新人薬剤師だった頃、仕事で注意されるたびに落ち込んでいました。
「また自分だけできなかった」
「周りの薬剤師は普通にできているのに、なぜ自分にはできないのだろう」
注意されたのは仕事上の行動についてだったはずです。それでも当時の私は、自分という人間そのものを否定されたように受け取っていました。
薬の知識は足りない。薬歴はなかなか終わらない。十分に休憩を取れない日もあり、残業は職場全体で当たり前のようになっていました。
心にも時間にも余裕がないなかで厳しい言い方をされると、「今回の対応がよくなかった」ではなく、「自分は薬剤師に向いていない」と考えてしまったのです。
あれから12年、薬剤師として働いてきました。
今でも、すべての薬について即答できるわけではありません。ミスへの不安がなくなったわけでもありません。
それでも、新人時代とは変わったことがあります。
わからないことを質問できるようになり、質問する前にどこまで調べればよいかも少しずつわかるようになりました。注意されても必要以上に自分を責めず、ミスを個人の注意力だけでなく、手順や仕組みの問題として考えられるようにもなりました。
今、新人薬剤師として悩んでいる方に伝えたいことがあります。
新人時代の評価だけで、自分の薬剤師としての将来を決めなくてよいということです。
新人薬剤師だった頃、何がつらかったのか

新人時代は、仕事のほとんどに自信がありませんでした。
大学や国家試験で薬について勉強したはずなのに、実際の処方箋を前にすると、わからないことばかりでした。
患者さんから質問を受けても、すぐに答えられない。処方意図を十分に理解できない。先輩薬剤師が当たり前のように話している内容についていけない。
そのたびに、自分の知識不足を突きつけられているように感じていました。
知識が足りず、何を聞かれても怖かった
新人薬剤師だった頃は、患者さんに質問されることが怖く感じられました。
知らないことを聞かれたらどうしよう。間違ったことを説明したらどうしよう。先輩に確認したら、そんなことも知らないのかと思われるのではないか。
そんな不安があり、患者さんの前に立つだけで緊張していたように思います。
今振り返ると、大学で学ぶ知識と、現場で患者さんに合わせて使う知識は同じではありません。
薬の名前や作用機序を知っていても、患者さんの生活背景や併用薬、検査値、服薬状況を踏まえて説明するには経験が必要です。
新人のうちから、すべてを知っているはずがありません。
しかし当時の私は、「新人だからわからなくても仕方がない」とは思えず、「薬剤師なのだから答えられて当然」と考えていました。
薬歴が終わらず、仕事に追われていた
薬歴を書くことにも時間がかかっていました。
何を記録すればよいのかわからず、一つの薬歴を書くのに悩み続ける。日中に終わらなかった薬歴が残り、業務後もパソコンに向かう。
周囲が仕事を終えていくなかで、自分だけが取り残されているように感じることもありました。
新人だったため、仕事に時間がかかっていたのは事実です。
ただ、休憩を十分に取れず、残業が職場全体で常態化していた環境では、心と体の余裕を保つこと自体が難しかったとも思います。
疲れているから集中できない。仕事が遅くなる。さらに薬歴が残る。そしてまた自分を責める。
当時は、その悪循環に気づくことができませんでした。
「仕事が終わらないのは、自分の能力が足りないからだ」
そう考え、職場の業務量や人員体制、休憩を取りにくい環境については、ほとんど疑問を持っていなかったのです。

人間関係に気を遣い、質問できなくなった
人間関係も大きな負担でした。
わからないことがあっても、忙しそうな先輩には声をかけにくい。同じことを聞いたら怒られるのではないか。質問したときに嫌な顔をされたらどうしよう。
薬剤師の仕事では、わからないまま進めることの方が危険です。
それでも、職場の空気や相手の機嫌を気にしてしまい、質問をためらうことがありました。
注意されること自体が必要な場面もあります。薬剤師は患者さんの安全に関わる仕事です。確認不足や間違いがあれば、指摘を受けなければなりません。
一方で、仕事上の行動を注意することと、相手の人格まで否定するような伝え方をすることは別です。
厳しい言い方をされるたびに、当時の私は「この対応がよくなかった」とは考えられませんでした。
「自分は何をしても駄目だ」
「自分だけが仕事をできていない」
「薬剤師になるべきではなかったのではないか」
そこまで考えてしまっていたのです。
一番つらかったのは、自分の価値まで否定されたように感じたこと
知識が足りないことも、薬歴が終わらないことも、長時間働くこともつらいものでした。
しかし、一番つらかったのは、仕事上の失敗と自分自身の価値を切り分けられなくなっていたことです。
仕事で注意される。
その出来事を、
「確認方法を変えよう」
「次はここに気をつけよう」
と受け止めるのではなく、
「自分は駄目な人間だ」
と受け止めていました。
今なら、仕事上の課題と人間としての価値は別だとわかります。
確認が足りなかったなら、次の確認方法を考える必要があります。知識が足りなかったなら、何を調べるべきか整理する必要があります。
しかし、それは自分という人間に価値がないという意味ではありません。
新人時代は、一つの失敗が薬剤師人生のすべてのように感じられることがあります。
けれども、一度の失敗や、その職場での評価だけで、その後の薬剤師としての将来が決まるわけではありません。

