1. はじめに

がん治療において、抗がん剤はがん細胞を攻撃する有効な手段ですが、同時に正常な細胞にもダメージを与えるため、さまざまな副作用が生じます。これらの副作用は、患者の身体的・精神的な負担となり、治療の継続を困難にすることがあります。そのため、副作用を適切に管理し、患者のQOL(生活の質)を向上させることが極めて重要です。
このような副作用の軽減や緩和を目的とした治療やケアを「支持療法(サポーティブケア)」と呼びます。薬剤師は、支持療法の実践を通じて、患者の副作用を最小限に抑え、治療をスムーズに継続できるよう支援する役割を担っています。しかし、実際の現場では「どのように副作用を管理すればよいのか?」「患者にどのように説明すれば納得してもらえるのか?」といった悩みが多いのも事実です。
本記事では、薬剤師が押さえておくべき抗がん剤の主な副作用と、それに対する具体的な支持療法の方法を詳しく解説します。また、患者や家族への適切な説明のポイント、医療チームとの連携の重要性についても触れ、薬剤師が実践しやすい形でのサポート方法を紹介します。
2. 抗がん剤の主な副作用と支持療法のポイント

2-1. 悪心・嘔吐の管理(CINV:化学療法誘発性悪心・嘔吐)
悪心・嘔吐が起こるメカニズム
抗がん剤が投与されると、腸内の腸クロム親和性細胞が刺激され、セロトニンが放出されます。このセロトニンが迷走神経を介して脳の嘔吐中枢を刺激し、悪心・嘔吐が引き起こされます。また、一部の抗がん剤は脳内のドーパミン受容体にも作用し、さらに吐き気を増強させます。
支持療法
- 5-HT3受容体拮抗薬(グラニセトロン、オンダンセトロンなど)
→ 嘔吐を引き起こすセロトニンの作用をブロックし、吐き気を軽減する。 - NK1受容体拮抗薬(アプレピタント、フォサプレピタント)
→ 遅発性の嘔吐に効果があり、5-HT3受容体拮抗薬と併用することで効果が高まる。 - ステロイド(デキサメタゾン)
→ 強い制吐効果を持ち、特に急性期の悪心・嘔吐を抑えるのに有効。
薬剤師ができること
- 事前の説明が重要
→ 悪心・嘔吐は治療の初期段階で発生しやすいため、患者に「事前に防ぐことができる」ことを伝え、不安を軽減する。 - 食事の工夫をアドバイス
→ 冷たい食事や消化の良いものを摂取することで、嘔吐を抑えることができる。脂っこい食事や強い匂いのある食べ物は避けるよう助言する。 - 制吐薬の服用タイミングを指導
→ 予防的に服用することで、症状の発現を最小限に抑えることができるため、服薬のスケジュールを守ることの重要性を伝える。
2-2. 骨髄抑制(白血球減少・貧血・血小板減少)
骨髄抑制が起こるメカニズム
抗がん剤は、がん細胞の増殖を抑えるだけでなく、正常な細胞にも影響を与えます。特に、血液を作る骨髄の細胞は影響を受けやすく、白血球、赤血球、血小板の減少を引き起こします。これにより、感染症のリスク増加、貧血による倦怠感、血小板減少による出血リスクが高まります。
支持療法
- 白血球減少への対策
→ G-CSF製剤(フィルグラスチム、ペグフィルグラスチム)を投与し、白血球の回復を促す。 - 貧血への対策
→ エリスロポエチン製剤を投与し、赤血球の産生を促進。必要に応じて輸血を実施。 - 血小板減少への対策
→ 血小板輸血を行い、出血リスクを低減。
薬剤師ができること
- 感染予防策の指導
→ 白血球が減少すると感染リスクが高まるため、手洗い・うがいを徹底することの重要性を伝える。人混みを避けるようアドバイスする。 - 倦怠感やめまいに注意
→ 貧血による倦怠感やめまいが発生することがあるため、急な動作を避け、休息を十分に取るよう指導する。 - 出血リスクの注意喚起
→ 歯磨きの際に歯茎からの出血がないか確認し、怪我を避けるよう助言する。
2-3. 口内炎・味覚障害
原因
抗がん剤は口腔粘膜の細胞にも影響を与え、炎症を引き起こします。また、味覚を感じる細胞にも影響を与え、食べ物の味が変わったり、金属のような味を感じることがあります。
支持療法
- 口腔ケアの徹底
→ 殺菌性のうがい薬を使用し、口腔内を清潔に保つ。 - 亜鉛補充療法
→ 亜鉛不足が味覚障害の一因となるため、亜鉛サプリメントを適切に補給する。 - 漢方薬
→ 抗がん剤で起きる口内炎に対して半夏瀉心湯で改善がみられたという報告もある。参考UR:https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/146/2/146_76/_pdf
