――子どもたちの健康を「環境」から守る薬剤師の仕事とは?――
はじめに

「学校薬剤師」という言葉を耳にしたことはありますか?
あまり知られていませんが、子どもたちが安心して学ぶための“教室環境の安全”を支えている、重要な専門職です。
教室の空気はきれいか、水道水やプールの水質に問題はないか。
そうした環境をチェックし、必要に応じて改善を助言するのが、学校薬剤師の主な仕事です。
近年では感染症対策や熱中症、薬物乱用防止教育の重要性が増し、学校薬剤師の役割がさらに注目されるようになっています。
この記事では、学校薬剤師の仕事内容から必要な資格、やりがいまで解説していきます。
学校薬剤師とは?

学校薬剤師は、「学校保健安全法」という法律に基づき、幼稚園から高校までの学校に配置される薬剤師のことです。
目的は、子どもたちが健康に学べるよう、学校環境の安全を守ること。
大学や専修学校は対象外ですが、それ以外の学校には、1名以上の薬剤師を配置することが義務づけられています。
学校薬剤師は、学校に常駐するのではなく、定期的に訪問して測定や点検、助言を行う非常勤の専門職です。
制度の歴史と背景
学校薬剤師の制度は古くから存在していますが、2009年に「学校環境衛生基準」が制定されて以降、より明確な業務内容と評価基準が整備されました。
さらに、2024年の改正では、ICT機器の導入が認められ、CO₂モニターやデジタル測定器を活用した検査も可能となりました。
こうした改正により、業務の効率化や質の向上が期待されています。
学校薬剤師の仕事内容

学校薬剤師の仕事は、主に次の6つの分野に分かれます。
分野 | 内容 |
---|---|
教室環境の測定 | 空気の二酸化炭素(CO₂)濃度、粉じん(ほこり)、照度(明るさ)、騒音などを測定。子どもが快適に過ごせる環境かをチェックします。 |
水の安全確認 | 飲料水(水道水)やプールの水質検査を行い、細菌や塩素濃度などを測定。安全であるかを判断します。 |
化学薬品の管理 | 理科室や保健室で使用される薬品や毒劇物の管理状況を確認。保管方法や使用期限などもチェックします。 |
学校保健・安全計画への参加 | 学校が年間で実施する健康や安全に関する計画に、薬剤師の立場から意見を出すことがあります。 |
薬物乱用防止教育 | 中学生や高校生に対して、薬物乱用の危険性やくすりの正しい使い方について指導・講義を行う場合があります。 |
健康に関する助言 | 熱中症対策やサプリメントの誤用についての相談に応じたり、保健室や教職員へのアドバイスを行うこともあります。 |
年間の流れの例
学校薬剤師は、季節や学校行事に応じて、測定や点検の内容が変わります。
例えば、次のようなスケジュールが一般的です。
- 4月:飲料水の水質検査、教室の照度(明るさ)の確認
- 6月:プールの水質検査(一般細菌、大腸菌群、塩素濃度など)
- 9月:揮発性有機化合物(ホルムアルデヒドなど)やCO₂の測定
- 1月:冬季の粉じん量、教室の気流、暖房時の換気状況などを確認
検査の結果をもとに、必要に応じて校長や教職員、養護教諭に改善提案を行います。
最近の実務例と対応の広がり

学校薬剤師の業務は、年々変化しています。以下のような対応事例が全国で見られるようになっています。
- 換気対策の強化:新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、CO₂モニターを活用した換気状況の可視化が求められ、学校薬剤師がモニター設置や数値の基準について助言する機会が増えました。
- 熱中症対策の啓発:気温の上昇により、熱中症リスクが高まっており、経口補水液の適切な使い方や水分補給のタイミングなどを、薬剤師が学校だよりなどで発信する例が増えています。
- アンチドーピングやサプリの適正使用指導:部活動やスポーツ活動の盛んな学校では、サプリメントの誤用や禁止薬物に関する基礎知識を生徒に伝える啓発授業が行われるようになり、学校薬剤師が講師として関わる例もあります。
このように、学校薬剤師の仕事は「環境測定」だけにとどまらず、教育現場での健康リスク管理や情報発信にも広がりを見せているのです。
学校薬剤師になるには

学校薬剤師になるには、まず薬剤師免許を持っている必要があります。
その上で、多くの自治体では地域の薬剤師会を通じて候補者を推薦し、教育委員会が学校薬剤師として委嘱します。
募集は公募ではなく、薬剤師会内で調整されることが一般的です。
報酬は地域によって異なりますが、年間10〜20万円前後が目安とされています。
非常勤であり、測定の機会も年に数回程度であることが多いため他の勤務と兼任することがほとんどです。しかし、薬事関係の副業が法律で禁止されている管理薬剤師でも従事できので、管理薬剤師にもおすすめできる副業です。
やりがいと課題

学校薬剤師は、子どもの健康と安全な学習環境を支える重要な存在です。
教職員や養護教諭、学校医との連携を通じて、チームで子どもたちの成長を支えるやりがいがあります。
一方で、測定機器や試薬を自己負担する場合があることや、ICT機器の操作スキルが求められる場面も増えてきており、日々の知識や技術のアップデートが欠かせません。
また、報酬や拘束時間のバランスについても、地域によって差があるのが現状です。
将来のキャリアにつなげるには

学校薬剤師としての経験は、子どもの健康教育や公衆衛生活動、環境衛生の知識といった、多様なスキルを身につける貴重な機会になります。
このような経験は、産業保健師の補佐や保健所・自治体関連の薬剤師職、健康教育に力を入れる企業への転職など、幅広いキャリアに活かすことができます。
薬剤師として新しい分野に挑戦したい方は、転職エージェントに相談することで、自分の経験やスキルを活かせる職場を見つけやすくなります。
特に、学校薬剤師や公衆衛生に関する実績を評価する職場は、一般の求人サイトには出ていない“非公開求人”として扱われていることもあります。
まずは、無料でキャリア相談を受けて、自分の適性や志向に合った職場を探してみることをおすすめします。
参考URL
埼玉県薬剤師会「学校薬剤師とは」

日本薬剤師会「学校薬剤師とは」
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