12年働いた今、新人時代の自分に伝えたいこと

12年働いた今でも、わからないことはあります。
初めて見る処方や、判断に迷う場面もあります。ミスをしたくないという不安も、今なお薬剤師として働く自分についてまわっています。
それでも、新人時代とは不安への向き合い方が変わりました。
わからないことを、すぐに質問できるようになった
新人時代は、質問することを能力不足の証明のように感じていました。
今は、わからないまま進めるよりも、確認する方が患者さんの安全につながると考えています。
薬剤師として大切なのは、すべてを知っていることではありません。
自分の知識だけで判断できないと気づき、立ち止まり、必要な相手へ相談することも大切な能力です。
質問することは、迷惑をかけることではありません。
わからないことを放置せず、患者さんにとって安全な判断をしようとする行動です。
もちろん、いつでも何でも人に聞けばよいというわけではありません。
だからこそ、次の変化も大きかったと思います。
質問する前に、どこまで調べればよいかわかるようになった
経験を重ねるうちに、質問する前に何を確認すればよいかが少しずつわかるようになりました。
添付文書を確認する。医薬品インタビューフォームを見る。患者さんの年齢や腎機能、併用薬、これまでの経過を整理する。
そのうえで、
「ここまでは確認しましたが、この部分の判断に迷っています」
と質問できるようになりました。
新人時代の私は、何がわからないのかさえ、うまく説明できないことがありました。
それも経験不足の一つだったのだと思います。
質問の仕方も、最初から身についているものではありません。何度も調べ、相談し、教えてもらうなかで少しずつ身につけていくものです。
注意されても、必要以上に自分を責めなくなった
今でも注意を受ければ落ち込むことはあります。
自分の確認不足に気づけば、反省もします。
ただ、新人時代のように、一つの失敗から「自分は薬剤師に向いていない」とまでは考えなくなりました。
指摘されたのは、あくまでそのときの行動や判断です。
改善すべきところは改善する。しかし、それによって自分のすべてが否定されたわけではない。
この切り分けができるようになったことは、薬剤師として働き続けるうえで大きかったと思います。
仕事上の失敗を軽く考えるわけではありません。
必要以上に自分を責め続けても、次の安全にはつながりにくいということです。
反省と自己否定は、同じではありません。
ミスを個人の注意力だけでなく、手順や仕組みから考えるようになった
新人時代は、ミスや見落としがあると、
「次からもっと気をつけよう」
と考えていました。
もちろん、注意することは必要です。
しかし、人の集中力には限界があります。「気をつける」だけでは、同じ状況で再びミスが起こる可能性があります。
今は、ミスやヒヤリハットがあったときに、個人の注意力だけの問題として考えないようになりました。
なぜ見落としたのか。
確認する順番に問題はなかったか。
業務が一時的に集中していなかったか。
似た名称や似た包装による影響はなかったか。
質問や相談をしやすい環境だったか。
ダブルチェックの方法を変えられないか。
手順や仕組みを見直すことで、同じミスが起きにくい環境を作れないかを考えます。
ミスをした人だけを責めても、安全な職場にはなりません。
個人の責任を曖昧にするのではなく、個人の注意だけに頼らない仕組みを作ることが必要なのだと思います。
ミスへの不安は、今もなくなっていない

12年働けば、ミスが怖くなくなるわけではありません。
むしろ、経験を重ねるほど、薬剤師の判断が患者さんに与える影響や、見落としが起きたときの怖さを知ることもあります。
今でも、調剤や監査、服薬指導で間違いがなかったか不安になることがあります。
ただ、新人時代との違いは、不安をそのまま「薬剤師に向いていない」という結論へつなげなくなったことです。
不安を感じたら確認する。
一人で判断できなければ相談する。
ミスが起きたら、自分を責め続けるのではなく、原因と再発防止を考える。
ミスへの不安を完全になくすのではなく、安全な行動へ変える方法を少しずつ覚えてきました。
不安があることと、薬剤師に向いていないことは同じではありません。
慎重になる気持ちは、患者さんを守るために必要な感覚でもあります。
ただし、不安が強すぎて何度確認しても安心できない、仕事を終えても頭から離れない、眠れないほど自分を責め続けるという状態であれば、一人で抱え込まないことも大切です。
つらさの原因を、すべて自分の能力不足にしなくてよい