薬剤師ができること
- 食事の工夫をアドバイス
→ 酸味の強いものや刺激の強い食品を避けるよう指導し、冷たい食べ物を試すことを提案する。 - 口内炎の症状緩和策を伝える
→ 口の中が乾燥しやすいため、水分を十分に摂取し、口腔内の保湿を促す。
2-4. 皮膚障害(発疹・手足症候群)
皮膚障害が起こるメカニズム
抗がん剤や分子標的薬の一部は、皮膚や爪に影響を与え、発疹や乾燥、炎症、ひび割れなどの皮膚トラブルを引き起こします。特に、EGFR阻害薬(ゲフィチニブ、エルロチニブなど)は、ざ瘡様皮疹(ニキビに似た発疹)を引き起こしやすいことで知られています。また、手足症候群(ハンドフット症候群)は、手のひらや足の裏に紅斑、痛み、皮膚の剥離などが現れる副作用です。
支持療法
- 皮膚の保湿を徹底する
→ 尿素クリームやワセリンを使用し、乾燥を防ぐ。 - 炎症を抑える
→ 軽度の場合は低濃度のステロイド外用薬、中等度以上の場合は医師の指示でより強力なステロイドを使用。 - 手足症候群への対応
→ 手足を保護するため、厚手の靴下や手袋を着用し、摩擦や圧迫を避ける。
→ 保湿剤を塗布し、皮膚のバリア機能を維持する。
薬剤師ができること
- スキンケアの重要性を伝える
→ 患者に対して、治療開始前から保湿を徹底するよう指導することで、皮膚障害の発生を軽減できる。 - 日焼け対策を徹底するよう指導
→ 分子標的薬の影響で皮膚が敏感になるため、SPF30以上の日焼け止めを使用し、紫外線を避けるよう助言する。 - 皮膚症状が現れたら早めに報告するよう促す
→ 炎症が悪化すると、生活の質が大きく低下するため、早めの対応が重要。
2-5. 下痢・便秘
下痢・便秘が起こるメカニズム
抗がん剤は腸管の上皮細胞にも影響を与えるため、腸の運動が過剰になったり(下痢)、逆に抑制されたり(便秘)することで、消化器症状が現れます。特に、イリノテカンは重度の下痢を引き起こすことがあり、適切な管理が求められます。
支持療法
- 下痢の管理
→ ロペラミド(止瀉薬)を適切に使用し、水分と電解質のバランスを維持する。
→ 消化の良い食事(おかゆ、うどん、バナナなど)を摂るよう指導する。 - 便秘の管理
→ 酸化マグネシウムやセンナなどの緩下剤を使用し、腸の動きを促す。
→ 食物繊維の摂取を適度に調整し、水分補給をしっかり行う。
薬剤師ができること
- 水分補給の重要性を伝える
→ 下痢による脱水を防ぐため、こまめに水分を摂取するよう指導する。経口補水液を活用するのも有効。 - 生活習慣の改善をアドバイス
→ 便秘の場合、適度な運動を勧める(無理のない範囲でウォーキングなど)。
2-6. 神経障害(しびれ・痛み)
神経障害が起こるメカニズム
タキサン系(パクリタキセル、ドセタキセル)や白金製剤(オキサリプラチン、シスプラチン)などの抗がん剤は、末梢神経にダメージを与えることがあり、手足のしびれや痛みを引き起こします。
支持療法
- 神経保護薬の使用
→ プレガバリン(リリカ)、デュロキセチン(サインバルタ)などを使用し、神経障害の症状を軽減する。 - ビタミンB12補充療法
→ ビタミンB12が神経修復に関与するため、補充することで症状を和らげる可能性がある。 - 漢方薬
→ 抗がん剤による手足の痺れについて漢方薬の牛車腎気丸で改善がみられたという報告がある。参考URL:https://www.jaog.or.jp/note/13%EF%BC%8E%E3%81%8C%E3%82%93%E8%96%AC%E7%89%A9%E7%99%82%E6%B3%95%E3%81%A8%E5%8C%BB%E7%99%82%E7%94%A8%E6%BC%A2%E6%96%B9%E8%A3%BD%E5%89%A4/
薬剤師ができること
- 冷え対策を勧める
→ 神経障害がある場合、冷たいものに触れると症状が悪化することがあるため、手袋や靴下を使用するよう助言する。 - 日常生活の工夫を提案
→ 服のボタンをマジックテープに変える、調理器具のグリップを太くするなど、細かい作業がしやすくなる工夫を提案する。
3. 薬剤師が支持療法を提供する際のポイント

3-1. 患者・家族への適切な服薬指導
がんの治療で使う薬は、決められた時間や方法でしっかり飲むことがとても大切です。しかし、「薬を飲むと副作用が出るのではないか」と不安に思う患者さんや、「つい飲み忘れてしまう」という人も少なくありません。そのため、薬剤師が患者さんや家族に分かりやすく説明し、安心して薬を飲めるようにサポートすることが大切です。
