はじめに:薬の「安全見守り」って何?

薬は発売されるまでに、厳しい試験を経て安全性が確認されます。しかし、発売後に「まれな副作用」や「特定の人だけに起こる影響」が見つかることがあります。
こうした予期しない問題を早く見つけるために、医薬品安全性監視(ファーマコビジランス)という取り組みがあります。
医薬品安全性監視とは、薬を使っている人の体調変化や副作用の報告を集めて、新たな危険の兆しを見逃さないようにする仕組みのことです。
従来は、人が1件ずつ報告を読んで調べていましたが、最近ではAI(人工知能)の活用が進んでいます。
AIが副作用の「サイン」を早く見つける時代へ

これまでは、病院や薬局から送られてくる副作用の報告を、専門家が1つずつ確認していました。ですが、報告の数が多く、時間も人手もかかります。
そこで注目されているのがAIを使ったシグナル検知(=副作用の兆候探し)です。
AIを使うと、以下のようなメリットがあります。
- 多くの報告を一度にチェックできる
- いつもと違う症状の増え方などを自動で見つけられる
- 自由に書かれた「患者さんの声」からも副作用の可能性を抽出できる
このように、AIを使うことで、副作用に早く気づき、被害が広がる前に対策をとることができるようになるのです。
AIが活用するさまざまな情報

AIは人の目だけでは追いきれない、さまざまな情報を組み合わせて分析できます。
情報の種類 | 例 | どんな風に役立つ? |
副作用の報告 | 医師・薬剤師が提出した内容 | 副作用の出方や増え方を統計的に確認 |
電子カルテ | 検査値・体重・処方薬など | 症状や副作用の前後関係を自動で整理 |
スマートウォッチのデータ | 心拍数・活動量・睡眠 | 薬を使ったあとに起きた体調変化を把握 |
SNSの投稿 | 「○○を飲んで気分が悪くなった」など | 一般の人の声から異変の兆しを発見 |
たとえば、「○○という薬を使った人の心拍数が明らかに上がっている」など、人では見落としがちな変化もAIなら気づけます。
実際に起きた身近な事例

① 糖尿病薬での副作用検出
SGLT-2阻害薬では、感染症や検査値の異常、生殖器系の副作用が多く報告されており、薬剤によっては膀胱がんや脳卒中などのリスクも議論されています
AIを使った研究では、電子カルテなど構造化された医療データを解析し、副作用の異常な増え方を早期に抽出できることが示されています。
参考文献:A study on the pharmacovigilance of various SGLT-2 inhibitors
② SNS投稿から薬の副作用を発見
医療SNS投稿をAIで解析した研究では、薬を使ったあとに「○○を飲んだら具合が悪くなった」などの声が既知の副作用と一致するだけでなく、新たな兆しも拾えることが報告されています。
具体的には、SNSから得たデータをAIで処理した結果、従来の安全データベースと同等の感度で副作用を抽出できたという成果があります。
AIを使うメリットと気をつけること

良い点
- 副作用の発見が早くなる
- 人の作業量が減って負担が軽くなる
- データをもとにした客観的な判断ができる
注意点
- AIの判断も必ず正しいとは限らない(データの偏りが原因になることも)
- なぜその結論になったのかを人が説明できるようにしておく必要がある
- 個人情報の扱いには法律やルールに基づいた慎重な対応が必要
薬剤師や安全担当者ができる3つのこと

- 用語や基本知識を知っておく
たとえば「副作用シグナル=何かおかしいかもしれない兆し」といった用語の意味を理解しましょう。 - 小さなデータでも可視化してみる
Excelや無料のグラフツールを使って、副作用の件数を月別に出すだけでも、“気づき”が生まれます。 - AIに詳しい人と連携してみる
専門家やシステム会社に相談して、現場で使えるかどうかを試してみるのも第一歩です。
今後の展望|AIが文章も書く時代に

AIは将来的に、副作用報告の「下書き」を自動で作ることができるようになります。
たとえば、ある症例の報告から「○○という薬を使ったところ、△△のような体調変化があった」といった文章を自動で生成してくれるのです。
また、AIが画像や音声のデータまで解析する研究も進んでいて、今後は「患者の声」や「検査画像」も副作用の兆候を見つける手がかりになります。
このように、AIと人が一緒に働いて、薬の安全を守る時代が始まっています。
まとめ|AIは、薬の安全を守る“新しいパートナー”

AIは、膨大な副作用情報や体調の変化データを分析して、人だけでは気づけない危険のサインを見つけてくれます。
薬の安全を見守るうえで、AIはすでに「頼れる相棒」として働き始めているのです。
まずは、「AIでどんなことができるのか?」を知ることから始めてみてください。
知識がなくても大丈夫。基本を押さえ、小さな体験を重ねることで、誰でもAIを使いこなす準備ができます。
参考文献:Artificial intelligence in pharmacovigilance – Opportunities and challenges
転職やキャリアにも活かせます
「AIやデータを扱う薬剤師の仕事に興味が出てきた」という方は、AI・データ関連の仕事に強い転職エージェントに相談してみましょう。
今後、AIの知識を持つ薬剤師は医療現場でも企業でも需要が高まると考えられています。
コメント