在宅訪問を始めたばかりの頃は、
「服薬状況は確認したけれど、報告書に何を書けばよいのだろう」
「毎回、残薬と副作用の有無だけで終わってしまう」
「患者さんの生活状況を、薬学的な評価につなげられない」
と悩むことがあります。
私も先輩薬剤師から、在宅医療では服薬状況だけでなく、食事・睡眠・運動・排泄・認知機能などを確認することが大切だと教えてもらいました。さらに、血圧や脈拍などのバイタルサインも確認できれば、薬の効果や副作用を評価する手がかりになります。
ただし、確認項目を増やすだけでは、読みやすい報告書にはなりません。
大切なのは、患者さんから聞いたことや観察したことを、薬物治療と結びつけて整理することです。
この記事では、在宅訪問時に薬剤師が確認したい10項目と、報告書へまとめるときの考え方を紹介します。
在宅訪問の報告書は「薬を渡した記録」ではない
在宅訪問の報告書は、実施した服薬指導を記録するだけの書類ではありません。
患者さんの生活状況や身体状態の変化を確認し、薬が安全かつ適切に使用できているかを評価して、医師やケアマネジャーなどの多職種へ共有するためのものです。
厚生労働省の資料でも、在宅訪問では患者さんの生活背景を把握したうえで、残薬管理や薬学的管理を行い、必要に応じて医師へ処方提案することが薬剤師の役割として示されています。
報告書を作成するときは、次の3段階で考えると整理しやすくなります。
- 事実:患者さんに何が起きているか
- 薬学的評価:薬効や副作用、服薬状況とどのような関係が考えられるか
- 対応・提案:何を行い、何を多職種へ伝えるか
たとえば、「食欲がありません」とだけ書いても、その重要性は十分に伝わりません。
「3日前から食事量が半分程度に低下している。水分摂取量も減少しており、利尿薬服用中のため脱水に注意が必要。家族へ水分摂取状況の記録を依頼し、状態について主治医へ報告した」
と整理すると、事実・評価・対応が分かる報告書になります。
在宅訪問で薬剤師が確認したい10項目
1.食事・水分
食事や水分摂取量の変化は、薬の効果と安全性に大きく影響します。
確認したい項目は次のとおりです。
- 食欲と食事量
- 1日の水分摂取量
- 悪心や嘔吐の有無
- 食事中のむせ
- 体重の変化
- 食事と服薬の時間
- 食事を取れないときの服薬状況
食事量が減っている患者さんでは、糖尿病治療薬による低血糖に注意が必要です。水分摂取量が減っている場合は、利尿薬やアンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬、非ステロイド性抗炎症薬などを使用していないかも確認します。
発熱、下痢、嘔吐、食事摂取不良があるときは、脱水や腎機能悪化のリスクも踏まえ、シックデイへの対応が必要か検討します。
【報告書の記載例】
食欲は前回より低下し、3日前から食事摂取量は通常の5割程度。水分摂取量も1日500mL程度まで減少しているとのこと。口腔内乾燥を認め、利尿薬服用中のため脱水に注意が必要と考える。家族へ水分摂取状況の確認を依頼し、主治医へ情報共有した。

2.睡眠
「眠れていますか?」だけでは、睡眠状態を十分に把握できません。
入眠できないのか、途中で目が覚めるのか、早朝に起きてしまうのかを分けて確認します。
- 寝つき
- 中途覚醒や早朝覚醒
- 夜間頻尿
- 昼夜逆転
- 日中の眠気
- 起床時や夜間のふらつき
- 睡眠薬の自己調節
- 疼痛や呼吸苦による覚醒
睡眠薬を服用している場合は、翌朝への眠気の持ち越しや、夜間の転倒リスクを評価します。夜間頻尿で眠れない場合は、利尿薬の服用時刻が適切かどうかも確認したいポイントです。
【報告書の記載例】
入眠は良好だが、排尿のため毎晩2~3回起きている。夜間の移動時にふらつきがあり、壁につかまって歩くことがあるとのこと。睡眠薬による鎮静と夜間頻尿が転倒リスクを高めている可能性があるため、転倒予防について説明し、処方医へ共有した。

