在庫と人手不足に備える実践ガイド
はじめに ― 「2025年問題」と薬局の関係って?

2025年、日本の「団塊の世代」すべての人が75歳以上となり、高齢者人口は約2,200万人(国民の約4人に1人)になると予測されています。
高齢になると、血圧、糖尿病、骨粗しょう症などの慢性的な病気を持つ人が増え、毎月のように処方箋が発行されるようになります。つまり、薬局を利用する患者の数が急増するのです。
この変化によって、薬局では次のような問題が起こると考えられています。
- 薬の在庫が追いつかない(欠品)
- 薬剤師が足りず、対応が回らない
本記事では、こうした課題がなぜ起きるのかをわかりやすく解説し、今からでも始められる具体的な対策をご紹介します。
1. なぜ薬が足りなくなるのか?在庫トラブルの背景

【1】製薬会社から薬が届かないことが増えている
最近、全国の薬局で「薬が入ってこない」という声が多く聞かれます。
これは、製薬会社の工場トラブルや原材料の不足が影響しており、厚生労働省は2024年から、各製薬会社に「どの薬が不足しているか」を毎日報告させる制度を始めました。
これにより、欠品情報は早く届くようになりましたが、供給そのものが安定するわけではありません。
【2】処方日数が長くなり、必要な薬の量が増える
高齢者は、長期間の処方(たとえば30日分、90日分など)を受けることが多いため、1人の患者さんに渡す薬の量が多くなります。
その結果、一部の薬の在庫が一気になくなることがあります。
【3】ジェネリック医薬品が増えて、棚がいっぱいに
同じ効き目の薬でも、ジェネリック医薬品には複数のメーカーがあります。
そのため、1つの成分に対して複数の銘柄が薬局の棚に並びやすくなり、管理すべき薬の種類が増える→在庫が回らないという事態が起きています。
2. なぜ人が足りなくなるのか?薬剤師の業務が増えている理由

【1】仕事の量は増えているのに、人の数はあまり増えない
厚生労働省によると、薬局で働く薬剤師の人数は今後もほぼ横ばいと見込まれています。
一方、患者数と処方箋枚数は2035年まで増え続けるとされています。つまり、一人の薬剤師が担当する仕事がどんどん増えているのが現状です。
【2】都会に薬剤師が集中、地方では人手が集まりにくい
特に地方や郊外の薬局では、「求人を出しても応募がない」という話も珍しくありません。
都市部の便利な場所に薬剤師が集まりやすいため、地方では慢性的な人手不足に陥っています。
【3】業務の種類が増えすぎて時間が足りない
最近では、従来の「調剤業務」に加えて、
- 在宅訪問(患者の自宅へ行く服薬指導)
- オンライン服薬指導(ビデオ通話などで対応)
- リフィル処方の対応(同じ処方で数回まで薬を出す)
などが導入され、薬剤師の役割が広がっています。
しかし、すべての業務を限られた時間と人数でこなすのは現実的ではなく、業務負担が限界に達している薬局も少なくありません。
3. 具体的にどうすればいいの?薬局ができる5つの対策

対策 | 内容 | どんな効果がある? |
① AIによる需要予測と自動発注 | 過去の売上データや天候、曜日などから、必要な薬の量をAIが予測して自動で発注する仕組み。 | 欠品を減らし、発注ミスを防げる。発注作業の時間も大幅に削減できる。 |
② ピッキングロボットやカートの導入 | 機械が薬の取り揃えを自動で行う。夜間も稼働可能。 | 作業の正確性が上がり、人手をかけずに大量の処方に対応できる。 |
③ オンライン服薬指導の活用 | 患者が来局せずに、スマホなどを使って薬の説明を受けられる仕組み。 | 薬局内の混雑が緩和され、対応件数が増えても負担が少ない。 |
④ 補助スタッフによるサポート | 調剤補助員や薬歴入力支援員を配置し、薬剤師は「確認と説明」に集中。 | 服薬指導の質を保ちつつ、業務の分担が可能になる。 |
⑤ 地域の医療・介護との連携 | 医師や訪問看護師と情報を共有し、在宅訪問の予定などを調整。 | 無駄な移動や時間のロスが減り、チームで効率よく対応できる。 |
4. これから差が出るのは「準備の有無」

2025年以降、処方が増えてくるのはほぼ確実です。
それに備えて対策をしている薬局と、何も準備していない薬局では、業務の回り方、スタッフの疲労度、患者さんの満足度に大きな差が出ます。
- 在庫管理の改善で、欠品や返品のリスクが減る
- タスクの分担と業務効率化で、残業時間が月45時間→15時間に減った店舗も
- 対応の質が上がり、かかりつけ患者の定着につながった例もある
患者の数が増えても、慌てず対応できる体制があることで、薬局の評価も変わってきます。
5. 今の働き方に不安を感じている方へ

もしあなたが、
- 「いつも残業ばかりで疲れている」
- 「患者さんともっとしっかり向き合いたいのに時間がない」
- 「人手不足でミスが心配」
――といった不安を感じているなら、今の薬局の体制があなたに合っていない可能性もあります。
最近では、最新の在庫システムや柔軟な働き方を導入している薬局も増えており、
- 残業時間を抑えながら、専門性を活かせる
- 子育てや介護と両立しながら働ける
- 在宅や地域連携に強みを持つ薬局でスキルを磨ける
といった選択肢も広がっています。
たとえば転職エージェントでは、「残業少なめ」「在宅対応あり」「年収600万以上」など細かな条件で検索でき、全国の非公開求人も多数紹介しています。
「もっと自分らしく働ける薬局で、長く続けたい」と思ったときが、新しい環境を探すベストタイミングかもしれません。
おわりに

2025年問題は、薬局にとって「負担が増える年」ではなく、成長のチャンスでもあります。
今から少しずつ備えていけば、患者さんに信頼され、スタッフも安心して働ける薬局をつくることができます。
明日の薬局づくりは、今日の小さな一歩から。
あなたの薬局でも、できることから始めてみませんか?
参考リンク
- 厚生労働省「我が国の人口について」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21481.html
- 厚生労働省「医療用医薬品供給状況報告」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/kouhatu-iyaku/04_00003.html
- 日立システムズ × 中部薬品「需要予測型自動発注システム導入事例」(2024.5.15 ニュースリリース)
- 厚生労働省資料「薬剤師の需給推計(案)」(2021) https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000772130.pdf
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