はじめに:2025年の薬剤師転職市場を俯瞰する

現在、薬剤師の有効求人倍率は3.41倍(令和5年度)と、まだまだ売り手市場といえます。しかし数年前に比べると倍率は徐々に下がっており、特に都市部では求人の取り合いが起きている状態です。一方で、地方では今も薬剤師不足が深刻で、地域によって状況が大きく異なります。
こうした背景のなか、「病院で働くか、調剤薬局で働くか」という選択は、薬剤師のキャリアに大きな影響を与えます。どちらが“良い・悪い”ということではなく、自分の価値観やライフスタイルに合った職場を選ぶことが重要です。
1. 勤務時間と働き方の違い

まず、転職を考える際に多くの薬剤師が気にするポイントが「勤務時間」です。病院と調剤薬局では、勤務時間に以下のような違いがあります。
病院薬剤師の場合
病院は、入院患者がいるため24時間体制で薬剤師が稼働している施設も多くあります。そのため、夜勤や当直のあるシフト制を採用している病院も多いです。特に急性期病院や大学病院では、夜間・休日の勤務が必要になることがあります。
ただし、夜勤手当や特殊勤務手当などが加算されるため、収入面ではプラスに働くこともあります。
一方で、シフトが不規則になるため、家族との時間や自分のライフスタイルとの調整が難しいと感じる人もいます。
調剤薬局薬剤師の場合
調剤薬局では基本的に日勤中心の勤務が多く、9時〜18時や10時〜19時など、比較的一定の時間で働けます。土日休みの職場も多く、ワークライフバランスを重視する人にとっては働きやすい環境です。
ただし、クリニックに隣接した薬局などでは、診療時間に合わせて19時や20時まで営業していることもあるため、職場によっては遅番がある場合もあります。
年収・福利厚生を最新データで比較

薬剤師として働く上で、やはり気になるのが「年収」の違いです。薬剤師全体の平均年収は、令和6年賃金構造基本統計調査によると599.3万円とされています。病院薬剤師の年収は20〜30代は低めですが、勤務歴が長なって役職がつくと年収が高くなるため、生涯年収にすると調剤薬局やドラッグストアとそこまで差がありません。病院薬剤師は、長く勤められるかが生涯年収を考えたときには重要な要素となります。
職場 | 平均年収 | 補足情報 |
---|---|---|
病院 | 約569万円 | 夜勤手当や役職によっては上振れも可能 |
病院(国立) | 約627万円 | 国家公務員扱いで待遇が安定 |
調剤薬局 | 約577万円 | 地域差・規模差が年収変動が大きい |
ドラッグストア併設薬局 | 約500〜700万円(企業や職責などで変動) | OTC販売や店舗管理で年収アップも |
補足ポイント
- 初任給は調剤薬局の方が高いことが多いですが、病院では夜勤や資格手当が加算されるため、長期的には逆転するケースもあります。
- 国立病院や公的機関では年収が高めで安定しており、福利厚生も充実している傾向があります。
- 調剤薬局では、住宅手当・引越し補助などの制度を活用すれば手取り以上のメリットを得られるケースもあります。
仕事内容の違い:専門性 vs. 幅広さ

病院薬剤師の仕事内容
病院では、注射薬の調製や無菌調製、抗がん剤の混注、TDM(治療薬物モニタリング)など、より高度で専門的な業務を担当することが多くあります。
また、多職種(医師・看護師・管理栄養士など)との連携が求められ、カンファレンスやチーム医療に参加する機会も多いため、臨床スキルを深めたい人にとっては非常に魅力的な職場です。
調剤薬局薬剤師の仕事内容
一方、調剤薬局では患者との距離が近く、生活背景まで踏まえた服薬指導が可能です。特に高齢者が多い地域では、在宅訪問や服薬支援、生活環境の把握など、地域密着型の支援が重要な役割になります。
また、2024年の改正薬機法によって「オンライン服薬指導」も拡充され、今後はテレファーマシーなど新たな働き方も広がっていくことが期待されています。
キャリアパスの違い:どんな未来が描けるか?

病院薬剤師のキャリア
- 専門・認定薬剤師(がん、感染、栄養、緩和ケアなど)を目指して臨床スキルを高めることができます。
- 薬剤部長や医療安全管理責任者など、管理職ポジションも明確に用意されています。
- 一部では、大学病院勤務を経て製薬企業のDI職(情報提供)やMSL(学術担当)に転職するケースもあります。
調剤薬局薬剤師のキャリア
- 調剤薬局では店舗管理薬剤師からエリアマネジャー、本部職へ昇格する道もあり、経営に関わるキャリア形成が可能です。
- 在宅医療の専門性を高めて独立開業する薬剤師も増えています。
- ドラッグストア併設薬局では、OTC販売やマーケティング領域に進出するケースもあります。
メリット・デメリットをまとめて比較

観点 | 病院薬剤師 | 調剤薬局薬剤師 |
---|---|---|
専門性 | 臨床知識を深めたい人に最適 | 幅広い患者に対応するスキルが身につく |
勤務体制 | 夜勤ありで不規則 | 基本的に日勤で安定 |
年収 | 公的機関では安定かつ高水準 | インセンティブや地域手当が加算されやすい |
キャリア | 認定・専門資格で臨床の道へ | 管理職や独立など多様な選択肢あり |
どちらが向いている?向き・不向きをチェック!

病院薬剤師が向いている人
- 専門性を高めたい
- 臨床現場で多職種と連携したい
- 夜勤をいとわず収入を増やしたい
調剤薬局薬剤師が向いている人
- 患者とのコミュニケーションが好き
- ワークライフバランスを重視したい
- 将来的に在宅や独立を目指したい
転職を成功させるための3つのコツ

- 自分の希望条件を整理する
「年収を重視したいのか」「ワークライフバランスが第一か」など、自分の優先順位を明確にしましょう。 - 実際の職場の情報を集める
求人票だけではわからない部分も多いため、面接での質問や見学を通じて現場の雰囲気を確認することが重要です。 - 信頼できる転職エージェントを活用する
複数のエージェントに登録すれば、非公開求人や条件交渉の代行など、転職活動の強力なサポートが得られます。
まとめ:自分に合った働き方を選ぼう

病院薬剤師も調剤薬局薬剤師も、それぞれに魅力と役割があります。大切なのは、「自分にとってどんなキャリアが理想なのか」をしっかり見つめること。
迷ったときは、薬剤師専門の転職エージェントに相談するのも一つの手です。職場の内情や年収の相場、求人の動向など、プロの視点からのアドバイスが大きなヒントになるでしょう。
参考URL
- 厚生労働省「第24回医療経済実態調査」年収データ
- 薬剤師の偏在への対応策
・薬剤師有効求人倍率
・調剤薬局平均年収

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