3.運動・日常生活動作
歩行や日常生活動作の変化は、副作用や病状悪化に気づく重要な手がかりです。
- 歩行状態
- 立ち上がり
- ふらつきや転倒
- 移動に必要な介助
- 食事、着替え、入浴、排泄の自立度
- 日中の活動量
- 外出頻度
- 前回訪問時からの変化
筋力低下やふらつきがある場合は、降圧薬による血圧低下、睡眠薬や抗不安薬による鎮静、抗精神病薬による錐体外路症状なども検討します。
「歩ける・歩けない」だけではなく、「どの動作が、いつから難しくなったか」を確認することが大切です。
4.排泄
便秘や下痢、排尿状態の変化には、疾患だけでなく薬が関係していることがあります。
排便については、次の項目を確認します。
- 排便回数
- 便の硬さや性状
- 最終排便日
- 腹痛や腹部膨満
- 下剤の使用状況
- 下剤の自己調節
- 便失禁の有無
排尿については、次の項目を確認します。
- 排尿回数
- 尿量の変化
- 夜間頻尿
- 排尿困難
- 残尿感
- 尿失禁
- 尿の色やにおい
便秘がある場合は、オピオイド、抗コリン作用をもつ薬、鉄剤、カルシウム製剤などの影響を確認します。一方で、下剤の過量使用による下痢や脱水にも注意が必要です。
【報告書の記載例】
最終排便は4日前。便意はあるが硬く、排便困難とのこと。酸化マグネシウムは自己判断で服用しない日がある。腹痛や嘔吐は認めない。継続服用の必要性を説明し、排便状況を確認しながら次回訪問時に再評価する。
5.認知機能・精神状態
在宅では、会話の様子や服薬手順の変化から、認知機能の低下に気づく場合があります。
- 会話が成立するか
- 日付や場所を理解しているか
- 服薬手順を理解できるか
- 同じ質問を繰り返していないか
- 急な混乱や傾眠がないか
- 幻覚や妄想の有無
- 抑うつや不安
- 家族が感じている変化
急に会話がかみ合わなくなった場合は、認知症の進行だけで判断せず、せん妄、感染、脱水、低血糖、薬物の蓄積なども考える必要があります。
睡眠薬、抗不安薬、オピオイド、抗ヒスタミン薬、抗コリン作用をもつ薬などが、眠気や認知機能へ影響していないかも確認します。
6.バイタルサイン
訪問時に測定できる場合は、血圧、脈拍、体温、酸素飽和度などを確認します。
- 血圧
- 脈拍数とリズム
- 体温
- 酸素飽和度
- 呼吸数
- 体重
バイタルサインは、1回の数値だけで判断するのではなく、前回値や普段の値、自覚症状と比較することが重要です。
たとえば血圧が低めでも、普段と変わらず症状がなければ、直ちに異常とは限りません。一方、普段より大きく低下し、ふらつきや食事摂取不良を伴っている場合は、降圧薬や利尿薬の影響、脱水などを検討します。
薬剤師がバイタルサインを確認する目的は、診断することではありません。薬物治療の効果や副作用を評価し、必要な情報を医師や看護師へつなぐことです。
【報告書の記載例】
血圧98/56mmHg、脈拍72回/分。前回は126/68mmHgであり、今回は立ち上がり時のふらつきも認めた。食事・水分摂取量が低下しており、降圧薬および利尿薬服用中のため、血圧低下と脱水の可能性を考え主治医へ報告した。
7.痛み
痛みは患者さんの睡眠、食事、活動量に影響します。
- 痛む場所
- 痛みの強さ
- 痛みの性質
- 痛みが強くなる時間帯
- 鎮痛薬の使用回数
- 鎮痛薬使用後の変化
- レスキュー薬の使用状況
- 眠気、悪心、便秘などの副作用
「痛みあり」だけではなく、鎮痛薬を使用する前後でどの程度変化したかを確認すると、薬効を評価しやすくなります。
がん疼痛などでレスキュー薬を使用している場合は、使用回数だけでなく、使用後に痛みが軽減したか、生活動作が改善したかまで確認します。
8.口腔・嚥下状態
口腔内の状態や嚥下機能は、服薬継続に直結します。
- 口腔内の乾燥
- 口内炎
- 義歯の状態
- 錠剤やカプセルの飲みにくさ
- 水や食事でのむせ
- 薬が口腔内に残っていないか
- 粉薬の付着
- 服薬後の咳
薬が飲みにくくなっている場合は、単純に粉砕するのではなく、剤形変更、一包化、服薬補助ゼリーの使用などを検討します。
嚥下状態が急に悪化している場合は、誤嚥の危険もあるため、医師、看護師、言語聴覚士などへの共有が必要です。
9.皮膚・浮腫
皮膚やむくみの変化も、薬効や副作用を評価する手がかりになります。
- 下肢や顔の浮腫
- 皮疹や発赤
- かゆみ
- 傷や褥瘡
- 皮膚の乾燥
- 貼付剤の貼付部位
- 外用薬の使用状況
- 体重増加
下肢浮腫がある場合は、心不全や腎機能だけでなく、カルシウム拮抗薬などの影響も検討します。
心不全患者では、浮腫、息切れ、体重増加が同時にみられていないか確認します。前回からの体重変化が分かると、より具体的な報告につながります。

10.服薬管理
最後に、薬剤師の中心的な確認事項である服薬管理を評価します。
- 飲み忘れや飲み間違い
- 残薬数
- 自己中止や自己調節
- 重複服用
- 市販薬や健康食品の使用
- 薬の保管方法
- 一包化の日付と実際の服用状況
- 誰が薬を管理しているか
- 服薬支援方法が本人に合っているか
- 介護者の負担
残薬がある場合は、「残薬あり」で終わらせず、なぜ残ったのかを確認します。
飲み忘れ、食事回数の減少、服用後の不調、認知機能低下、薬を取り出しにくいなど、原因によって必要な対応は異なります。
一包化や服薬カレンダーを導入しても、本人の生活動線に合っていなければ服薬状況は改善しません。実際に薬がどこに置かれ、誰がどのタイミングで準備しているかまで確認することが大切です。

