などの災害が発生すると、日常的に薬を必要とする高齢者や慢性疾患の患者は、特に大きなリスクにさらされます。薬が手に入らなかったり、服用を中断してしまうことで、命に関わる事態に陥ることも。そんなとき、薬剤師は「薬を届ける存在」として、要配慮者の命を守るキーパーソンになれます。
薬剤師はただ薬を渡すだけではなく、災害時の混乱の中でも薬歴や健康状態を把握し、適切な薬物治療を支えることで、人々の健康と安心を支える役割を果たせるのです。
なぜ災害時に薬の支援が必要なのか?

●「災害時要配慮者」は特に支援が必要な存在
災害時要配慮者とは、以下のような人々を指します。
- 高齢者
- 慢性疾患を持つ患者(高血圧、糖尿病、心疾患など)
- 妊婦
- 障害者
- 小児、乳幼児
- 精神疾患を抱える人
彼らは、自力で避難や薬の管理が難しく、支援がなければ健康状態が悪化する恐れがあります。
●災害時に薬の継続が困難な理由
- 医療機関や薬局の被災・休業
- 処方箋やお薬手帳が手元にない
- 避難生活での薬の管理が困難
- 医師や看護師との連携が取れない
- 通院ができない
このような状況では、薬が切れることで病状が急変し、入院や最悪の場合は命に関わる事態になることもあります。
東日本大震災での薬剤師の活躍
2011年3月11日に発生した東日本大震災では、日本全国の薬剤師会から多くの薬剤師が派遣され、被災地で支援活動を行いました。
避難所では、多くの高齢者や慢性疾患を持つ被災者が、服薬管理ができず体調を崩していました。その中で、薬剤師は避難所を巡回し、患者からの聞き取りを行い、過去の服薬内容を推定。医師と連携して代替薬を提案し、薬の継続的な提供を実現しました。これにより、多くの被災者の健康が維持されました。
お薬手帳の活用と情報共有
被災地では、医薬品の供給が不安定で、異なる銘柄の薬が混在する状況が発生しました。このような中、薬剤師は患者からの聞き取りを通じて薬剤を特定し、お薬手帳に薬剤名を記載する取り組みを積極的に行いました。この取り組みにより、医療チームが連携して効率的に診察・投薬などを行うことができました。
医薬品の仕分け・管理と供給
震災直後、多くの医薬品が被災地に送られましたが、その仕分けや管理が課題となりました。薬剤師は医薬品の分類・整理を行い、必要な医薬品を適切な場所に供給する役割を担いました。また、規制医薬品の保管・管理にも細心の注意を払い、医療チームが円滑に活動できるよう支援しました。
これらの事例から、災害時における薬剤師の役割がいかに重要であるかが理解できます。日頃からの備えと迅速な対応が、被災者の健康と命を守る鍵となります。
薬剤師が今からできる「災害時の備え」

災害はいつ起こるかわかりません。日頃からの準備が、いざという時の対応力を大きく左右します。薬剤師として「今できる備え」を以下の4つの視点から紹介します。
●【備蓄編】最低限の薬と医療物資の準備
薬局や個人で以下のような医薬品・衛生用品を備えておくことで、災害発生直後の混乱を最小限に抑えられます。
薬局・在宅用に備えておきたいもの:
- 解熱鎮痛薬(アセトアミノフェン、イブプロフェンなど)
- 整腸剤、下痢止め、便秘薬など
- 抗アレルギー薬(第1・2世代含む)
- 傷薬・絆創膏・ガーゼなど応急処置用品
- マスク、手袋、消毒用アルコール、除菌シートなどの衛生用品
取り組みの例:
- 慢性疾患のある在宅患者向けに、数日分の「予備薬ストック」を推進(医師と連携して対応)
- 薬局で「災害時優先提供リスト」を作成し、供給体制を事前に整備
- 非常用薬箱の準備とスタッフへの内容周知
●【情報共有編】電子お薬手帳の普及
薬の継続には「情報」が命。災害時でも薬歴が確認できる環境づくりが重要です。
活用法とメリット:
- スマートフォン対応の電子お薬手帳アプリを患者に推奨
- 紙の手帳よりも紛失リスクが低く、災害時でもすぐ確認できる
- クラウド管理により、複数の薬局・医療機関で情報共有が可能
- 家族の服薬履歴も一括管理できるアプリもあり、家族単位での備えに有効
●【地域連携編】行政や他職種との連携訓練

災害対応は薬剤師だけで完結しません。他の医療職や行政との「顔の見える関係」が、現場でのスムーズな支援につながります。
具体的な連携方法:
- 地域の災害医療チームや保健所との定期的な情報交換会の実施
- 薬剤師会と連携して、避難所支援訓練や模擬災害訓練に参加
- 医師・看護師・行政職員との災害対応シナリオ訓練を通じた役割確認
- 地域包括支援センターと連携して要配慮者リストを作成・更新
効果:
- 現場での役割分担が明確になる
- 医師不在時の薬剤師判断がスムーズに行える
- 薬の調達ルートや優先供給対象が共有され、混乱を防ぐ
●【教育編】災害支援薬剤師の登録・研修
災害に備えた知識やスキルは、事前の学びと経験が不可欠です。制度を活用し、備えを強化しましょう。
登録・研修の例:
- 「災害支援薬剤師」制度への登録(都道府県薬剤師会が窓口)
- 各地で開催される災害医療研修会・セミナーの受講
- 災害派遣医療チーム(DMAT)やJMATとの連携事例を学ぶ
研修で得られるスキル:
- 災害時の薬剤管理や供給計画の立て方
- トリアージ、感染症対策、避難所での衛生管理に関する知識
- 他職種との連携やコミュニケーション能力の強化
まとめ:薬剤師の「日常の意識」が、災害時の安心につながる

災害時に最も力を発揮するのは、日々の準備と意識です。薬剤師が「いつもの仕事+α」として要配慮者への目配りや情報発信を行うことで、地域の安心感は大きく変わります。
「備えあれば憂いなし」。あなたの行動が、誰かの命を守る力になります。
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