新人時代の私は、薬歴が終わらないことも、休憩を取れないことも、残業が続くことも、自分の能力不足が原因だと考えていました。
確かに、経験を積むことで仕事が早くなる部分はあります。
薬の知識が増え、処方の見方がわかり、薬歴に何を残すべきか整理できるようになれば、以前よりも業務は進めやすくなります。
一方で、個人の努力だけでは変えられない問題もあります。
休憩を十分に取れない状態が続いている。
残業が職場全体で常態化している。
質問すると嫌な顔をされる。
新人に過度な責任を負わせる。
安全よりも業務の速さが優先される。
人格を否定するような指導が行われる。
こうした問題まで、すべて新人薬剤師の能力不足として片づける必要はありません。
つらさを感じたときは、原因を次の3つに分けて考えてみてください。
経験を積むことで改善しやすいこと
薬の知識、調剤や監査の速度、服薬指導、薬歴の書き方などは、経験によって少しずつ改善する可能性があります。
最初から完璧にできる必要はありません。
昨日より一つ理解できたことがあれば、それも成長です。
相談や工夫によって改善できること
質問する相手がわからない、教わる内容が人によって違う、業務が一人に偏っているといった問題は、上司や教育担当者へ相談することで変えられる可能性があります。
質問の仕方や確認方法を工夫することで、働きやすくなることもあります。
自分一人では変えにくい職場の問題
慢性的な人手不足や長時間労働、休憩を取れない体制、人格否定を伴う指導などは、新人一人の努力で解決することが難しい問題です。
その場合、頑張り続けることだけが正解ではありません。
上司へ相談する、配属や店舗の変更を希望する、信頼できる人へ話す、外部の相談先を利用する、ほかの職場について調べる。
環境を変えることも、薬剤師として働き続けるための選択肢です。

新人時代の評価だけで、自分の将来を決めなくてよい
新人の頃は、目の前の職場が薬剤師の世界のすべてのように感じられます。
その職場で仕事が遅ければ、自分はどこへ行っても仕事ができないと思う。
先輩とうまく関係を作れなければ、薬剤師として働くこと自体が向いていないと思う。
失敗して注意されれば、自分には価値がないように感じる。
しかし、一つの職場での評価が、その人の薬剤師としてのすべてを表すわけではありません。
薬剤師に必要な力も一つではありません。
仕事を早く進める力だけでなく、丁寧に確認する力、患者さんの話を聞く力、わからないことを放置しない力、周囲と協力する力、問題を仕組みから考える力もあります。
新人時代には気づかなかった自分の強みが、経験を重ねるなかで見えてくることもあります。
成長の速さも人によって違います。
新人の数か月や一年だけを見て、自分の薬剤師としての将来を決める必要はありません。
12年前の自分へ伝えたいこと
12年前の自分に伝えられるなら、こう言いたいと思います。
注意されたことと、人間としての価値は別だよ。
薬歴が終わらないのは、今の自分に経験が足りないからかもしれない。でも、仕事量や職場の環境まで、すべて自分の責任にしなくていい。
わからないことを質問するのは、恥ずかしいことではない。わからないまま進めないことも、薬剤師として大切な判断だよ。
ミスが怖い気持ちは、12年後も完全にはなくなっていない。
それでも、確認する方法や相談の仕方、同じミスを繰り返さないための考え方は少しずつ身につく。
今の職場で注意されたことや、新人時代の評価だけで、これからの薬剤師人生が決まるわけではない。
そして、頑張り続けることだけが正解でもない。
学ぶこと、相談すること、少し休むこと、環境を見直すこと。そのすべてが、自分らしく働くための選択肢です。
今つらい新人薬剤師の方へ

明日から完璧に働こうとしなくても大丈夫です。
今日わからなかったことを一つ調べる。
迷っていることを一つ質問する。
注意された内容を、自分の人格ではなく、改善できる行動として整理する。
それだけでも、薬剤師として前に進んでいます。
そして、今感じているつらさを、
- 経験を積めば改善しそうなこと
- 相談や工夫で変えられそうなこと
- 自分一人では変えにくい職場の問題
の3つに分けてみてください。
すべてを自分の能力不足として抱え込む必要はありません。
新人時代の評価だけで、自分の将来を決めなくてよい。
12年間働いた今、あの頃の自分と、同じように悩んでいる新人薬剤師の方へ、一番伝えたい言葉です。



コメント