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報告書は「事実→薬学的評価→対応・提案」で書く
報告書が単なる経過記録になってしまう場合は、文章を次の3つに分けて考えてみましょう。
事実
患者さんや家族から聞き取った内容、測定値、観察できた状態を記載します。
- 食事量が通常の半分に減少
- 残薬が7日分ある
- 血圧が前回より低下
- 夜間に2回転倒
- 下腿浮腫が前回より増加
「元気がない」「調子が悪そう」などの曖昧な表現だけで終わらせず、可能な範囲で数値、回数、期間、前回との差を記録します。
薬学的評価
確認した事実と、薬効、副作用、相互作用、服薬状況との関係を考えます。
- 食事量低下による低血糖リスク
- 脱水による腎機能悪化の可能性
- 睡眠薬の持ち越しによる転倒リスク
- 抗コリン作用による便秘や排尿困難
- 認知機能低下による重複服用
- 服用回数の多さによる服薬負担
ここが薬剤師の専門性を示す部分です。ただし、原因を断定できない場合は「可能性が考えられる」「影響している可能性がある」と記載します。
対応・提案
薬剤師が当日行った対応と、多職種へ相談・提案した内容を記載します。
- 服薬方法を再説明した
- 服薬カレンダーへ変更した
- 家族へ観察を依頼した
- 医師へ処方変更を提案した
- 看護師へバイタルの継続確認を依頼した
- 次回訪問時に再評価する
報告を受けた相手が「次に何をすればよいか」まで分かる文章を意識すると、報告書の価値が高まります。
在宅訪問報告書の記載例
記載例1:食事量低下と服薬継続
3日前から食欲が低下し、食事摂取量は通常の5割程度。水分摂取量も減少しているが、糖尿病治療薬を含む内服薬は通常どおり服用していた。現時点で冷汗や振戦などの低血糖を疑う症状は認めない。食事摂取不良時の服薬について自己判断せず連絡するよう説明し、主治医へ食事量低下と服薬状況を報告した。
記載例2:睡眠薬と転倒リスク
睡眠薬服用後も中途覚醒があり、夜間に2~3回トイレへ移動している。起床時にふらつきがあり、1週間前に室内で転倒したとのこと。翌朝まで眠気が残る日もある。睡眠薬による鎮静と夜間頻尿が転倒に影響している可能性を考え、服用状況と転倒歴を主治医およびケアマネジャーへ共有した。
記載例3:残薬が増えている患者
朝食後薬が7日分、夕食後薬が2日分残っていた。本人は飲み忘れを否定したが、一包化薬の日付が前後しており、服薬手順の理解が不十分な様子であった。認知機能の変化による服薬間違いが疑われるため、家族管理へ変更し、服薬カレンダーの使用を提案した。次回訪問時に残薬数と管理方法を再評価する。
毎回すべてを詳しく聞く必要はない
10項目すべてを毎回詳しく聞こうとすると、患者さんの負担が大きくなり、訪問時間も長くなります。
まずは全体を短く確認し、前回から変化があった項目や、服用薬と関連が深い項目を掘り下げる方法が現実的です。
たとえば利尿薬を使用している患者さんなら、血圧、体重、水分摂取量、排尿、浮腫、ふらつきを重点的に確認します。
睡眠薬を使用している患者さんなら、睡眠状態だけでなく、日中の眠気、夜間の歩行、転倒、服用時刻まで確認します。
確認項目を疾患や服用薬と結びつけることで、訪問が単なる聞き取りから薬学的な評価へ変わります。
まとめ|生活の変化を薬の評価につなげよう
在宅訪問の報告書では、服薬状況や残薬だけでなく、次の10項目を確認すると患者さんの状態を捉えやすくなります。
- 食事・水分
- 睡眠
- 運動・日常生活動作
- 排泄
- 認知機能・精神状態
- バイタルサイン
- 痛み
- 口腔・嚥下状態
- 皮膚・浮腫
- 服薬管理
重要なのは、すべての項目を埋めることではありません。
患者さんの生活にどのような変化があり、その変化に薬が関係していないかを考えることが大切です。
報告書は「事実→薬学的評価→対応・提案」の順に整理します。さらに、前回からの変化、緊急性、多職種へ共有したい内容、次回の確認事項まで記載できると、より実践的な報告書になります。
患者さんの「食べられない」「眠れない」「歩きにくい」といった生活上の変化は、薬の効果や副作用に気づく入り口です。
生活を見ることも、在宅医療における薬剤師の大切な仕事だといえるでしょう。
参考文献
厚生労働省「薬局のかかりつけ機能の強化事業」
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/170203_04.pdf
厚生労働省「在宅医療・介護推進プロジェクト」
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001t7j0-att/2r9852000001t7s9.pdf
日本病院薬剤師会「病院薬剤部門の現状調査」
https://www.jshp.or.jp/content/2018/0531-2-1.pdf


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