① 副作用が出る前に予防策を説明し、不安を軽減する
副作用が出る前に準備をすることの大切さ
がん治療に使われる薬の中には、「あらかじめ飲んでおくことで、副作用を抑えることができる」薬がたくさんあります。例えば、吐き気を防ぐための薬や、体がだるくなるのを軽くする薬などがあります。
もし、患者さんが「薬を飲むと気持ち悪くなるのではないか」と不安に思い、予防薬を飲まなかった場合、副作用が強く出てしまい、結果的に食事ができなくなったり、体力が落ちてしまったりすることがあります。そのため、「副作用が出てから対処するのではなく、事前に防ぐことが大切」だとしっかり伝えることが重要です。
薬剤師ができること
- 「この薬は、○○の副作用を防ぐためのものだから、決められた時間に必ず飲んでくださいね」と説明する。
- 「副作用が起こってから薬を飲むのではなく、事前に飲んでおけば、もっと楽に過ごせますよ」と伝え、患者さんの不安を減らす。
- 「お薬を飲むのを忘れないように、一緒にスケジュールを考えてみましょう」と、患者さんに寄り添った説明をする。
② 飲み忘れを防ぐ工夫をする
薬を忘れずに飲むことの大切さ
がん治療に使う薬の中には、「毎日同じ時間に飲まないと効果が弱くなってしまうもの」や、「飲み忘れると、副作用が強く出やすくなるもの」があります。そのため、「薬を忘れずに飲むこと」がとても重要です。
しかし、日々の生活の中で、「薬を飲むのをうっかり忘れてしまった!」ということは誰にでも起こります。特に、1日に何種類も薬を飲む必要がある患者さんの場合、「どの薬をいつ飲むのか」が分かりにくくなり、つい忘れてしまうことが多いです。そのため、患者さんが無理なく薬を続けられるように、飲み忘れを防ぐ工夫を提案することが大切です。
薬剤師ができること
- 「飲み忘れ防止のために、服薬カレンダーを使ってみませんか?」と提案する。
→ 服薬カレンダーとは、1日ごとに薬をセットしておけるカレンダーのことで、毎日どの薬を飲んだかがひと目で分かる便利な道具です。
→ 朝・昼・夜に飲む薬をあらかじめセットしておくことで、「あれ?今日は飲んだっけ?」という悩みを減らすことができます。 - 「スマートフォンのアラームを活用してみましょう」とアドバイスする。
→ スマートフォンのアラームを「薬を飲む時間」にセットしておくと、時間がきたときに音でお知らせしてくれるので、飲み忘れを防ぐことができます。
→ 例えば、毎日朝8時に飲む薬がある場合、スマートフォンに「お薬を飲む時間です!」というアラームを設定しておくと、忘れにくくなります。 - 「食事と一緒に飲む習慣をつける」と提案する。
→ 「朝ごはんを食べたら、すぐにお薬を飲む」「寝る前に歯を磨いたら、お薬を飲む」といった「いつも行う習慣」とセットにすることで、忘れにくくなります。
③ 家族と一緒に薬の管理をする
がん治療を受ける患者さんの中には、高齢の方や、一人で薬の管理をするのが難しい方もいます。そのため、家族の方と協力して、「みんなで薬を管理する」ことがとても大切です。
薬剤師ができること
- 「家族の方も、一緒にお薬の管理をしてあげると安心ですよ」と伝える。
→ 例えば、お薬カレンダーに薬をセットする作業を家族と一緒に行うことで、患者さんが安心して薬を飲むことができるようになります。
→ また、家族が「今日は薬を飲んだ?」と優しく声をかけることで、飲み忘れを防ぐことができます。 - 「飲み忘れが続く場合は、薬の種類や飲み方を医師と相談することもできます」と伝える。
→ どうしても飲み忘れてしまう場合は、1日1回の薬に変更できることもあるため、医師と相談するように勧める。
→ 例えば、「1日3回飲む薬」よりも「1日1回でいい薬」のほうが、飲み忘れが減ることがあります。
3-2. 他の医療従事者との連携
がん治療を受ける患者さんを支えるためには、医師や看護師、薬剤師などの医療従事者が協力して情報を共有し、患者さんの状態に合わせた適切な対応をすることがとても大切です。
① 副作用が重くなる前に、早めに報告する
がんの治療に使われる抗がん剤は、強い副作用が出ることがあります。例えば、「吐き気がひどくて食事ができない」「熱が出て体がとてもだるい」「手足のしびれが強くなって歩きにくい」といった症状が現れることがあります。こうした副作用を我慢してしまうと、どんどん症状が悪化してしまい、入院が必要になったり、治療を中断せざるを得なくなったりすることがあります。
