大建中湯とは?術後イレウスや過敏性腸症候群にも使われる漢方の効果を薬剤師が解説

医薬品等解説

「手術後に腸が動かなくてつらい」「下痢と便秘を繰り返している」―そんな悩みに対して、漢方薬の『大建中湯(だいけんちゅうとう)』が選ばれることがあります。漢方と聞くと難しそうに感じるかもしれませんが、近年ではエビデンスも蓄積され、消化器系の不調に対する治療薬として医療現場でも活用されています。

この記事では、大建中湯の成分や作用機序から、術後イレウスや過敏性腸症候群(IBS)、便失禁、腸粘膜バリアへの影響などについて、薬剤師の視点でわかりやすく解説します。



大建中湯とは?|腸を内側から整える漢方薬

大建中湯は、「腸が冷えて動きが悪い」「お腹が痛む」「便通が不安定」といった症状に対応する漢方薬です。冷えや虚弱が原因となる腸の機能低下に対して、腸管の血流を改善し、消化機能や蠕動(ぜんどう)運動を高める働きがあります。

主な構成生薬とその働き

  • 乾姜(かんきょう):お腹を温めて腸の動きを活発に
  • 人参(にんじん):消化吸収を助け、体力を補う
  • 山椒(さんしょう):腸の感受性を調整し、痛みや便通の乱れを整える
  • 膠飴(こうい):エネルギー補給

これらの生薬が協力し合い、虚弱状態にある腸を「温めて元気にする」ことで、本来の働きを取り戻していくのが大建中湯の基本的なコンセプトです。



大建中湯が効果を発揮する主な疾患

術後イレウスの予防と改善

手術後、とくに開腹手術後には、腸が一時的に動かなくなる「術後イレウス」が起こることがあります。腸の動きが戻らないと、吐き気や腹部膨満、排便困難が生じ、退院が遅れる原因にもなります。

大建中湯は、腸管の血流を増加させ、神経伝達やホルモン分泌を活性化することで、腸の動きを早期に回復させる作用があります。
実際、RCT(ランダム化比較試験)でも、大建中湯の服用により排ガスまでの時間が短縮されたという結果が報告されています。

参考:https://www.jstage.jst.go.jp/article/tjem/219/4/219_4_319/_pdf/-char/ja

過敏性腸症候群(IBS)

腹痛、下痢、便秘などが繰り返される過敏性腸症候群(IBS)では、腸の運動と感覚が過敏になっていることが原因とされています。特に「冷え」や「緊張」により悪化するタイプのIBSに、大建中湯は有効です。

山椒や乾姜の成分により腸の感受性が穏やかになり、痛みや便通異常が軽減されるケースが報告されています。

参考:https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2014/143061/201415044A/201415044A0002.pdf

便失禁

高齢者や神経疾患のある方では、腸の機能低下により便意のコントロールが難しくなることがあります。大建中湯は、腸の粘膜や神経系への穏やかな刺激により、排便反射を整える作用があり、軽度~中等度の便失禁に対して使用されることがあります。

参考:https://www.coloproctology.gr.jp/modules/jarcabstract/index.php?did=144

腸粘膜バリア機能の改善

近年、腸内環境や「腸漏れ(リーキーガット)」といった話題が注目されていますが、大建中湯は腸の粘膜を守る「バリア機能」の改善にも寄与するとされています。

実験研究では、大建中湯が腸上皮細胞の炎症を抑制して、腸粘膜のバリア機能を向上させたことが報告されています。

参考:https://www.riken.jp/press/2022/20220602_1/index.html



副作用と注意点|安全に使うために

漢方薬は自然由来とはいえ、体質に合わないと副作用が出ることがあります。大建中湯で注意すべき副作用には以下のようなものがあります。

  • 口の渇き・胃部不快感
     一部の患者で消化器系への刺激が強く出ることがあります。
  • 間質性肺炎
     呼吸困難や咳、発熱などの症状がみられ、治療が難しい疾患です。
  • 体力のある人には不向きな場合も
     大建中湯は「虚証(体力の弱い人)」向けの処方のため、体力が充実している人に使うと逆効果になることもあります。



大建中湯の今後と薬剤師の役割

大建中湯は今後も、術後管理や高齢者の消化器ケアにおける漢方の代表的な選択肢として活躍することが期待されています。近年では、病院のプロトコルに組み込まれるケースも増えてきました。

薬剤師としては以下のような役割が求められます。

  • 医師と連携し、術後の腸管機能回復に関する情報提供
  • 在宅現場での便通異常や虚弱への提案
  • 患者の体質評価に基づいた漢方選択のサポート

漢方への理解を深めることで、より多角的な薬学的支援が可能になります。



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