免疫チェックポイント阻害薬の普及により、薬剤師が免疫関連有害事象を疑う場面も増えてきました。
免疫関連有害事象は、発疹や下痢だけでなく、間質性肺疾患、甲状腺機能異常、肝障害、1型糖尿病、心筋炎、神経・筋障害など、さまざまな臓器に現れる可能性があります。
しかも、患者さんの訴えは「少しだるい」「食欲がない」「便の回数が増えた」といった、日常的な体調不良と区別しにくいことがあります。
薬剤師に求められるのは、免疫関連有害事象を診断することではありません。治療歴と症状を結びつけ、疑わしい変化を早い段階で医師や治療施設へつなぐことです。
この記事では、免疫関連有害事象の早期発見と重症化予防において、薬剤師が果たせる5つの役割を解説します。
免疫関連有害事象(irAE)とは
免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞によって抑えられていた免疫反応を再び働かせ、がん細胞への攻撃を促す薬です。
代表的な薬剤には、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブ、デュルバルマブ、イピリムマブなどがあります。
一方で、活性化した免疫が正常な臓器にも炎症を起こすことがあります。これが免疫関連有害事象です。
細胞障害性抗がん薬による悪心・嘔吐や骨髄抑制などとは異なる仕組みで起こり、発現する時期や症状には個人差があります。治療開始直後だけでなく、治療を続けている途中や、治療終了後に現れる可能性がある点にも注意が必要です。

薬剤師が確認したい主な症状
| 障害が疑われる臓器 | 確認したい症状・変化 |
|---|---|
| 呼吸器 | 新しく出た咳、息切れ、呼吸困難、発熱 |
| 消化管 | 普段より増えた排便、下痢、腹痛、血便 |
| 皮膚 | 発疹、かゆみ、水疱、粘膜の異常 |
| 内分泌 | 強い倦怠感、食欲低下、吐き気、頭痛、口渇、多尿 |
| 肝臓 | 倦怠感、黄疸、肝機能検査値の変化 |
| 神経・筋肉 | 筋力低下、まぶたが下がる、飲み込みにくい、しびれ |
| 心臓 | 胸痛、動悸、息切れ、むくみ |
息苦しさ、胸痛、意識状態の変化、急速に進む筋力低下、強い腹痛や血便などがある場合は、次回の受診を待たずに治療施設へ連絡する必要があります。
免疫関連有害事象に対する薬剤師の5つの役割
1.治療前の情報を確認する
治療開始前には、患者さんの既往歴、臓器機能、併用薬を確認します。
特に確認したいのは、次の項目です。
- 自己免疫疾患や甲状腺疾患の既往
- 臓器移植歴
- 過去のがん薬物療法と副作用歴
- 処方薬、市販薬、サプリメントの使用状況
- 治療開始前から存在する咳、下痢、倦怠感など
- 血糖、甲状腺機能、肝機能、腎機能などの基準値
治療前の状態を把握しておくと、治療後に現れた変化を評価しやすくなります。
また、市販薬やサプリメントは、患者さんが「薬ではない」と考えて申告していないことがあります。お薬手帳だけで判断せず、健康食品まで含めて聞き取ることが大切です。

2.患者さんが連絡すべき症状を具体的に伝える
「副作用に注意してください」だけでは、患者さんはどのタイミングで相談すればよいのか判断できません。
服薬指導では、次のように具体的に伝えます。
- 便の回数が普段より増えた
- 新しい咳や息切れが出てきた
- 食事や水分が取れないほどだるい
- 強い口渇や尿量の増加がある
- 発疹が急に広がった
- まぶたが下がる、力が入りにくい
- 胸痛や動悸がある
「軽い症状でも、次回受診まで待たずに治療施設へ連絡してください」と説明しておくことが、受診の遅れを防ぎます。
免疫関連有害事象について説明した患者カードや症状日記が用意されている場合は、その使い方も確認しておきましょう。
3.症状と検査値を経時的に確認する
免疫関連有害事象の評価では、一度の数値だけでなく、治療前からどのように変化したかを見ることが重要です。
薬剤師が確認する検査項目としては、次のようなものがあります。
- 肝機能
- 腎機能
- 血糖
- 甲状腺機能
- 血球数
- 電解質
ただし、必要な検査は使用薬剤、併用療法、患者さんの症状によって異なります。
検査値が基準範囲内でも、患者さんが「以前とは違う」と感じている場合は注意が必要です。倦怠感や食欲低下のような非特異的な症状が、内分泌障害などの初期症状である可能性も考えます。
4.ほかの原因も含めて評価する
免疫チェックポイント阻害薬を使用している患者さんに下痢や咳が出ても、すべてが免疫関連有害事象とは限りません。
感染症、がんの進行、併用している抗がん薬、抗菌薬、市販薬などが原因となっている可能性もあります。
例えば下痢がある場合は、次の項目を確認します。
- 治療前と比べて便の回数が何回増えたか
- いつから始まったか
- 腹痛や発熱、血便があるか
- 食事や水分を取れているか
- 抗菌薬や下剤を使用していないか
- 市販の止瀉薬を使用していないか
症状を抑える薬だけで様子を見ると、必要な評価が遅れることがあります。免疫関連有害事象が疑われる場合は、安易なセルフメディケーションを勧めず、治療施設へ情報提供することが大切です。