そのため、薬剤師は、患者さんやその家族から「薬を飲んだ後に体調が悪くなった」などの相談を受けたときに、「このまま様子を見ても大丈夫な症状か、それともすぐに医師に報告した方がよいのか?」を判断し、必要に応じて医師や看護師に報告することが重要です。早めに対応することで、患者さんの負担を減らし、治療をスムーズに続けることができます。
② チーム医療を意識して、患者さんを支える
がん治療は、医師だけが治療を行うものではありません。医師は診察をして治療方針を決めますが、その後、看護師が患者さんの体調の変化を確認し、薬剤師は薬の効果や副作用について説明し、管理をサポートします。また、リハビリの専門家や栄養士など、多くの人が関わることもあります。
このように、さまざまな専門家がチームとなって支えることを「チーム医療」といいます。薬剤師は「薬の専門家」として、患者さんに適切な薬を提供し、正しい飲み方を指導したり、副作用が出たときに対応したりする役割を担っています。
例えば、患者さんが「この薬を飲むととても気持ち悪くなる」と訴えた場合、薬剤師がそれを医師に伝えれば、薬の種類を変更したり、飲み方を工夫したりすることができます。また、看護師が「患者さんが夜眠れないと言っている」と報告してくれたら、薬剤師は「この薬の副作用で不眠が出ることがあるので、夕方に飲むように変更するのはどうか?」と提案することもできます。
こうした医療チーム全員の協力が、患者さんの負担を減らし、質の高い医療をするために必要不可欠です。
3-3. 在宅がん医療におけるサポート
がんの治療は、病院だけでなく、家で受けることも増えています。「在宅がん医療」とは、病院ではなく、家で抗がん剤治療を続けたり、痛みを和らげる治療を受けたりすることを指します。家で治療を受ける患者さんが安心して過ごせるようにするために、薬剤師も重要な役割を果たします。
① 副作用が出たときの対処法を家族にも伝える
在宅で治療をする患者さんは、病院と違ってすぐに医師や看護師に診てもらうことができません。そのため、患者さん自身や家族が、副作用が出たときにどう対応すればいいのかを知っておくことが大切です。
例えば、
- 「吐き気が出たときに、どうすれば楽になるか?」
- 「下痢が続いている場合に、どんな飲み物を摂るべきか?」
- 「痛み止めを飲んでいるが、効かなくなった場合にどうすればよいか?」
といったことを事前に伝えておくことで、患者さんや家族は落ち着いて対応できます。薬剤師は、患者さんが家で安心して治療を続けられるように、副作用が出たときの対処法をわかりやすく説明することが求められます。
また、家族に対しても「何か異変があったらすぐに医師や訪問看護師に連絡することが大切です」と伝え、どのタイミングで医療機関に相談すればよいのかを事前に説明しておくことも重要です。
② 訪問看護師と連携し、継続的なケアを実施する
在宅がん医療では、訪問看護師が定期的に患者さんの家を訪れ、体調の確認や医療ケアを行います。しかし、訪問看護師だけでなく、薬剤師も「患者さんがきちんと薬を飲めているか」「副作用が出ていないか」を確認し、必要に応じてアドバイスを行うことが大切です。
例えば、
- 「薬が飲みにくくなっている」→ 飲みやすい形の薬に変更できるか医師と相談する
- 「便秘や下痢が続いている」→ 食事の工夫や服薬タイミングを提案する
- 「痛み止めを使っているが、効果が不十分」→ 医師と相談し、別の鎮痛薬を検討する
このように、薬剤師が積極的に関わることで、患者さんの生活の質(QOL)を向上させることができます。
さらに、訪問看護師と連携することで、患者さんの状態をより細かく把握し、適切な対応ができるようになります。例えば、「患者さんが夜眠れなくて困っている」と訪問看護師から情報を得た場合、薬剤師が「眠りやすくなる工夫」を提案することができます。これにより、患者さんがより快適に過ごせるようになるのです。
4. まとめ

抗がん剤治療に伴う副作用は適切な支持療法を提供することで軽減できるものが多いです。薬剤師として、
✅ 副作用管理の知識を深め、患者に適切な情報を提供する。
✅ 医療チームと連携し、患者の負担を軽減する。
✅ 服薬指導を通じて、治療継続をサポートする。
ことが求められます。薬剤師の積極的な関与により、患者のQOL向上に大きく貢献できます。今日から実践できるポイントを意識し、よりよいケアを提供していきましょう!
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