いま、薬剤師が漢方薬を学ぶべき理由

漢方薬は高齢化社会において、薬剤師が対応すべき重要な領域になりつつあります。慢性的な不調や原因不明の体調不良に対して、患者自身が「漢方を試したい」と相談するケースも増えています。そんなとき、薬剤師が漢方の基本を知っているかどうかで、服薬指導の質は大きく変わります。
なぜ今、漢方薬が注目されているのか

現在、漢方薬は保険診療でも多く処方されており、実に148種類の漢方製剤が医療用医薬品として利用可能です(2025年時点)。特に注目されている理由としては以下のような背景があります。
- 高齢者に多い「西洋薬では改善しにくい慢性症状」への対応
- 多剤併用による副作用を軽減する「漢方への切り替え」ニーズ
- 医師の間でも、エビデンスのある漢方薬の使用が進んでいる
また、在宅医療や地域医療の現場では「気・血・水」や「証」の概念を理解していないと、医師の指示内容を的確に理解できない場面もあります。
参考:https://www.nikkankyo.org/seihin/info_pi/introduction.pdf
薬剤師が学ぶべき漢方薬の基本と学習ステップ

● まず押さえたい漢方の基本用語
- 証(しょう):患者の体質や病態の総合的な判断(虚実・寒熱など)
- 気・血・水:体内をめぐる基本物質とそのバランス
- 五臓六腑:東洋医学の臓器概念(実際の解剖学的臓器とは異なる)
これらを理解することで、漢方薬が「どんな患者に、どのように効くのか」がイメージしやすくなります。
● 医療現場でよく使われる代表的な漢方薬
① 大建中湯(だいけんちゅうとう)
作用:腸管の運動を高め、冷えや腹痛を改善する
使用例:イレウス後の腸管蠕動促進、術後の腸閉塞予防など
特徴:乾姜・人参・山椒などの温性生薬が主体。腸の血流改善や炎症抑制にも注目
エビデンス:RCTにより術後イレウスの予防効果が示されている
参考:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29061775/
② 六君子湯(りっくんしとう)
作用:胃腸機能を高め、食欲不振や胃のもたれを改善する
使用例:機能性ディスペプシア、胃の虚弱、高齢者の食欲不振など
特徴:四君子湯に陳皮と半夏を加えた処方。気虚+水滞タイプの患者に適応
エビデンス:FD患者での症状改善が報告されている
参考:http://www.jsom.or.jp/medical/ebm/er/pdf/090010.pdf
③ 抑肝散(よくかんさん)
作用:神経の高ぶりを抑え、イライラや不眠、認知症の周辺症状に効果
使用例:認知症に伴う興奮、こどもの夜泣きや癇癪など
特徴:肝の気を抑える作用があり、精神安定系の作用が強い
エビデンス:BPSD(認知症に伴う行動・心理症状)への有効性が複数報告されている
参考:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15705012/
学び方のステップとおすすめリソース

● 書籍で学ぶ:評価の高い書籍から体系的に理解を深めよう
漢方薬を学ぶ際、まずは信頼できる書籍から基礎を固めるのが効果的です。特に初心者におすすめなのが以下のような評価の高い書籍です。
- 『生薬と漢方薬の事典』(田中耕一郎 著)
全ページカラーで、生薬ごとの写真・特徴・配合処方まで網羅されています。視覚的に学べるため、薬剤師の現場感覚にもつながりやすい一冊です。
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- 『丸わかり!漢方薬120%使いこなし事典』(根本幸夫 著)
症状別・病気別に処方を整理し、現場ですぐに役立つ構成になっています。OTCや調剤でも漢方に触れる機会がある薬剤師にとって実用性が高い内容です。
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- 『基礎からの漢方薬』(金成俊 著)
漢方薬に慣れていない医療従事者に向けて、処方構成・適応・用法までを平易な言葉で解説。初心者のつまずきを丁寧に解消してくれる一冊です。
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これらの書籍はAmazonでも高評価を得ており、「わかりやすい」「実務に直結する」といったレビューも多く、独学に最適です。
● オンライン学習・講座で系統的に知識を整理
独学と並行して、オンライン講座やeラーニングも活用することで、知識の定着がより深まります。
- 日本漢方交流会のeラーニング:初学者向け〜臨床応用まで段階別に学習可能
- 日本病院薬剤師会(日病薬)の生涯教育講座(漢方薬コース):医療現場に即した内容が多く、症例から学ぶことができる
- 漢方薬・生薬認定薬剤師制度(公益社団法人 日本薬剤師会):学習→認定→更新というステップで知識を深める制度
特に、認定薬剤師制度は履歴書にも書ける資格の一つとなっており、キャリアの裏付けとしても活用できます。
● 実地経験を通じて理解を「自分の言葉」にする
知識を実践で活かすためには、現場での経験が不可欠です。
- 病院や在宅医療の現場で医師の処方意図に触れる
漢方薬が処方される背景や「証」に基づいた考え方を、実例で学ぶことができます。 - ドラッグストアやOTC販売現場での接客経験を活かす
お客様の訴えを聞き、適切な漢方薬を選ぶ力は、知識だけでは得られません。書籍で得た知識を実際の相談対応で試すことで、理解が深まります。
このように、漢方薬の学習は「書籍での基礎固め」「講座での体系的理解」「現場での実践経験」という三つの柱で進めるのが効果的です。特に薬剤師は、患者からの相談に応じる機会も多いため、学んだ知識をすぐに実務に活かせるメリットがあります。
漢方の知識は、キャリアの武器になる

漢方の知識は、単なる「+α」ではありません。
薬剤師としての専門性を高め、医師や患者からの信頼を得る鍵にもなります。
- 病院:術後管理・周術期ケアで大建中湯などの使用が増加
- 薬局・ドラッグストア:OTCとしての漢方販売機会が豊富
- 在宅医療:慢性症状に対するアプローチとしてニーズが増加中
特に、漢方の知識がある薬剤師は、患者のQOL向上に直接貢献できる存在として評価されつつあります。
転職・キャリアアップにもつながる

「漢方のことを患者に聞かれても、うまく答えられない」
「調剤だけでは物足りない。もっと専門性を高めたい」
そんな悩みを感じていませんか?
今、多くの医療機関では「漢方の知識がある薬剤師」を積極的に採用しています。特に、在宅や慢性疾患対応に力を入れている薬局では、漢方が日常的に処方されることもあります。
自分の興味や専門性を評価してくれる職場に出会うためには、信頼できる薬剤師専門の転職エージェントの活用が効果的です。
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