5.治療と支持療法を安全に継続できるよう支援する
免疫関連有害事象への対応は、障害された臓器と重症度によって異なります。
免疫チェックポイント阻害薬の継続・休薬、ステロイドの開始、追加の免疫抑制薬の使用などは、医師を中心としたチームで判断します。
薬剤師は、次のような面から治療を支援できます。
- ステロイドの用量や漸減方法の確認
- 血糖上昇、不眠、感染症などの副作用モニタリング
- 投与量・投与期間・患者背景に応じた感染症対策の検討
- 消化管障害や骨粗鬆症リスクの評価
- 併用薬との相互作用の確認
- 追加される免疫抑制薬の投与管理
- 退院後に使用する薬の説明と服薬状況の確認
胃薬や骨粗鬆症治療薬、感染症予防薬などは、すべての患者さんに一律で必要になるわけではありません。ステロイドの投与量や予定期間、年齢、既往歴などを踏まえて個別に検討します。
保険薬局でも免疫関連有害事象に気づける
免疫チェックポイント阻害薬は医療機関で投与されるため、保険薬局の処方箋に薬剤名が記載されないことがあります。
そのため、処方内容だけを見ていると、患者さんががん免疫療法を受けていることに気づけません。
がん治療中の患者さんから体調不良の相談を受けたときは、次の点を確認してみましょう。
- 現在受けているがん治療の名前
- 最後に治療を受けた日
- 症状が始まった時期
- 普段の状態からどの程度変化したか
- 治療施設の緊急連絡先
- 患者カードの有無
医療機関へ連絡する場合は、「下痢があります」だけでなく、「治療前より1日4回増え、腹痛もある」など、具体的な情報を伝えると評価につながりやすくなります。
免疫チェックポイント阻害薬の治療終了後であっても、治療歴を確認する意識が必要です。
現場で迷いやすい2つの場面
「だるくて食欲がない」と相談された場合
がん治療中の患者さんでは、倦怠感や食欲低下は珍しくありません。
しかし、免疫チェックポイント阻害薬の使用歴がある場合は、甲状腺機能異常、副腎機能低下、1型糖尿病なども確認する必要があります。
市販の栄養剤を案内して終わらせず、吐き気、頭痛、口渇、尿量、体重変化などを聞き取り、必要に応じて治療施設へ相談します。
「下痢止めを買いたい」と言われた場合
まず確認したいのは、単なる下痢の有無ではなく、治療前から何回増えたかです。
腹痛、発熱、血便、脱水症状がある場合や、排便回数が急に増えている場合は、免疫性大腸炎の可能性も考えて早めの受診につなげます。
感染性腸炎などとの鑑別も必要になるため、自己判断で下痢止めを続けるよう案内するのは避けましょう。
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まとめ|小さな変化を治療施設につなぐ
免疫関連有害事象を完全に予防することは困難です。しかし、患者さんへの事前説明と継続的な症状確認により、早期発見と重症化予防につなげられる可能性があります。
薬剤師が押さえておきたいポイントは、次の5つです。
- 治療前の状態と併用薬を確認する
- 連絡が必要な症状を具体的に説明する
- 症状と検査値の変化を追う
- 感染症や併用薬など、ほかの原因も考える
- 治療施設や多職種と速やかに情報共有する
病院薬剤師だけでなく、保険薬局の薬剤師も早期発見の入り口になれます。
「普段と何が違うのか」を丁寧に聞き取り、気になる変化を抱え込まずに治療施設へつなぐことが、患者さんの安全な治療継続を支える第一歩です。
※本記事は医療従事者向けの一般的な情報です。実際の診断・治療は、最新のガイドライン、添付文書、施設の手順に基づいて判断してください。

参考文献・情報源
1.日本臨床腫瘍学会「がん免疫療法ガイドライン第3版」
https://www.jsmo.or.jp/about/kanko.html
2.PMDA「重篤副作用疾患別対応マニュアル(医療関係者向け)」
https://www.pmda.go.jp/safety/info-services/drugs/adr-info/manuals-for-hc-pro/0001.html
3.厚生労働省・PMDA「免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象対策マニュアル」
https://www.pmda.go.jp/files/000245271.pdf
4.Schneider BJ, et al. Management of Immune-Related Adverse Events in Patients Treated With Immune Checkpoint Inhibitor Therapy: ASCO Guideline Update.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34724392/
5.Renna CE, et al. Expansion of pharmacist clinical services to optimize the management of immune checkpoint inhibitor toxicities.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30975067/
6.Walker A, et al. The role of oncology pharmacy practitioners in immunotherapy.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35382638/


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