電子処方箋の普及状況と薬剤師の対応—現場の課題と今後の展望

薬剤師が解説

近年、医療のデジタル化が進む中で、電子処方箋の導入が注目を集めています。本記事では、電子処方箋の基本的な仕組みから、現在の普及状況、薬剤師が直面する課題、そして今後の対応策について解説します。医療に詳しくない方にも理解しやすい内容となっていますので、ぜひご一読ください。

1. 電子処方箋とは?

電子処方箋とは、従来の紙の処方箋を電子化し、医師が発行した処方情報をオンラインで薬局と共有するシステムです。これにより、医師と薬剤師が同じデータにアクセスでき、情報の伝達がスムーズになります。

従来の紙の処方箋では、手書きの文字が読みにくい、紛失のリスクがあるなどの問題がありましたが、電子処方箋ではこれらの課題が解消されます。

電子処方箋の主なメリットとしては、以下の点が挙げられます。

•業務効率化:医師と薬剤師間の情報共有が迅速になり、疑義照会(処方内容の確認)の手間が減少します。

•医療の質向上:過去の処方履歴や他の医療機関での投薬情報を参照できるため、重複投薬や薬剤の相互作用を防ぐことができます。

•患者の利便性向上:患者自身も自身の処方情報を確認でき、服薬管理が容易になります。


2. 電子処方箋の普及状況

日本における電子処方箋の正式運用は2023年1月から開始されました。

しかし、2024年5月19日時点での導入状況を見ると、医療機関全体での導入率はまだ低い状況です。具体的には、病院で1.5%、医科診療所で2.1%、歯科診療所で0.1%の導入率となっています。一方、薬局での導入率は31.7%と比較的高く、全体の約9割を占めています。 

地域別の普及状況を見ると、都市部では導入が進んでいる一方、地方ではまだ導入が遅れている傾向があります。これは、医療機関や薬局の規模、インフラの整備状況、地域の医療ニーズなどが影響していると考えられます。

3. 薬剤師が現場で直面している問題

電子処方箋の導入に伴い、薬剤師は以下のような課題に直面しています。

•システム導入・運用コストの負担:電子処方箋システムの導入には初期費用や維持費がかかります。特に中小規模の薬局にとっては経済的な負担が大きいと感じられることがあります。

•医療機関・薬局間の連携の難しさ:電子処方箋を効果的に活用するためには、医療機関と薬局の間でシステムが連携している必要があります。しかし、システム間の互換性や情報共有のルール作りなど、解決すべき課題が多く存在します。

•電子処方箋の操作やトラブル対応への不安:新しいシステムの操作に慣れるまでには時間がかかります。また、システムトラブルが発生した際の対応方法やサポート体制に不安を感じる薬剤師も少なくありません。

•高齢者・デジタル苦手層への対応:患者の中にはデジタル機器の操作に不慣れな方も多く、電子処方箋の利用方法を丁寧に説明する必要があります。特に高齢者へのサポート体制の充実が求められます。


4. 薬剤師はどう向き合うべきか?

これらの課題に対して、薬剤師は以下の対応策を検討することが重要です。

•研修や勉強会への参加:電子処方箋の操作方法やトラブルシューティングの知識を習得するため、積極的に研修や勉強会に参加しましょう。これにより、システムへの理解が深まり、現場での不安が軽減されます。

•事前のトラブルシューティング対策:システムトラブルが発生した際の対応手順を事前に策定し、スタッフ全員で共有しておくことで、迅速な対応が可能になります。

•患者への説明・サポート体制の強化:電子処方箋の利用方法やメリットを患者に分かりやすく説明し、特に高齢者やデジタル機器に不慣れな方へのサポートを充実させることが重要です。

•他の医療機関・薬局との連携強化:電子処方箋の効果を最大限に活かすには、医療機関と薬局の間でスムーズな情報共有が必要です。地域の医師会や薬剤師会と連携し、システムの統一や運用ルールの整備を進めることで、より円滑な対応が可能になります。


5. 電子処方箋の今後と薬剤師の役割

電子処方箋の普及が進むことで、薬剤師の業務にもさまざまな変化が予想されます。

(1)さらなるデジタル化の進展

電子処方箋の導入は、医療のデジタル化の一環として進められています。今後は、電子カルテやPHR(パーソナル・ヘルス・レコード)との連携が強化されることで、患者の健康情報を包括的に管理できるようになるでしょう。これにより、薬剤師は単に処方箋を受け取るだけでなく、患者の健康状態を考慮した服薬指導がより重要になってきます。

(2)オンライン服薬指導の拡大

電子処方箋の導入と並行して、オンライン服薬指導の活用も広がっています。これにより、患者は薬局に足を運ばずに服薬指導を受けることができるようになり、特に高齢者や遠隔地に住む患者にとって利便性が向上します。薬剤師は、対面での指導とオンライン指導の両方に対応できるスキルを身につけることが求められます。

(3)薬剤師の役割の変化

電子処方箋の普及により、単なる調剤業務の効率化だけでなく、薬剤師の役割そのものが変化していくと考えられます。例えば、以下のような分野での活躍が期待されます。

•服薬フォローアップの強化:電子処方箋を活用し、患者の服薬状況を継続的にモニタリング。

•医師との連携強化:処方の適正化や、ポリファーマシー(多剤併用)の防止に貢献。

•患者教育の推進:デジタルツールを活用し、患者の自己管理能力を向上させるサポートを実施。

6. 電子処方箋を活かすために

電子処方箋の普及が進むことで、薬剤師の業務は大きく変化しています。導入に際しては、システムの操作やトラブル対応に不安を感じる場面もありますが、適切な研修や対策を行うことで、スムーズに適応することができます。

電子処方箋は、患者にとって利便性の向上や安全な薬物療法の実現につながる重要な取り組みです。薬剤師としては、デジタル化の波を前向きに捉え、新たな技術を積極的に活用する姿勢が求められます。

今後の医療の変化に対応するために、情報収集を継続し、スキルアップを図りながら、患者に寄り添った薬剤師としての役割を果たしていきましょう。


参考文献

1. 厚生労働省「電子処方箋の導入について」

電子処方箋

2. 日本医師会総合政策研究機構「電子処方箋の現状と課題」

電子処方箋導入の現状と課題 | 日本医師会総合政策研究機構

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